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たばこ塩産業 塩事業版  2008.4.25

塩・話・解・題 37 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

栄養調査に求められる様々な解析と議論

アメリカにおける全国健康・栄養調査を巡る議論より

 

 先に国民栄養調査に対するデータ解析の取組みがほとんどないことを指摘した。それに引き換えアメリカの全国健康・栄養調査ではデータ解析がされ、ミネラル摂取量と高血圧を始めとするいくつかの疾患との関係を明らかにして発表している。この度は3年ほど前のアメリカ高血圧学会誌にTownsendらが発表した新しい結果と提案に対する減塩論者の指摘とそれに対して発表者が応えた内容の概略を紹介する。

アメリカにおける全国健康・栄養調査 NHANES

 全国健康・栄養調査はアメリカで1971年から毎年行われているNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)のことで、調査期間によってNHANEST(1971-1975年に実施された調査)、U(1976-1980年調査)、V(1989-1991年調査)、W(1991-1994年調査)などと呼ばれている。栄養摂取量については24時間食事思出法で算出された。

個別に対応すべき 高血圧管理

 高血圧症には、原因が分からない本態性高血圧(一次性高血圧)とホルモン異常や血管異常などによると原因が判っている二次性高血圧がある。
  しかし、高血圧症のほとんどは本態性高血圧で、この原因には遺伝をはじめいろいろな要因とその組み合わせが考えられており、食塩の過剰摂取もその一つとされている。
 高血圧治療ガイドライン2004では成人の血圧値によって表1のように分類している。これに対してTownsendらは高血圧を表2のように新しく分類して、NHANES VとWの結果を解析した。
  それによると収縮期(最高血圧)高血圧者は高血圧者の約60%を占め、高齢者に多かった。拡張期(最低血圧)高血圧者はほとんど女性であった(86)。収縮期高血圧者ではミネラル(カリウム+カルシウム+マグネシウム)摂取量が有意に低かった。収縮期高血圧者では正常血圧者と比べてNHANES V、Wともナトリウム摂取量が有意に低かった。拡張期高血圧では正常血圧者と比べてナトリウム摂取量が有意に高かった。両側高血圧者の栄養摂取パターンは正常血圧者と同じであった。両側高血圧者と拡張期高血圧は正常血圧者や収縮期高血圧者と比較して肥満であった、といった内容である。

表1 成人における血圧値の分類

分類

収縮期血圧 拡張期血圧

至適血圧

120 かつ <80

正常血圧

130 かつ <85

正常高値血圧

130139 または 8589

軽症高血圧

140159 または 9099

中等症高血圧

160179 または 100109

重症高血圧

180 または 110

収縮期高血圧

140 または <90

表2 Townsendらの分類

   

収縮期血圧または拡張期血圧

収縮期高血圧

140

拡張期高血圧

90

両側高血圧

140 かつ >90

これらの結果から次のような考察を行っている。ミネラル(カルシウム、カリウム、マグネシウム)摂取量不足は心臓血管疾患の危険性を増加させる血圧上昇(収縮期高血圧)を一番良く予測できる食事パターンである。
  これは30年間のNHANES調査で変らず、酪農製品、果物、野菜の摂取量が低いからである。このことは、DASH(食事による高血圧予防)試験の結果からミネラル摂取量が血圧のコントロールに重要であることと一致している。
  高血圧を予防し管理する唯一の栄養問題として減塩することをこれまで食事ガイドラインで続けてきた。
  しかし、最初のNHANES調査の解析で、アメリカ成人間の横断的な調査では食事からの高い食塩摂取量は高血圧とは関係ないことを第一に述べ、その後他の研究者も同じことを述べている。どの分類の高血圧になるかは食事パターンによって変るらしい。血圧に及ぼす食塩の影響は肥満した拡張期高血圧者に限られた。このような高血圧者では減塩が有効であろう。   新しく診断された収縮期高血圧者の60%は食塩抵抗性であり、これは高血圧者の血圧分類について報告されている食塩感受性の典型的な分布と一致している。すなわち、60-70%が食塩抵抗性で、30-40%が食塩感受性である。

◇          ◇          ◇

結論として、この研究結果は高血圧の予防・管理とこれからの研究動機についていくつかの重要な影響を及ぼす。
  明らかに将来の高血圧管理ガイドラインの発展は個別の患者に対応したものであるべきで、高血圧発症が増加する危険性を持つグループや総ての血圧分類に均一に適応できるものではない。
  特に収縮期高血圧者に対して栄養摂取量の実質的な差を明らかにするよう介入試験をすべきである。

