たばこ塩産業 塩事業版 2002.05.25
Encyclopedia[塩百科] 10
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
逆浸透法による海水の淡水化
今年は五月晴れのさわやかな天気が続くことが少なく、早くも梅雨に入ったようなうっとうしい天気が続いている。梅雨時には、夏場に水不足を来さないよう十分な恵みの雨をダムに貯めておく必要がある。空梅雨ともなれば、水不足の心配で悩む地方が出てくる。沖縄もその一つで、それを緩和するために350億円弱の総事業費をかけて、平成9年に逆浸透法による40,000トン/日の海水淡水化装置を北谷町に設置した。この設備を見学する機会に恵まれたので紹介したい。設置後、幸いにも水不足の事態はなく、設備がフル稼動したことはないそうである。
逆浸透法の原理
逆浸透法の原理は図1に示す通りで、セロハン紙のような半透膜(水分だけを通す孔が開いており、水に溶けている塩類は通さない膜)をはさんで水と海水を置くと、海水を薄めるように水が半透膜を通って海水に入る。海水の水面は次第に高くなり、膜を挟んでの圧力差が次第に大きくなるが、やがて水の移動が止まり平衡状態になる。この時の圧力差が浸透圧と呼ばれ、海水の場合で25気圧(水柱の高さで250 m)にもなる。海水から真水を得るには、この浸透圧以上の圧力を海水にかける。すると逆の現象が起こり、海水から水だけが半透膜を通して押し出される。逆浸透法と言われる所以である。実際には海水は脱水され塩分濃度が上がるので、浸透圧も上がるためより高い圧力が必要となり、60気圧くらいで海水濃度が2倍程度になるまで、水を搾り出す。
逆浸透膜の改善
逆浸透膜は1950年代に研究が始まり、1960年代には10〜50オングストローム(オングストロームは1ミクロンの1万分の1の長さ)の孔径を持つ酢酸セルロース膜が実用化された。高圧による膜劣化を避け、水が通る抵抗を下げるため、1970年代には図2に示すように、表面に厚さの薄い緻密な孔径を持ったスキン層を作り、それを孔径の大きな支持層で支える非対称膜が開発された。1980年代にはスキン層の材質をポリアミドにしたより緻密な複合膜が開発され、塩分排除率も99.5%くらいまで向上させ、透過水量を多くした膜になっている。
エレメントはスパイラル型
沖縄で使われている逆浸透膜エレメントは図3に示すスパイラル型である。流路材を入れて袋状にした逆浸透膜をメッシュスペーサーで挟んで海苔巻き状に成形した物である。これを6本装填したモジュールを63本集めた物が1ユニットとなっている(写真には5ユニットが示されている)。1ユニット当たりの造水量は5,000 m3/日であり、8ユニットで40,000トン/日の造水量となる。
図3 逆浸透膜エレメントの構造 沖縄県企業局パンフレットより
1m3当たり約170円 動力費が全体の33%に
沖縄県企業局の資料によると、1m3当たり約170円と試算されている。コストの中で動力費が最も高く全体の33%を占め、膜交換費は11%となっている。電力原単位は5 kwh/m3とのことであった。
1.7倍に濃縮された海水は利用されないで海生生物に影響を与えないように沖合214 mの所で拡散放流される。
沖縄に行った機会に特殊製法塩のメーカーを見学させてもらった所では、逆浸透膜モジュールを使って海水を濃縮して得たかん水から製塩していた。
逆浸透膜海水淡水化装置 沖縄企業局パンフレットより
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