塩水が電池の未来になる理由
Why Salt Water May Be the Future of Batteries
By Matt Ferrell
https://undecidedmf.com/ 2023.05.
再生可能エネルギー貯蔵に対する世界の重要なニーズに対する潜在的な解決策には事欠かない。しかし、これらの解決策に使用するためのアクセス可能で安価な資源が不足している。リチウムやバナジウムなどの材料の制限を念頭に置いて、基本的に無限の代替品を探すのは論理的である。通常のありふれた塩はどうだろうか?
レッドクロス・フロー電池はナトリウムや鉄などの豊富な元素を利用することができる。ある米国企業はすでに海水電池を準備しており、少なくとも他の2社は錆びても効果的に動作する鉄流電池のバリエーションを開発している。競合他社よりも長持ちし、はるかに安価であることが約束されている。
では、流れに身を任せるとどうなるか?
通常の古い塩がエネルギー貯蔵のニーズに応える有力な材料である理由を説明する前に、それが何に抵抗しているのかを理解することが重要である。断続性と削減と言う2つの大きな問題が再生可能エネルギーを妨げている。それは、ご馳走か飢餓の問題であると要約することもできる。24時間365日、太陽光と風の力に頼ることはできない。同時に、適切なインフラストラクチャーがなければ、供給は需要を上回り、多くの電力が失われる。再生可能エネルギーへの移行を完了し、すべての人がエネルギーを安価に利用できるようにするには、余剰電力の長期貯蔵は必要である。
そこで送電網貯蔵システムが登場する。リチウム・イオン電池は人気があり強力な選択肢であるが、材料コストと化学レベルの両方で不安定になる可能性がある。主要な貯蔵オプションとしてリチウム・イオンに依存することは現実的ではない。それに比べて、フロー電池ははるかに安価で、一部の化学薬品は火災の危険性を軽減、または排除することさえできる。最終的には、それぞれのアプローチが独自の目的を果たす。一般的にリチウム・イオン電池は軽くてコンパクトである。フロー電池はかさばる傾向がある。そうは言っても、それらは本質的にリチウム・イオンとは異なる点で拡張性がある。
フロー電池についてはバナジウムと臭素の両方について以前に取り上げた。ただし「レッドクロス・フロー電池」というと電池よりも音楽のジャンルのように聞こえる場合は、その仕組みを簡単に説明する。レッドクロス・フロー電池は、陰極液と陽極液の2つのタンクの形をしている。これらのタンクは中央で分割された部屋を囲んでおり、電解液はタンクからどちらかの側に流れる。還元酸化プロセス、別名レドックスは電池の充電時に陰極液から陽極液に電子を送る。電池が放電すると、その逆のことが起こる。
設計に関して言えば、レッドクロス・フロー電池が提供する主な利点は、エネルギーと貯蔵容量を直接制御できることである。十分な電解液がある限り、理想的にはタンクのサイズ大きくすることでいくらでも貯蔵量を増やすことができる。電極セルスタックの数、またはタンク間の中間部分の数を増やすと、電力が増加することを意味する。
レッドクロス・フロー電池電解液は圧倒的に数のバリエーションがあるが、現在はバナジウムがゴールド(またはレインボー?) の標準である。バナジウム・レッドクロス・フロー電池は複数の酸化状態で存在できる能力を備えているため、より少ない電気活性成分でバナジウム・レッドクロス・フロー電池が機能することが可能になる。酸化還元反応がどのように機能するかによって、バナジウム・レッドクロス・フロー電池は化学反応に比べてより長く持続する。今日の背後にある科学の詳細については以前のビデオを見て下さい。
ここでバナジウムも他のものと同様、コストという問題に直面している。この元素は価格の変動が激しいことで有名である。バナジウムは合金鋼と同様に産業分野で最もよく使用される材料の1つであるため、バナジウムの美しさと柔軟性は決して安い物ではない。2016年の調査によると、バナジウム・レッドクロス・フロー電池に必要な化学薬品はシステムの総コストのほぼ60%を占める可能性がある。最新の調査によると、価格は上昇するばかりであると言う。カリフォルニア大学アーバイン校による2021年の研究では、五酸化バナジウムを使用した電解液がバナジウム・レッドクロス・フロー電池の総コストのなんと80%を占めていることが判明した。
