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たばこ塩産業 塩事業版  2009.7.25

塩・話・解・題 52 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

塩水の不思議 (1)

特徴を実験で確認

 

 夏休みに入り子供達は海に山にいろいろな催し物にと出かけ、そこで感動する体験を得て一段と成長する時期だ。夏休みも終わりに近くなると自由研究の宿題が気になってくる。理科離れが懸念されている中で、塩水を用いたいくつかの実験で科学現象に興味を持つきっかけになればと思い、休日に親子で自由研究する話題を提供しよう。併せてそれらの現象が産業の中で活用されていることも紹介する。

塩水は真水より重い

 水に塩を入れて塩水を作る。よくかき混ぜて塩が溶けないで底に残っている状態にする。このような状態の塩水は飽和食塩水である。塩の飽和濃度は温度によってあまり変わらず、常温では26%。マジックで目盛を付けたガラスコップに塩水を作るために用いた水を目盛りの所まで入れて重さを量る。同じガラスコップに目盛りの所まで飽和食塩水を入れて重さを量る。これで同じ容量(容積)の水と飽和食塩水の重さを量ったことになる。重さを比べてみると飽和食塩水の方が1.2倍ほど重いはずだ。これが飽和食塩水の比重で、水の比重1に対して飽和食塩水の比重は1.2となる。

 大き目のガラスコップに卵を入れて、その中にコップの半分くらいまで水を入れる。卵は底に沈んだままだ。卵の比重は1.09であり当然のこと。長目のビニールチューブをロートの脚に差し込んだものを用意し、ビニールチューブを卵の入ったコップの底に差し込む。ロートから静かにゆっくりと飽和食塩水を注ぎ込む。すると卵は次第に底から離れて飽和食塩水と水との境目に浮いてきて、全体的には中間部分に留まる。 

 塩水の比重が大きいことを産業上利用した技術は種籾の選別。塩水で浮く実入りの悪い籾を除き、良く実の入った沈む籾を選ぶ。試験段階であるが太陽熱を蓄熱して回収利用するソーラーポンド技術がある。池の底に比重の重い飽和食塩水を置いてそこを加熱する。温度が上昇しても比重が重いため表面に対流することなく、底部の飽和食塩水に蓄熱できる。

自然現象では北大西洋で海水が冷凍濃縮され、比重が重くなった海水は沈み込み、海洋深層水となって地球を流れ巡って行く出発点となっている。

塩水は電気を通す

 ガラスコップに水を入れ、図1に示すように乾電池を直列につないで(乾電池の数が多いほど電圧が上がり実験し易くなる)両端から導線を出し、途中に豆電球を設置する。水に浸ける導線の先端1cmほどの被覆を剥がしておく。導線を接触させると、電球が点く。離すと消える。これは水が電気を通しにくく、電流が遮断されることを表している。

塩水の通電実験

 ここに飽和食塩水を少し加えると、導線が離れていても電球は点く。つまり、塩水は電気を通す。塩水の中では塩が溶けて、塩の成分であるナトリウム元素がナトリウム・イオン(+に帯電した陽イオン)に、塩素元素が塩化物イオン(−に帯電した陰イオン)に分かれて存在しており、イオンが電流を運ぶからだ。イオンが多いほど良く電気を通すので、電球は明るくなる。しかし、その状態で導線を離していくと、電球は次第に暗くなりついには消えてしまう。つまり電流は流れなくなる。電流が流れる経路が長くなると、その間の抵抗が大きくなるので電流は流れにくくなるからだ。電流が流れるようにするにはもう一つ乾電池を直列につなぐ。こうすると電圧が高くなるので、電流が流れるようになる。ちょうど細い管を通して水を流すと、高いところから流すほど水は勢いよく流れ、高さ(電圧に当たる)が足りなくなると水は流れなくなることと似ている。

 電球が点いて電流が流れているとき、塩水に浸かっている導線の先端を良く見ると、小さな泡が出ていることに気付く。これは陰極から出ている水素ガスだ。磁石の+極(陽極)と−極(陰極)が引き合うように、塩水中の+に帯電しているナトリウム・イオンは陰()極に引き寄せられ、そこで水が分解して出来る水酸化物イオンと結合して水酸化ナトリウム(カ性ソーダ)となり、一方の水素イオンは水素ガスとなる。−に帯電している塩化物イオンは陽極に引き寄せられ塩素ガスとなる。このような状態は、食塩水が電気分解されていることを表している。

導線の先端を接触させると塩水を通しての電流の流れはなくなるので、電気分解は起こらず、泡も出なくなる。

食塩水を電気分解してカ性ソーダと塩素、副産物として水素を製造する工業がソーダ工業。カ性ソーダと塩素から様々な数多くの工業製品が作られるので無機化学の基幹工業となっている。つまり塩水は一大基幹化学工業の原料だ。

 同じ溶液でも砂糖水は電気を通さない。これは水に溶けている砂糖がイオンになっていないからだ。水はH2O(HOHとも書ける)で表され、OH(ヒドロキシ基)を持っており、砂糖も同じ基を持っていることから水と親和性がある。砂糖が水に溶ける理由がこれだ。アルコールが水と混ざる理由でもある。油にはこの基がないので疎水性となり、水とは混ざらない。

イオン交換膜電気透析法による製塩

 海水中の主成分は食塩である。海水は約3%の薄い食塩水とも考えられ、それを1820%の濃い食塩水にするのがイオン交換膜電気透析法。このように薄い溶液を濃い溶液に濃縮できるのは食塩の成分が溶液中でナトリウム・イオンと塩化物イオンになっているからだ。「塩水は電気を通す」のところで述べたように、直流電流を流せば磁石の原理で陽イオンは陰極に、陰イオンは陽極に向かって移動する。この時、陽イオンだけを通す性質を持った特殊な陽イオン交換膜、陰イオンだけを通す性質を持った特殊な陰イオン交換膜を交互に並べてイオンの移動を遮り、一部屋置きに海水を流すと、海水中の食塩成分を集めることができる。その様子を図2に示す。イオン交換膜と電気を使って海水から食塩を濾し取るようなものである。同じ原理で醤油から食塩を濾し取って食塩濃度を半分にした物が減塩醤油。

 前に食塩水を電気分解するソーダ工業に触れたが、実はここでもイオン交換膜を使う。しかし、ナトリウム・イオンと塩化物イオンを分けるだけであるので、ナトリウム・イオンを通す陽イオン交換膜だけしか使わない。

 塩水の特徴から現れる現象を実験で確かめ、その特徴を利用した工業を紹介した。次回でも引き続き他の工業や利用法を紹介する。

イオン交換膜電気透析法の原理