たばこ塩産業 塩事業版 2003.02.25

Encyclopedia[塩百科] 19

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

塩専売制度廃止後の塩市場の動向

 塩専売制が完全に廃止されてから一年になろうとしている。実質的には6年前から廃止されていたが、輸入塩に対して一部数量規制があった。現在ではその規制はなくなったが新たに暫定的な関税が設定されているので、国内塩業の保護は続いている。とは言え昨年は国内製塩企業7社のうち一社が廃業した。「食品と開発」誌編集部は1月号で特殊製法塩と輸入塩の市場動向を探る記事を掲載している。これを参考にしながら塩市場の動向を考察した。

国内塩は減少傾向に食用輸入塩は大幅増

 塩専売制が廃止された1997年から各種の統計的数値は財務省に集まるようになった。財務省では大きく分類した塩種の統計値しかインターネット上で発表しないし、分類方法も変わったので、表1のデータを見ても前の統計値とは繋がらず、詳しい分析もできない。     

表1 塩の生産量、販売量、輸入量の推移 (千トン)
年  度 1988 1990 1992 1994 1996 1997 1998 1999 2000 2001 備考
国内塩 1,360 1,387 1,397 1,385 1,344 1,317 1,295 1,351 1,363 1,328 販売量
輸入塩溶解再製塩 80 80 81 84 79 74 71 73 75 75 再製量
家庭用小物商品(5kg以下) 251 232 221 207 192 178 164 165 157 150 消費量
特殊製法塩 57* 66 77 103 不明 103** 103 114 118 126 販売量
食用輸入塩 5 12 21 28 36 輸入量
備  考 専売制 専売制 専売制 専売制 専売制 自由化輸入数量制限 自由化輸入数量制限 自由化輸入数量制限 自由化輸入数量制限 自由化輸入数量制限
* 専売時代の特殊製法塩のうち、香辛調味料と加工食品用の数量を加算した値。
** 専売廃止後、財務省が発表している「真空式以外の方法により製造されたもの」と「香辛料、にがり及びごま等その他食品が混和されたもの」を加算した値。これらの値は食用輸入塩とともに財務省発表による。

雑誌社ではいろいろと企業から情報収集し、折に触れて詳しい動向を掲載分析するようになった。表1には専売廃止数年前からの販売量・消費量等を掲載した。
 国内塩は海水をイオン交換膜法で濃縮し、その後真空式蒸発缶で煮詰めて得られた塩で食塩、並塩、自主取引塩の合計値である。この塩の販売量は若干のバラツキはあるが、専売廃止の数年前と比較して現在では5%程度低下している。輸入塩溶解再製塩の低下は国内塩より大きく、10%程度低下している。さらに、家庭用小物商品(イオン交換膜製塩法で作られた食塩5kg以下の製品と、輸入塩溶解再製塩の精製塩1kg以下などの製品を合わせた量)にいたっては、専売制度下から減少し続け、その減少傾向は専売制廃止後も続き、この統計値の範囲内では約40%低下しており、歯止めがかかっていない状態である。この低下分の数量は特殊製法塩や食用輸入塩で補われていると考えてよい。
 家庭用小物商品は特殊製法塩の製品と市場で販売競合関係にある。専売制廃止後の新しい組織である財団法人塩事業センターが販売している塩は生活用塩と言われ、離島・僻地への供給、有事に備えての備蓄という民業補完の役割を担うことが法律で定められている。したがって、ある程度の数量低下は当然のことである。しかし、後に述べるように余分なエネルギーを使わなければならないことから国民経済的には一考すべきことがある。
 特殊製法塩の数量は統計値の整理上、自由化後目立った伸びを示してないが、一昨年辺りから飛躍的に伸びているのもと考えられる。専売廃止後、海水を濃縮して直接塩を製造できるようになり、最近の海洋深層水ブームもあって、地場産業の育成政策ともからんで表2に示すように特殊製法塩等製造業者が100件以上も増えてきた。ごく最近では電力会社の製塩事業参入も報じられた。
 海外からの食用輸入塩、ならびに輸入塩販売業者の伸びは表1、から見てすさまじい勢いである。
専売制度下では、塩の輸入は基本的に禁止されており、わずかに特殊な塩が条件付で輸入されていた。専売廃止後は5年間の数量規制期間があっても自由に輸入販売できるようになったので、特殊用塩販売業者の数が飛躍的に増加した。

