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高塩食はマイクロバイオームが腫瘍を抑制するのを

助けることをマウス研究は明らかにする

High Salt Diet Helps the Microbiome to Suppress Tumors, Mouse Study Reveals

By Ruairi Mackenzie

https://www.technologynetworks.com/      2021.09.10

 

 マウスでの研究では、高塩食は免疫系の細胞と腸内細菌叢の細菌が関与するメカニズムを使用して、腫瘍の成長と戦うのに役立つ可能性があることが分った。

 塩を多く含む食事は主に血圧の上昇や心血管系への影響など、健康への悪影響と関連している。しかし、Science Advancesで今日、発表された新しい研究は、高塩食の予想外のプラスの影響があるかもしれないことを示唆している。

 

塩と免疫

 本研究はインド北部のハリヤ-ナ州にあるNCR-Biotech Science Clusterの研究者チームによって実施された。塩摂取量が多いと炎症が促進されることが以前から指摘されている。2013年の研究では、マウスでは高塩摂取量は多発性硬化症のモデル疾患である実験的

自己免疫性脳脊髄炎の症状を引き起こす可能性があることが示されている。

 しかし、炎症は自己免疫の外では体による保護反応であり、上級著者のアミット・アワスティ教授が率いるチームは、塩辛い食事が体の抗癌反応の炎症を刺激できるかどうかを調査したいと考えていた。

 Awasthiのチームは腫瘍モデル・マウスに低塩食、中塩食、高塩食を与えた。腫瘍の大きさおよび、細胞および代謝の構成を綿密に監視した。高塩食はマウスの腫瘍の成長を大幅に制限した。指摘された減少は複数のタイプの腫瘍にわたるそれらの頑健性のためにさらに顕著であった。黒色腫、癌腫、さらには転移性癌が血流に広がっているマウスでは、生存率の増加と腫瘍増殖の減少が見られた。

 

キラー細胞を助ける

 AwasthiTechnology Networksと話し、チームの分析によりナチュラル・キラー細胞と呼ばれる免疫細胞の数が高塩食を与えられたマウスで50%増加したことが示されたと説明した。これらの細胞は免疫系の一種の「内政」部門として機能し、ウイルスに感染または癌化した体細胞を識別し、それらを破壊する。

 「腫瘍の微小環境は非常に免疫抑制性である。」とAwasthiは説明した。腫瘍には様々な生化学的防御があり、ナチュラル・キラー細胞やその他の炎症過程による攻撃に耐えることができる。免疫チェック・ポイント阻害剤など、これらの防御を無効にする治療法は癌研究の分野で革命的である。

 「誰もが癌免疫療法について話している。」とAwasthiは言った。「これらの薬はFDAの承認を受けており、非常に効果的である。しかし、なぜこれらの治療法が特定の患者にしか効果がないのかは誰にも分らない。患者の薬3040%が応答者であるが、残りはそうではない。」

 一見よく一致している患者グループ間の反応のこれらの違いは現場で多くの頭を悩ませてきた。そして根付いた1つの概念は、治療効果に対する微生物叢の影響である。微生物叢は我々の体の中や上に生息する微生物のコミュニティであり、人によって異なるこれらの細菌による薬物の代謝は、それらの有効性に劇的な影響を与える可能性がある。

 癌と闘うマウスの微生物叢を調べるために、チームはマウスから採取した血清および糞試料の詳細なメタボロミクスおよびRNA分析を実施した。チームは1つの腸内細菌叢であるビフィズス菌が高塩食を与えられたマウスで高度に濃縮されていることに注目した。注目すべきことに、塩摂取量が多いとマウスの腸内壁の「漏れ」も増加した。つまり、現在、濃縮されているビフィズス菌は、腸から腫瘍を含む他の領域に移動する可能性がある。腫瘍環境に入ると、これらの細菌は抑制されたナチュラル・キラー細胞を活性化し、抗腫瘍攻撃を改善することが観察された。

 

人間のデータが調査結果を後押し

 しかし、研究のこの時点で2つの重大な障害が残っていた:

1.マウスは人間ではない。調査結果は我々の体に関連するだろうか?

2.高塩食は腫瘍破壊効果に関係なく人体の他の領域に悪影響を及ぼす。

 幸いなことに、人間のデータは準備ができていて、ノーベル賞を受賞した科学者本庶佑の研究室からリリースされたチームを待っていた。本庶は抗PD-1チェック・ポイント阻害剤療法で受賞した。これは癌を殺す細胞の働きをうっかり止めてしまう可能性のあるタンパク質を標的とする癌免疫療法である。

 本庶の研究室は、チェック・ポイント阻害剤療法を受けている人のそのようなかなりの割合がそれらの反応しなかった理由を調査し、微生物叢に由来する代謝物である馬尿酸が療法に対する陽性反応を予測したことを特定した。

 「これらのデータを取得し、メタボロミクスデータを分析した。」とAwasthiは言う。「腫瘍状態でマウスを高塩食にすると、馬尿酸は非常に大幅に濃縮されることが分った。2つのことを結び付けると、おそらく塩が人間の環境でそれらの免疫療法薬と同じ経路を利用していることが分った。」ビフィズス菌よって放出される馬尿酸は、抑制されたナチュラル・キラー細胞を再活性化するウェイクアップ・コールとして機能する可能性がある。

 さらに掘り下げて、Awasthiチームは、高塩食が本庶の免疫療法の同じ標的である免疫抑制PD-1タンパク質の発現を減らすことができることを示した。この観察に基づいて、チームは新しいアプローチを試みた。低塩食に最適以下の量の本庶の免疫療法をマウスに投与した。ここでは、この低下レベルの塩が免疫療法レジームの促進役として機能し、腫瘍のサイズを大幅に縮小した。これはAwasthiが指摘するように、非常に高価な免疫療法の有効量を減らし、発展途上国でより利用しやすくするレジメンにつながる可能性がある。

 これらの影響は、ナチュラル・キラー細胞に対する塩固有の作用の結果である可能性があるか?チームが実施した1つの実験は、これはありそうもないことを示唆している。抗生物質を使用してマイクロバイオームを枯渇させたマウスでは、高塩食の影響がなくなった。これは、これらの細菌が根本的なメカニズムに不可欠であることを示唆している。これは、食事の塩を完全にバイパスするアプローチの可能性を高める。チームは塩摂取量を変更する代わりに、微生物叢を削除したマウスに高塩食を与えた他のマウスからの糞便移植を行った実験でこれを概説した。これにより、移植されたマウスの癌と闘う能力が回復した。