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ナトリウム・イオン電池ガイド:リチウムに代わる

準備はできているか?

Guide to Sodium-Ion Batteries: Are They Ready to Replace Lithium?

By Laura lander

https://www.accure.net/       2023.07.12

 

 潜在的なネットゼロ政策と電気自動車や再生可能エネルギーへの移行によりリチウム・イオン電池の需要が急増し、電池原材料への圧力が大幅に高まっている。リチウム、コバルト、ニッケルなどの電池材料は、今後数十年間で供給不足になると予測されている。こうしたリスクに対抗するには技術の多様化が鍵となる。ナトリウム・イオン電池が解決策となるか?

 

ナトリウム・イオン電池とは何か?

 ナトリウム・イオン電池は一般に知られているリチウム・イオン電池と同じ充電式電池の一種で、全体的な動作原理、構成、材料はリチウム・イオン電池に似ている。ナトリウム・イオン電池は電極にリチウムを可逆的に挿入するのではなく、移動電荷担体としてナトリウムに依存している。リチウム・イオン電池で知られているグラファイト・アノードは、ナトリウム・イオン電池では硬質炭素アノードである。また、ナトリウム・イオン電池では、リチウム・イオン電池で使用される。LiFePO4LiNiMnCoO2などの正極材料の代わりに、Na3V2(PO4)2F3NaNiMnMgTiO2などが使用される。

 

ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン化学に取って代わり、支配的な技術になるか?

 ナトリウム・イオン電池は市場にあるすべてのリチウム・イオン電池に代わるわけではないが、大規模な送電網や小規模な輸送手段など、必ずしも高いエネルギー密度が必要とされない特定の用途に適用されるであろう。リチウム・イオン電池に伴う原材料への圧力とサプライチェーンのリスクの一部は軽減されるであろう。これは、ナトリウム・イオン技術がエネルギー転換の中で永続的な地位を占めることを意味しており、それに応じて対処する必要がある。材料、コスト、寿命、安全性に加えて、ナトリウム・イオン電池の持続可能性についても詳しく検討する必要がある。

 

ナトリウム・イオン電池の材質と価格

 

 例えば、ナトリウムは遍在的に入手可能であり、電池OEMが現在経験している少数のリチウム市場への依存を解決するであろう。しかし、ナトリウム・イオン電池には、Na3V2(PO4)2F3カソードにバナジウムなどの重要な有毒物質も含まれている。将来のナトリウム・イオン電池市場を分析することは、潜在的な不足やサプライチェーンのリスクを予測し、それらに備える濃縮尿役立つ。

 ナトリウム・イオン電池のコストも重要なポイントである。リチウム・ベースの化学物質と比較してKg当りの値は低くなるが、これは主にリチウムとコバルトを避けるためである。これはOEMと消費者の観点から確かに有利であるが、耐用年数が終了した処理については疑問が生ずる。ナトリウム・イオン電池の材料の価格がほとんどない場合、それらをリサイクルすることは有益であろうか?これらの懸念には近い将来対処する必要があり、安全で環境に優しい廃棄処理を確保するために、リチウム・イオン電池のリサイクル政策と同様の立法府が整備される必要があるだろう。

 

ナトリウム・イオン電池の寿命は実際にどのくらいなのか?

 ナトリウム・イオン電池の初期の頃と同様に、これらの質問に対する答は簡単ではない。ナトリウム・イオン電池はまさに商業化の瀬戸際にある。Faradionが先を行き、CALTTiamatなどの他の企業が追従している。しかし、リチウム・イオン電池の大きな電池データを収集して分析するのと同じように、さまざまな条件、用途、使用パターンの下で電池の寿命を精密かつ正確に評価するには、大量のデータが必要である。リチウム・イオン技術からの知識と移転は役立つ可能性があるが、最終的にはナトリウム・イオン電池は異なる材料に依存しており、それが化学反応や劣化パターンに影響を与える。

