たばこ塩産業 塩事業版 2002.03.25

Encyclopedia[塩百科] 8

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

海外製塩企業による激しいM&Aの動き

 日本における企業の合併・買収はかっては珍しいことであった。しかし、今や国内で生き残りをかけて、あるいは国際的に生き残りをかけて大規模な合併・買収が日常茶飯事になってきた。塩産業では1997年に塩専売制度が廃止され、5年間の経過措置も切れる時期を迎えているが、企業の統廃合による合理化は進んでいない。塩専売時代に海外から製塩企業の合併・買収ニュースが流れて来る度に、その激しさに驚いたが、遠からず塩産業界にもその波が押し寄せるであろう。海外塩産業の企業合併・買収がどのようなものであったのか、現在の状況はどのようになっているか紹介しよう。

自由化直前の製塩業界いまだ準備は完了せず

 塩専売制度が廃止されて後、この3月末で5年間の経過措置が終わる。その間、生産業界の統廃合による合理化は進まなかったが、大きな為替変動もなかったので、競争力を持てるはずであった。制度廃止に備えて準備してきたが、最終的には廃止してから準備完了させる措置を取った。しかし、新たに低価格で提供できる身近な中国塩が競争相手となっては、準備完了とは行かなくなってきた。そこで食用塩には暫定的に関税をかけ、その間に合理化を行って競争力を持てるように準備完了する措置を取ることとした。
 準備完了とするには企業の廃業、合併、買収、統合などが必要となってくる。これには一段、二段と数段必要であるかもしれない。しかし、準備完了を待つまでもなく、わずかな関税ぐらいではフリーになると海外製塩企業の動きが心配になる。かつてアメリカで1985年頃盛んに企業買収してきた製塩企業が1988年には他社に買収された。その年には特に買収が盛んであったのでその様子を調べ、工業会や社内の研修会で話したことがある。
 その後、十数年経過し、日本の製塩業界も世界の製塩業界に巻き込まれ、企業の廃業、吸収合併、買収が現実の問題となってこようとしている。国内製塩企業を維持していけるかどうか、経営権を海外企業に委ねることになるかどうか、状況判断が必要である。

欧米の企業合併・買収の歴史

地域内の合併・買収

 表1に過去30年間の欧米における製塩企業の合併・買収の歴史を示した。1970年代、80年代には北米で企業の合併・買収が盛んに行われ、買収で事業拡大を図ってきた企業が突然買収されるニュースが入り、非常に驚いた。

表1 過去30年間の企業合併・買収の歴史
1971年 カーギル社がゴーディ・ソルト社を買収
1976年 カーギル社がワトキンス・ソルト社を買収
1978年 カーギル社がオーストラリアのレスリー・ソルト塩田を買収
1979年 カーギル社がオーストラリアのレスリー・ソルト社を買収
1982年 モートン・ソルト社がモートン・チオコール社と合併
1985年 ダイヤモンド・クリスタル・ソルト社がハーディ・ソルト社を買収
1986年 モートン・チオコール社がサウスウエスト・ソルト社を買収
1987年 ダイヤモンド・クリスタル・ソルト社がソル・エアー社を買収
1988年 カナディアン・ソルト社がマインズ・セレイン社を買収
1988年 ジョージ・ハリス・グループがカーレイ・ソルト社を買収
1988年 ジョージ・ハリス・グループがアメリカン・ソルト社を買収
1988年 インターナショナル・ソルト社がダイヤモンド・クリスタル・ソルト社を買収
1989年 インターナショナル・ソルト社の社名をアクゾ・ソルト社に変更
1990年 カーレイ・ソルト社がシフト社を買収
1990年 ジョージ・ハリス・グループの製塩部門をノース・アメリカン・ソルト社とする
1992年 ジョージ・ハリス・アンド・アソシエーツ社がイギリスICI社の塩部門を買収しソルト・ユニオンを設立
1995年 フランスのサリンス・グループがスペインのユニオン・サルを買収
1997年 カーギル社が北アメリカのアクゾ・ソルト社を買収
1997年 USソルト社がワトキンス・グレンのアクゾ・ノーベルせんごう塩工場を買収して設立
1997年 モートン・インターナショナルがフランスのサリンス・グループのCSMSEを買収
1998年 IMCグローバルがイギリスのソルト・ユニオン社を買収
1998年 IMCグローバル社がIMCソルト社を設立
1998年 IMCソルト社がノース・アメリカン・ソルト社を買収
1999年 ローム・アンド・ハースがモートン・ソルトを買収
2000年 USソルト社がイギリスのブリティッシュ・ソルト社を買収
2000年 ローム・アンド・ハース社がサリンス・ヨーロッパ社を売却
2000年 ドイツのカリ・ウント・ザルツ社がオランダのフリマ社を買収
2001年 ベルギーのソルベーとカリ・ウント・ザルツでユーロピアン・ソルト社を設立
2001年 アポロ・マネジメント社がIMCソルト社を買収

