たばこ塩産業 塩事業版  2006.4.26

塩・話・解・題 13

 

なぜ疑問を抱かせる表示があるのか

塩の成分表示に炭水化物・エネルギーの怪

 

 塩の専売制度が廃止されてから9年経過した。食用塩の市場ではさまざまな塩が販売されている。中には消費者に誤解を与える表示の商品もある。消費者保護の立場から適正な表示にすべく業界内で話し合いが行われていることは結構なことで、本紙でも再々報道されている。それらの表示は自然、天然、ミネラル・リッチといったことについてであるが、ここで取り上げる問題は、塩の成分分析値に炭水化物、エネルギーが表示されていることである。どうしてこのような疑問を抱かせる表示になるかについて解説する。

栄養表示基準での分析誤差に伴う表示

 塩の成分表示に炭水化物、タンパク質、エネルギー等の表示がある商品に気付き「オヤッ」と思ったことがあるだろうか?有機酸やアミノ酸が添加されている塩にはそれぞれ炭水化物やタンパク質が表示されており、そのグラム数に4 kcalを掛けてエネルギー表示がされている。
  これについては疑問の余地はない。例えば、ある商品にはクエン酸三ナトリウムが11.9%添加されており、塩100 g当たり糖質として8.5 gとエネルギーとして34 kcalが表示されている。クエン酸三ナトリウムのうち、73%がナトリウム以外であるので糖質8.5 gは妥当な数値である。しかし、まったく有機物がないと思われる塩100 g当たりについて炭水化物が2 gとか3 gと表示されており、それに応じてエネルギーが表示されている商品に出会うと疑問がわく。
 そこで日本食品分析センターに問い合わせた。その結果、食品として塩を分析し栄養表示基準に沿って表示する限り、分析誤差に伴いそのように表示せざるを得ない規則となっていることが判った。通常、塩には有機物がないことは自明であるので、表示にあたっては保健所の同意があれば0と表示できる、とのことであった。
 食品分析では基礎成分を分析して表示する。すなわち105℃で水分、550℃で灰分を測定し、タンパク質、脂質を個別に測定して、100%からそれぞれの分析値を差し引いて残った数値を炭水化物として表示する。塩の場合、個別成分の分析依頼があればNa, Mg, Ca, K, Cl, SO4を個別に分析して表示し、100%から水分と灰分を差し引いて残った物を炭水化物として表示する。栄養表示では有機物が0.5%未満の場合は0表示となる。
  塩の場合、各分析値を加えると100%以上になることもあるという。この規則を知って、以前に分析値を総て加えると105%位になった商品があったことに納得した。もちろん、この分析値には不審が持たれる。また、現在市販されている商品には総て加えると97%となり、3%が何なのか判らない物もあり、消費者に不審を持たれる表示がされている物もある。消費者に適正な情報を提供するには分析機関を選ぶ必要がある。

100%から水分・灰分を引いた値が

 塩の中に有機物がないにもかかわらず、栄養表示で炭水化物が表示されることになる理由は次の通りである。
 純度の高い透明な結晶の塩では該当しないが、白く濁った塩の結晶内には写真に示すように液胞と称し、液胞には母液(塩の結晶を析出させる液)が含まれている。は液胞を判りやすくイラストで示している。この母液の水分は105℃の乾燥温度では水分として測定されない。しかし、550℃の有機物灰化温度では水分が蒸発してしまい、減量した分は水分ではなく炭水化物として計測される。つまり100%から水分、灰分を差し引いた残りの値が炭水化物として表示されることになる。液胞が多ければ、それだけ多くの炭水化物として表示される。

  塩結晶内の液胞  天日塩結晶中の液胞縞模型図

     塩結晶内の液胞 (「海水資源の利用」より)
   

 また、塩に夾雑している不純物である硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムは結晶水を持っており、550℃ではそれが飛んでしまい無水物となって減量するので、その分が炭水化物として計測されることになる。結晶水に関係なくても塩化マグネシウムは高温で酸化マグネシウムに変化(焼き塩の工程)し、重量減が炭水化物として計測される原因となる。
 以上のことから純度の低い塩ほど炭水化物がなくてもあるように表示される。それが2%(100 g当たり2 g)も3%(3 g)も表示されていると、不審に思われるわけである。

消費者の不審を払拭するために
  このような場合でも、炭水化物を0表示にするため塩には基本的に有機物はなく、このような結果がでる根拠を保健所に説明して了解が得られれば0表示できる、との日本食品分析センターの説明であった。しかし、分析表示値の総和を見た場合に、不明の部分が数gあることになるので、結局、消費者は不審に思うことであろう。
  この不審を払拭するには、塩のことが良く判っている機関に塩の成分分析を依頼すれば良いことになる。そこでは塩の国際的な商取引に使用される塩試験方法に基づいて分析される。
  しかし、この分析法は食品成分の分析法としては認められていないそうである。ここに大きな問題がある。
  消費者の不審を払拭するにはこの問題を解決する必要がある。