 ACCUREが開発したものなど、すでにリチウム・イオン電池に適用されている高度な電池劣化モデルと、使用中の電池のサイクル挙動のデータ収集を早期に行うことで、ナトリウム・イオン電池の寿命の理解と予測が促進される。電池開発者は、得られた知識を利用して、サイクル寿命の長いナトリウム・イオン材料の合理的な設計戦略を開発できる。

 

ナトリウム・イオン電池の安全性

 ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池よりも安全であるとよく主張されるが、ナトリウム・イオン電池の潜在的な安全性リスクについては、現在、入手可能なデータはほとんどない。可燃性有機電解質の使用には、リチウム・イオン電池と同じリスクが伴う。一部の研究グループはナトリウム・イオン電池の熱乱用の影響を調査し始めており、熱暴走中に電解質から可燃性ガスが放出されることが分かっている。しかし、ナトリウム・イオン電池で異なる正極材料と負極材料を使用すると、より安全性の高い異なる電解質溶媒の使用も可能になる可能性がある。

 また、ナトリウム・イオン電池で使用されるさまざまな正極材料を区別する必要もある。ポリアニオン材料は、層状酸化物とは異なる挙動を示す可能性がある。これは、リチウム・イオン電池で行われた観察と同様であり、例えば、LiFePO4(LFP)LiNiMnCoO2NMC)材料よりも高い熱安定性を示す。ナトリウム・イオン電池で起こる化学反応に対するさまざまな故障メカニズム(熱、電気、機械)の影響と、それに関連する安全性への影響を理解するには、より詳細な研究が必要である。

 安全性への懸念に対する潜在的な解決策は、リチウム・イオン分野での取り組みと同様に、可燃性有機電解質を固体電解質に置き換えて電池全体の安全性を向上させる全固体ナトリウム・イオン電池の開発である可能性がある。これにより、例えば、金属ナトリウム・イオン陽極を使用できるため、電池エネルギー密度がさらに増加する可能性がある。しかし、これらの電池システムの商品化を構想する前に、イオン伝導度、電極/電解質界面、樹枝状結晶の成長に関する性能の課題を解決する必要がある。リチウム・ベースの固体電池の開発期間が長いことを考慮すると、これは今後10年以内に実現しない可能性がある。

 

ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池よりも持続可能か?

 ナトリウム・イオン電池は、環境への影響が大きいため、厳しい監視の対象となっている。これらには、エネルギーと水を大量に消費する採掘活動が含まれる。これは、地域の生物多様性にさらにダメージを与える。また、大量のエネルギー消費、製造およびリサイクルのプロセス全体での過酷で有毒な化学物質の使用が含まれる。

 問題は、これらの影響をナトリウム・イオン電池で回避できるかどうかである。例えば、さまざまな段階で必要な電力生産によって生じるバリューチェーンにおける間接的な排出は、電池システムの切り替えではなく、電力網の脱炭素化によって排除される。

 また、ナトリウム・ベースの材料の製造工程のほとんどはリチウム・イオン電池の製造工程と類似しているため、全体的なエネルギー要件に影響を与えない可能性がある。上で述べたように、ナトリウム・イオン電池の場合もリチウム・イオン電池と同様にリサイクルが必要であるが複雑であるため、切り替えによるメリットは得られない。

 

電池需要を満たすことは重要であるが、エネルギー転換で重要なのは持続可能性である

 現時点では、リチウム・イオン電池と比較したナトリウム・イオン電池の環境持続可能性について明確な答は得られていない。より詳細なライフサイクル研究が必要である。ただし、明らかなことは、ナトリウム・イオン電池が現在、リチウム・イオン電池で直面しているすべての問題を解決すると想定すべきでない、と言うことである。これらには、同様のリスクが伴い、近い将来にこれらのリスクの解決に着手しなければ、リチウム・イオン電池で犯した間違いを繰り返す可能性がある。

 ナトリウム・イオン電池の将来の開発と商品化のステップでは、産学が緊密に連携し、最も重要なことに、データと洞察を相互に共有することが重要である。これにより、技術の進歩が加速し、リサイクル、持続可能性、寿命予測、安全性などの課題をより効率的に解決できるようになる。