ここから問題が始まる。アメリカに本拠を置く企業Infinity Turbine LLCはこの問題の解決策としてSalgenxフロー電池を提案した。他のレドックス・フロー電池と同じように機能するが、タンクの1つは独自の電解液に溶解した塩素ガスを含み、もう1つは古き良きNaClとH2Oだけで満たされている点が異なる。同社の言葉を借りれば、「水を加えるだけである」「…しかし、塩を使用する。発生源は、海、地下かん水、発電所の冷却池、さらには家庭用エアコンである可能性がある。」
ご想像の通り、どこにでもある塩水を利用することは、多額の費用を節約することを意味する。2022年のアメリカエネルギー省の調査では、使用するバナジウムの酸とグレードに応じて、バナジウム・レッドクロス・フロー電池電解液のコストはkWh当り105ドルから180ドルになる可能性があると推定されている。一方、Salgenxは、電池の電解液のコストはkWh当り5ドル未満であると主張している。
Salgenx電池が市場の既存製品とどのように比較されるかについて、Infinity TurbineはTesla Megapackよりも「入手コストが低く、導入が早い。」と主張しているが、Megapackには可動部品が少ないと指摘している。
しかし、Salgenx電池は他のフロー電池に比べて構成が簡素化されている。ほとんどのタイプのレドックス・フロー電池とは異なり、Salgenx電池には電極を分離する膜がない。代わりに、電解質流体の自然な非混和性を利用して、成分を分離した状態に保つ。油と水について考えてみよう。Infinity Turbineはウェブサイトで、Salgenx電池には膜がないため、「初期購入費、メンテナンス、消耗品費が大幅に節約できる。」と主張している。このアイデアには確かに説得力がある。それは、フロー電池は通常、電池の容量を圧迫する可能性がある「クロスオーバー」として知られる現象を制限するためにイオン透過性膜に依存しているためである。これらの膜はレッドクロス・フロー電池の電圧とエネルギー効率にも大きな役割を果たす。この微妙なバランスを取るのは高価である。
これらのコストを視野に入れると、2014年の研究では、これらのイオン交換膜は間違いなくフロー電池の高価な部品であり、その計算価格は電池のプレートや電極の数倍であることが判明した。彼等は、膜の従来のコストが大幅に下がると見積っていたが、そのコスト範囲は残りの電池部品に比べて依然としてはるかに高かった。
Salgenx電池が目指しているのは経済性だけではない。Infinity Turbineのウェブサイトには、塩水フロー電池の往復効率が91%と記載されており、これは印象的であり、多くのリチウム・イオン電池の化学的性質と同等である。
同社はエネルギー密度125.7 Wh/Lも宣伝している。しかし、これが種類に関係なく、リチウム・ベースの電池の平均エネルギー密度よりも著しく低いことに注意することが重要である。アメリカ国立再生可能エネルギー研究所の数値では、リン酸リチウム・イオン、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルトの間で、少なくとも210 Wh/Lから最大600 Wh/Lまでのエネルギー密度が見られる。
しかし、Infinity Turbineには独自の用途が用意されている。同社は3月、Salgenx電池を使用した淡水化システムの開発が進行中であることを明らかにした。この技術を使用すると、電力を生成する電極間のイオンの移動と同じように、同時に炭水も生成される。これは、クルーズ客船、貨物船、軍事基地などの場所に大きな影響を及ぼす。そしてついに今月、同社はSalgenx酸化還元プロセスをグラフェンの製造にも応用できると発表した。例えば、グラスファイバーおよびカーボンファイバーの製造業界では、本質的にサルゲンスク電池を電源とグラフェン製造機の両方として使用することができる。Infinity Turbine社はグラフェンのコストをグラム当り平均100ドル-400ドルから1.25ドルまで削減することで、大幅な節約になると主張している。