減塩論者からの指摘

 減塩を強く主張するイギリスの学者Heらのグループは上記の論文に対して次のように指摘している。
 TownsendらによるNHANES VとWの解析では、拡張期高血圧者だけに食塩摂取量が血圧に関係しており、両側高血圧者では関係なく、収縮期高血圧者では逆相関があったと述べている。しかし、この主張は間違っている。なぜなら、エネルギー、総脂肪、タンパク質、炭水化物、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の摂取量は正常血圧者と比べて収縮期高血圧者で低く、低いエネルギー摂取量にもかかわらず収縮期高血圧者は肥満者である。このことは収縮期高血圧者が食事摂取量を低く報告していることを意味している。エネルギー摂取量を調整してより適切に解析すると、ナトリウム対エネルギーの比はNHANES Vの正常血圧者と比較して収縮期高血圧者と両側高血圧者で高いことが示唆された。つまり、食塩摂取量は直接的に血圧と関係していることをNHANES Vは示唆している。このように矛盾した結果が出るのはNHANESの調査が24時間食事思出法に基づいているからである。
 
Townsendらは自分達の結果を正当化するために他の研究者の研究結果と一致していると述べている。しかし、それらの研究者達の論文の試験条件が短期間の急激な減塩で比較するには不適当であり、長期間でもわずかな減塩しか達成されていないので、減塩で有意な血圧低下がなかったのは当然である。また、最近の報告を無視している。つまり、1ヶ月以上の中程度減塩試験では、高血圧者と正常血圧者で有意に大きな血圧低下を示している。この場合、減塩に対して投与量応答(減塩に応じた血圧低下)が見られた。
 DASH試験に触れて、酪農製品、果物、野菜からのミネラルの多い食事は食塩摂取量とは関係なく、総てのグループ間で均一な血圧低下を示すとしているが、最近のDASH-ナトリウム試験では低塩とDASH食の組合せで最大の血圧降下が示された。
 食習慣を変更して減塩すべきである。食塩摂取量の約80%は加工食品、給食、レストラン、ファーストフードから来ている。味覚に検知されないで食品加工技術には何の問題もなく1020%減塩できる。これを12年間間隔で反復すると、5年以内にイギリスの食塩摂取量は約6 g/日ほど減らされる。これにより脳卒中と冠状心疾患による死亡を年間35,000人減らされ、アメリカではもっと大きな数字になる。

Townsendらの反論

 Heらの指摘に対して論文発表者のタウンセンドらは次のように反論している。
 Heらは収縮期高血圧者が食塩摂取量を低く報告しているらしいと言いながらも、他の高血圧者グループについては何も言っていない。Heらは我々の論文を注意深く読んでいない。高血圧者や糖尿病者は解析から除いているので、収縮期高血圧者と診断されていない者が他のグループと比較して食塩摂取量を故意に低く報告するはずがない。
 Heらは、エネルギー摂取量についての調整で食塩摂取量が血圧と関係していることを示唆している。ナトリウム対エネルギー比は収縮期高血圧者で高いことを示唆するために我々は調整を行った。その結果、Na/Kcalは収縮期血圧の増加と関係しているが、拡張期血圧とは関係していないことが示唆された。
 我々の研究目的は、高血圧の分類と食事パターンが関係しているのではないかと言う仮説を提案し、食事パターンの変更によって拡張期高血圧を予防することである。しかし、Heらはその可能性を考えるよりも我々の研究をけなそうとしている。減塩はこれまで何年間もアメリカで試みてきたが、あまり成功しなかった。
 Heらは食品加工の経験をほとんど持っていないようだ。我々の著者の一人は食品工業で20年間以上働いており、いくつかの食品では食塩含有量を1020%下げることは可能であるが、味や製品のテクスチャーを大きく変えないで多くの製品について何回もの1020%の低下は不可能である。Heらは実現性のない理想的な解決策を信奉することによって非常に難しい問題を簡単に考えている。毎年あるいは半年の減塩で5年間にこの問題を解決しようと考えることは非現実的である。
 Heらはイギリス政府の減塩政策を賞賛しているが、高血圧予防には減塩中心でない方法で進めることを望む。血圧制御を改善する最も効果的な食事方法は単一のミネラルを低下することではなく、多種類のミネラルを十分に摂取することである。アメリカでは最近、DASH食を勧めている。Heらは貧しい品質の食事をしている試験の一部だけから減塩効果を選んでDASH-ナトリウム食の効果を述べている。
 NHANESでは運動量についての十分な調査がないので、今後、正確に信頼性良く調査すべきである。これにより肥満、エネルギー摂取量、高血圧との関係を一層明らかにできる。

調査結果活用のために

 以上、アメリカ政府の行った調査結果について解析した内容の報告に対して、異なる見解で批判し、指摘事項に対する発表者の反論を手短に紹介した。いずれの主張がより妥当であるかの論評は避けるが、このような全国調査結果を有効に活用するために解析報告が出され、いろいろな立場から議論されることは大変よいことである。日本の国民栄養調査についても、公衆衛生学者や疫学者は様々な観点から解析し、その結果を専門誌に発表して議論の場をつくって欲しいものである。