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たばこ塩産業 塩事業版  2001.01.20

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

海水からできる化成品について

 

 先日、国内のある製塩メーカーさんのパンフレットをいただきました。それによると、海水から塩を作ることはもちろんですが、化成品として「臭素」や「塩化マグネシウム」「硫酸マグネシウム」なども作られているとか。「塩化マグネシウム」は何となくイメージとして分かるのですが、臭素や硫酸…となると、ヘェー、と思ってしまいます。この欄ほかでいろいろ解説されていて、イオン交換膜製塩法で作られた塩は化学塩ではないと分かっているのですが、臭素などはどのようにして作られているのでしょうか?正直なところ、「化成品」というのはイメージとして化学的に作られているという感じですが。                                           (高知県・塩販売店)

 資源の乏しい我が国は周囲を海に囲まれた島国です。海水中にはあらゆる鉱物資源が溶けており、その量は莫大であることから海水を資源化することが考えられます。しかし、濃度が非常にうすいことが致命的で、経済的にそれらを資源として取り出せるのは塩、マグネシウム、臭素ぐらいです。海水からの製塩では、副産物であるにがりを原料にしていろいろな化学反応を行わせ、反応生成物を化成品(化学合成品)として製造していますので、そのことについて述べます。

海水総合利用

 海水利用の技術は海水の潮流発電、温度差発電、波動発電、冷却といった海水エネルギーの利用、それから海水淡水化、製塩、マグネシウム化合物や臭素の製造といった資源利用などいろいろ考えられ、個別には実用化されている技術もいくつかあります。海水総合利用と言えば、一般的には海水淡水化から始まり、製塩、海水中の有用成分の分離採取のことを指します。大規模には実現されていませんが、製塩副産物であるにがり中の成分を採取することで海水総合利用的な技術があります。

にがりの成分

  塩田で海水を濃縮し、さらに煮詰めて製塩を終えた後に残るにがりの成分は大体表-1に示す組成になっております。塩(NaCl)がまだ残っていますが、マグネシウム、カリウム、臭素等があることが分かります。にがりの量は製塩量1トン当たり約500 ℓです。

表-1 塩田由来のにがり組成
成       分 g/100 g
塩化マグネシウム(MgCl2) 16.08
硫酸マグネシウム(MgSO4) 7.96
塩化ナトリウム(NaCl) 5.27
塩化カリウム(KCl) 3.07
臭化マグネシウム(MgBr2) 0.33
〈綾井、日塩誌、18, 137 (1964)〉

 海水をイオン交換膜法で濃縮して製塩する現在の方法では、できるにがりの成分がイオン交換膜の性質によって表-2に示すように少し違います。塩田由来のにがりにあった硫酸マグネシウムに代わって交換膜由来のにがりでは塩化カルシウムが入っていることが大きな特徴です。これはイオンの種類によってイオン交換膜を通り抜ける難易度が違うからです。一般的にカルシウムやマグネシウムそれに硫酸イオンのような2価のイオンは膜を通りにくく、ナトリウムやカリウムそれに塩化物イオンや臭化物イオンのような1価のイオンは通りやすいのです。イオン交換膜法では2価のイオンが通りにくいので、できるにがりの量も製塩量1トン当たり約350 ℓに減ります。

表-2 イオン交換膜製塩法によるにがり組成
成        分
塩化マグネシウム(MgCl2) 12.4~18.33
塩化ナトリウム(NaCl) 4.58~9.25
塩化カリウム(KCl) 5.43~7.55
塩化カルシウム(CaCl2) 2.01~5.43
硫酸カルシウム(CaSO4) 0.03~0.18
臭化物イオン(Br) 0.64~1.02
〈林ら、海水誌、34, 116 (1980)〉

にがりからできる製品

  にがりからできる製品としては図-1に示すようにいろいろな物があります。これは塩田由来のにがり利用でできる製品を示しておりますが、交換膜由来のにがり利用でもほぼ同じ様な製品が作られています。それらの製品を製造する一例を図-2に示しました。にがり中の成分にいろいろな化合物を加えて反応させ、目的とする製品(化成品)を作るわけです。これをにがり利用工業と言いますが、にがりの生産量が少ないので規模も小さいのが実状です。にがり利用工業の主製品と用途

イオン交換膜法製塩由来のにがり利用総合フローシート

  マグネシウム化合物や臭素の需要量はにがりから得られる量よりも多いので、海水を原料として直接製造されることもあります。臭素の製造は、図-2に示すように充填塔の上からにがりを流し、下から塩素ガスと水蒸気を吹き込んでにがり中の臭素を塩素と置き換えて、追い出された臭素ガスを凝縮液化させて臭素の製品とします。
 以上、製塩からの副産物であるにがり成分を有効利用した化成品について簡単に述べました。