たばこ塩産業 塩事業版 2000.06.25
塩なんでもQ&A
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事
橋本壽夫
イオン交換樹脂の再生にも「塩」
洗濯機の調子が悪くなり、買い換えるつもりで電気屋さんに出かけました。すると、某メーカーの製品で「PAM・イオン洗浄」をキャッチフレーズにしたものがあり、消費電力、洗浄時間、水道水(量)を大幅に節約できるとのことでした。イオン洗浄はイオンチェンジャーという装置があって、水道水中の金属イオンが除去されるとのことです。そして、イオンチェンジャーのリフレッシュに塩を使うということで、パンフレットには食塩1キロの写真が載っていました。イオン交換膜が使われているようですが、金属イオンの除去や食塩を使う理由などについて教えて下さい。 (東京都・塩販売店)
洗剤の働きは表面張力を小さく濡れやすく
洗濯物の汚れは水に溶けやすい汚れや皮膚から出る脂のように水に溶けにくい汚れ、あるいは醤油や血液のようにタンパク質による汚れ、老化した皮膚などの垢があります。
水に溶けやすい汚れは水洗いですぐ落ちますが、水に溶けない脂は、洗剤の界面活性剤(界面活性剤は水に親しむ性質と油に親しむ性質の両方を持っていますので、両面テープのように水と油をくっつける働きをして乳化液とします。)としての働きで水と混じりやすくされ、繊維からはがされてしまいます。
このように洗剤は表面張力を小さくして繊維の中に水を入りやすくしたり、濡れやすくすることにより洗浄効果を発揮します。タンパク質による汚れは、タンパク質分解酵素によって分解洗浄されるように酵素入り洗剤が開発されています。
ところが洗剤にも苦手なものがあります。それがある種の金属イオンなのです。
金属イオンが入ると洗浄効果が損なわれる
金属といえばすぐ鉄や銅を思い出します。鉄が溶けると鉄イオン(Fe2+, Fe3+)、銅が溶けると銅イオン(Cu2+)となります。
これらはもちろん、それぞれ金属イオンの一種類です。しかし、金属イオンにはその他にナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)などがあります。
中でも洗濯に用いる水にカルシウムイオンやマグネシウムイオンが入っていますと石鹸の成分と化合して泡が立たなくなり、洗剤としての洗浄効果が損なわれます。このようなカルシウムイオンやマグネシウムイオンが入っている水を硬水といいます。温泉に行ったときに石鹸の泡立ちが悪いことを経験したことがあると思いますが、その時には温泉にこれらのイオンが入っており硬水となっているのです。 でもカルシウムイオンやマグネシウムイオンがあまり入っていない泡立ちの良い軟水ではイオンチェンジャー付きの洗濯機を購入する必要はないでしょう。
イオン交換樹脂の働き
イオン交換樹脂はイオン交換基というイオンを捕まえる手を持った樹脂です。手の働きをするところは、例えば酢酸(酢)やクエン酸のような有機酸に必ずついている-COOHという記号で表されるイオン交換基です。
この-COOHは水の中ではその一部が-COO-イオンとH+イオンに分かれます。
H+イオンはNa+, K+, Ca2+, Mg2+ などのイオンと同じように陽イオンですので、これらはお互いに交換しあって-COONaになったり、-COOCaOOC-になったりします。
このイオンが交換しあう強さはそれぞれのイオンによって違います。+の数が多いほど強いのです。したがって通常ナトリウム型(-COONa)になっているイオン交換樹脂はCa2+やMg2+ イオンと交換して、つまりCa2+やMg2+ イオンを捕まえてカルシウム型やマグネシウム型になり、その代わりNa+イオンを放出するのです。
このようになると水は軟化されて石鹸の泡立ちもよく洗浄効果が良くなるというわけです。
ところがイオン交換樹脂の交換能力がなくなりますと、再び交換能力を持たせるリフレッシュ操作をしなければなりません。これを再生といいますが、イオン交換樹脂を再生させるために塩が必要となるのです。カルシウム型やマグネシウム型になったイオン交換樹脂は濃いNa濃度の塩水で洗うことによりCa2+やMg2+イオンを放出して再びナトリウム型になり交換能力を持つように再生されます。
このように塩はイオン交換樹脂再生のために使われますが、この洗濯機のように家庭用だけでなく、産業用にも大々的に使われています。
なお、ご質問にはイオン交換膜とありましたが、洗濯機で使われているイオン交換樹脂は粟粒のような小さな球状の物質で、膜状にしたものではありません。製塩では膜状にしたイオン交換樹脂が使われます。
各分野で利用されるイオン交換樹脂の機能
イオン交換樹脂の産業利用では、身近なところではボイラー給水の軟化があります。ボイラー給水中にCa2+やMg2+ イオンがありますと、煮詰められて炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウムのような結晶が出てきて熱を伝える速度を遅くしますので伝熱効率が悪くなります。それを避けるためにイオン交換樹脂で給水を軟化します。
脱塩水を作る時にもイオン交換樹脂を使います。この場合には陽イオンと陰イオンの両方を取り除くため、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の両方を使います。再生には塩ではなく塩酸やカ性ソーダを使います。
塩で再生するとナトリウム型になり交換されたナトリウムイオンが出てきますので、脱塩水とはならないからです。
塩酸で水素型にしておけば、ナトリウムと交換して水の成分である水素イオンが出てきます。
精糖でも糖液から種々の陽イオンや陰イオンを除いて精製するために陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂が使われます。その他、医薬品の精製にも使われます。
薄い貴重な希少金属が溶けている溶液からそれらの金属を回収・精製するためにも使われます。
塩はイオン交換樹脂を通して様々な産業で利用されていることが分かります。
再生に使われる塩は経済性を考えて選択
イオン交換樹脂の再生に使われる塩は天日塩、岩塩、せんごう塩のいずれでもよいのですが、経済性を考えていずれが良いかを選択します。
天日塩、岩塩を使いますと、塩の価格は安くてよろしいのですが、塩を溶かしたときゴミや泥の不溶解物が溜まり、その始末に経費がかかります。
せんごう塩を使いますと、塩の価格は高いのですが、溶かした時に不溶解物がありませんので、後始末をする必要はなく、総合的に考えると経済的であるとして、外国の製塩会社ではせんごう塩を奨めています。

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