表2 製造者、卸売り業者、輸入業者増減推移  (財務省)
特殊製法塩等製造業者 卸売り業者 特定販売業者
一般用塩 特殊用塩
1997年4月1日(専売法廃止) 275 83 33 76
2002年4月1日(完全自由化) 392 52 36 1,102
2002年11月1日(現在) 399 220 206 907

その猶予期間も切れ数量規制はなくなったので輸入量はさらに増加することが考えられるが、粒径2.8 mm以下の製品については3年間の暫定的な輸入関税措置(初年度関税は塩1トン当たり3,300円であるが、毎年下がって行き4年後には500円になる)が採られているので、今しばらくは輸入量の増加は抑えられるが、基本関税の500円になる2005年度からは海外からの食用塩の種類、数量の増加が見込まれる。これにも注意すべきことがあり、後で述べる。

「食品と開発」誌の塩業界分析結果

 いろいろな観点から分析しているので、詳細は原文を見ていただくこととして、いくつかの点について紹介しよう。原文との違いは筆者が確認調査した結果である。

@完全自由化の影響

 表2から卸売り業者は完全自由化後急増し、輸入業者については一般用塩で急増、特殊用塩は自由化前に急増したものの既に淘汰が進み、減少している。
 中国からの輸入も融雪用途を中心に増加しており、当面は異物や安全性の問題から食品用途での急増はないと見られるが、品質管理体制が整い低価格で供給できるようになれば、塩蔵品の下漬け段階では中国塩を利用し、仕上げ段階では付加価値の高い塩を使うという使い分けが進むと考えられる。
 錦海塩業が廃業し、新たにソーダ業界からの参入もあり、業界再編は本格的に始まりそうだ。

A塩の安全性確保

 塩の安全性を確保するために、日本塩工業会を中心に「食用塩の安全衛生ガイドライン」などが製塩6社で定められており、重金属、一般生菌数など製品検査基準を設け、安全性の確保に努めている。塩の取り扱い申請は財務省管轄になっているが、表示については厚生労働省なのか農林水産省なのか、食の安全委員会か、宙ぶらりんの状況で、情報も錯綜している。表示・安全管理の管轄官庁が未定の現在において、塩関連会社は「完全自由化こそ自己責任、正しい情報開示を」と気を引き締めている。

B自由化による流通再編成

 特殊製法塩市場を牽引してきたのは国内のにがり添加結晶塩メーカーと国内大規模製塩企業(イオン膜製塩)の子会社である特殊製法塩製造会社であり、加えて専売廃止後に参入してきた海外の岩塩、天日塩の輸入販売業者である。
  先発の国内大規模製塩企業の子会社では、表3に示すようにこれまで以上にラインアップの強化・量販店への取り組みなど積極的な販売活動を行っている。

表3 イオン交換膜製塩7社他の特殊製法塩の取り扱い状況(2002年)
イオン交換膜製塩社他 子会社 特殊製法塩の製品名 年間需要量(トン)
新日本ソルト 旭ソルト KSL、磯の華、吟塩釜出し、エバーフロー、塩屋崎の本塩、お塩で減塩、まろやか鉄塩 約4,000
赤穂海水 赤穂ソルト開発 赤穂塩天日塩あらじお、赤穂しぶきあらじお、赤穂塩忠臣蔵、赤穂塩手塩、赤穂西浜の手塩 約5,000
鳴門塩業 オーシャン・テクノ 鳴門のあらじお、うず塩天日塩、鳴門のうず塩、しっとり塩、漬物源、漬物用うず塩、鳴門の塩、美ソルト、塩むすび、レシピの塩 約2,200
讃岐塩業 讃岐ましお 瀬戸のあらじお、瀬戸のましお、さぬきの塩、瀬讃の塩、Lady Salt 約2,500
錦海塩業(廃業) キンカイ特殊塩 昔塩シリーズ、昔あら塩、さらさら塩、ヘルシーソルト 約2,800
ナイカイ塩業 日本家庭用塩 瀬戸のほん塩、瀬戸のほん塩焼塩 約8,200
ダイヤソルト 菱塩 いそしお、五島灘の塩、ふんわりいそしお、いそしおプラス、いそしおサラサラ、いそしお鉄入り、五島灘の塩鉄入り 約8,000
日本食塩製造(輸入塩再製) 日本精塩 天日塩やき塩、粒塩、クリスタル塩、ドライ天日塩、日精の天日塩、波の華、プロソルト 約17,000