国際的な合併・買収

  1990年代になると、アメリカの製塩会社がヨーロッパの製塩工場や会社を買収するようになり、アメリカがヨーロッパの塩事業を席巻するのではないか、と話題になった。ヨーロッパ域内でも国境を越えた買収が盛んに行われるようになり、買収規模も大きくなった。中でも1997年にカーギル社がアメリカのアクゾ・ノーベル社を買収したことにより、それまで1,500万トンの生産量を誇っていたアクゾ・ノーベル社の生産量は約1/3に減少した。

 

年間生産1500tの企業も 海外大手製塩企業

  最近ロスキル社から発売された「塩の経済」10編集2001年版によると、大手製塩企業の塩生産規模は表2に示すようになっている。表1によると、昨年ソルベーはドイツのカリ・ウント・ザルツ社と合併してユーロピアン・ソルト社を設立しているが、全面的な合併ではなく塩部門の一部であることから新会社の塩生産量は500万トンと報じられている。

表2 世界の主要塩生産会社
会  社 本 国 生 産 国 塩       種 生産量(千トン/年)
ソルベー ベルギー ベルギー かん水、せんごう塩 600
フランス かん水、せんごう塩 1050
ドイツ かん水、岩塩、せんごう塩 9250
イタリア 岩塩溶解採鉱 1500
ポルトガル 岩塩溶解採鉱 200
スペイン 岩塩溶解採鉱 1000
タイ 岩塩 550
合計 14150
IMCグローバル社 アメリカ カナダ 岩塩、岩塩溶解採鉱、せんごう塩 7235
イギリス せんごう塩、岩塩 2850
アメリカ 岩塩、かん水、せんごう塩、平釜塩、天日塩 5110
合計 15195
モートン・ソルト アメリカ バハマ 天日塩 1100
カナダ 岩塩、せんごう塩、平釜塩、かん水 6260
アメリカ 岩塩、天日塩、せんごう塩 5999
合計 13359
カーギル社 アメリカ オランダ領アンチル諸島 天日塩 450
アメリカ 岩塩、天日塩、せんごう塩、かん水 8743
ヴェネズエラ 天日塩 450
合計 9643
アクゾ・ノーベル オランダ オーストラリア 天日塩 2500
デンマーク せんごう塩 600
ドイツ せんごう塩 400
オランダ せんごう塩 4000
合計 7500

 大手製塩会社の生産量の変遷を、ロスキル社の1994年版からの「塩の経済」資料によって表3に整理した。IMCグローバルは買収により着実に生産量が増加していることが分かる。生産量が多いのは大抵、岩塩、天日塩、かん水であるが、せんごう塩を多く生産している会社もある。アクゾ・ノーベルは最近オーストラリアで200万トンの天日塩生産を始めたが、500万トンほどはせんごう塩である。オランダに200万トン製塩工場を2工場持っている他にドイツ、デンマークにもせんごう工場を持っている。ソルベーは約220万トン、IMCグローバルは約50万トン、モートン・ソルトはアメリカとカナダで約210万トン、カーギルは約130万トンのせんごう塩生産能力を持っている。

表3 大手製塩会社の生産量変遷 (万トン/年)
会  社  名 2001年 1997年 1994年
ソルベー 1595 1554 1680
IMCグローバル社(前のハリス・グループ) 1518 1371 1035
モートン・ソルト 1336 1695 1304
カーギル社 1264 1257 552
アクゾ・ノーベル 750 501 1471
ダンピアソルト社 750 450 450
エクスポルタドラ・デル・サル 700 700 600

 このように買収により製塩会社はますます大きくなっていく傾向にあるが、大型合併・買収になれば独占禁止法に照らして適正であるかどうかの判断がされる。

中国の塩生産量は3200t以上!?

 ところで、ロスキルの資料によると中国の塩生産量は3,200万トンとなっており、そのうちリファインドと書かれている塩が90万トン、医薬用と書かれている塩が240万トン程度ある。これらをせんごう塩とすれば合計340万トンになるが、実際にはもっと多いと思われる。また海岸や河川岸に近いところでどのくらい生産されているか不明である。
 いずれにせよ中国からの輸入と海外製塩企業からの買収という大きな危機に直面する時代に入ってきた。