別のアメリカ企業も海水レッドクロス・フロー電池の実験を行っており、水上太陽光発電に関する以前のビデオを見たことの人は非常に馴染みのある場所で実験を行っていると思う。2月、鉄塩電池メーカーのESS Inc.はカリフォルニアに本拠を置く公益事業会社であるTurlock Irrigation Districtとの提携を発表した。州の用水路にソーラーパネルを設置する地区の取り組みであるプロジェクト・ネクサスの一環として、ESSのエネルギー倉庫電池は長期間のエネルギー貯蔵を提供する。計画は2024年に建設を完了する予定である。ESSはまた、今年からサクラメント市公共事業地区との協力の一環として、カリフォルニア州サクラメントに鉄フロー電池施設を設置する予定である。
ESSのエネルギー倉庫はなぜ特別なのか?Salgenxの電池と同様に、塩水電解質で操作するが、代わりに水中の鉄塩を使用している。鉄はバナジウムよりも2桁豊富に存在するため、これは特に有利である。地殻存在量は…138 ppmと比較して、約52,157 ppmである。それに加えて、バナジウムは代替がより困難である…そして覚えておいて下さい:我々は鋼材としてバナジウムを非常に気に入っている。
対照的にエネルギー倉庫の電解液に含まれる塩化第一鉄(FeCl2)は、実際には製鉄廃棄物から生成できる。鉄フロー電池の化学カクテルには鉄鋼メーカーが「ピクルス液」と呼ぶ者の中に残った残渣を利用できる可能性がある。…ピクルス・ボールをしながら飲む物のようである。したがって、皮肉なことに、バナジウムが高価で入手が難しい理由は、まさに鉄がレッドクロス・フロー電池で非常に簡単に使用できる理由である。バナジウム電解液がフロー電池のコストの80%を占める場合、鉄電解液はわずか約4%を占めている。鉄フロー電池は無毒でもあり、バナジウム酸化物の高い毒性を考慮すると、これは明らかに役立つ。
ESSは同社のEnergy Warehouseにより、「輸送、HVAC、消火、廃棄計画における危険物許可の必要性が軽減または排除される。」と主張する。これは、臭素亜鉛などの水ベースの電解質を使用する他のフロー電池の利便性と一致している。他のレドックス・フロー電池と同様に、海水電池はリチウム・イオンと比較してより高い安全性を実現する。そもそも電池液が可燃性でない場合、熱暴走を心配する必要性はない。
寿命に関しては、ESSのエネルギー倉庫とサルゲンスクの両方が少なくとも25年の期待寿命の点でも他の電池を圧倒している。大まかに言えば、リチウム・イオン電池が持続できるサイクル数は、通常1,000サイクル強から2,000サイクルに制限されている。亜鉛臭素電池は最大約5,000サイクル持続できる。ESSは、エネルギー倉庫は20,000サイクル以上持続できると考えている。まさに走り続ける電池である。
ESSは持続時間もリチウム・イオンよりも優れていると主張しており、コストの削減につながる。同社は、保管期間が4時間のマークを超えても、最長12時間までは鉄フロー電池がリチウム・イオン電池よりも安価なままであると推定している。
これらすべてを考慮すると、なぜ多くの人がレッドクロス・フロー電池に含まれる塩と鉄の可能性に興奮しているのかが分かる。安価で安全な材料が容易に入手できるため、エネルギー貯蔵に対する需要の高まりに応えることができる。ここで意地悪くするつもりはないが、誰かに私が「とにかく行って下さい(ここにお気に入りの技術を入力して下さい)」と言うと、少しイライラする。ここでは、それらすべてを支配できるエネルギー貯蔵(または発電)オプションは1つだけではない。様々な用途事例をすべて満たすには、様々なオプションが必要である。そして、この塩辛いものは、たとえ風味のためであっても、ミックスに加えるのに最適かもしれない。