 完全自由化を前に再編・統廃合を繰り返してきた塩元売業も厳しい環境が続いている。関東エリアの元売業が集結したジャパンソルト、ジャパンシーズニング、東京ソルト、関西エリアではソルト関西などいくつかの企業では、独自の商品の輸入、流通・販売先のニーズへのきめ細かい対応を前面に打ち出し、提案型の営業を目指している。
 そんな中、食系の卸店も塩事業に注力しており、取り扱い加工食品同様の提案を小売店に行ったり、自社PB(自社製品)したり、大手問屋はスケールメリットを活かしたビジネスに塩を取り込んでい

Cその他

 加工用・業務用向け製品や小売向け製品の市場動向で新しい動きを紹介している。
  最後に特殊製法塩メーカー・輸入塩サプライヤーの動きについて主だった会社の動向を解説してい
る。

課題の製塩エネルギー負担が大きい平釜塩

 海水からの製塩には莫大なエネルギーが必要であり、その昔、ヨーロッパでは燃料用の木材の手当てに苦労した。そのため、風力でかん水を立体的濃縮する技術が15世紀に開発され(日本では20世紀中ごろから利用された枝条架に近い物)18世紀に石炭の発見利用でエネルギー問題が解消された。日本でも海岸に近い森林は製塩用の燃料として伐採され山は禿山になった。
 イオン交換膜製塩法はエネルギー利用の効率化が相当高度に図られているとはいえ、海外の天日塩や岩塩を利用する製塩法に比べると割高である。いわんや海水直煮や逆浸透膜法による製塩に要するエネルギーは莫大で、エネルギー費が高い分、製品価格も高くならざるを得ない。
  塩は高いといっても消費量が僅かであるから、一般的に安い製品であると思われ一般消費者は気付きもしないが、平釜製塩法などでは莫大な原油を消費していることになる。塩の正しい情報開示が進み、塩の正しい知識が知られてくると、国民経済的に負担が大きい平釜塩は、イオン交換膜製塩法による製品や海外からの輸入塩に置換わって行くであろう。

塩の安全性に関わる食品・衛生行政

 塩の安全性については、塩専売制時代からの安全性、品質管理が徹底している国内大規模製塩(イオン膜製塩)の各社イオン膜製塩と輸入塩再製会社では、専売制度が廃止されても自主的な検査基準を設けて責任体制が確立しているので安心である。生活用塩はそのような塩を購入して販売している。国として食用塩の規格がなく、雑誌に書かれているように責任を取る監督官庁もあいまいな塩には一抹の不安がある。
 昨年、突然とも言える迅速さで食品添加物として認められた塩の固結防止剤であるフェロシアン化ナトリウムの安全性については、日本が食塩添加物として認定するに必要な安全性評価の試験データはない。しかし、CODEX(国際食品規格委員会)の諮問委員会であるJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門委員会)EU(ヨーロッパ連合)が安全性を認めているからと言って、世界基準に合わせると言う大義名分を付けて認めてしまった。かつてグローバルスタンダードに合わせることが良いことだとばかりに金融ビッグバンを行い、現在、国民は塗炭の苦しみに喘いでいる。アメリカとの金融戦争に負けたとも言われているが、食品安全・衛生行政も同じ道を歩んでいるように筆者には思われる。
 塩の内容成分に関する分析値が昨年の日本調理科学会で発表された。食用として輸入販売されている塩の中には、CODEXで決められている5種類の有害汚染物の規制値以上を含んでいる製品がある。新しいデータが学会誌に発表されれば紹介する。
 輸入数量の規制が撤廃され、関税が設定された2002年度の各種数値が確定された段階でこの記事を書くべきであるが、雑誌掲載の分析とずれることを避けるためにあえてこの段階で取り上げた。塩市場はこの2,3年で大きく変化すると思われる。これからも適宜紹介したい。