戻る

食塩は抗腫瘍免疫細胞を活性化すると研究で示唆

Common Salt Activates Anti-Tumor Immune Cells, Study Suggests

https://www.technologynetworks.com/      2024.08.29

Original Story from the Leibnit Institute

 

新しい研究により、ナトリウムが腫瘍に対するT細胞の免疫反応を増強し、ガン治療の効果を高めることが判明した。

 

 食塩はガンに対する免疫防御を高めるのに役立つ可能性がある。これは、イエナのフリードリッヒ・シラー大学で感染免疫学の教授を務めるChristina Zielinski博士は述べている。が率いる研究チームの研究結果によって示唆されている。同チームは、この研究結果をNature Immunology誌に発表した。

 「食卓塩」として知られる塩化ナトリウムは、歴史的に貴重な物質であった。今日では、食卓塩は安価で、台所に欠かせないものとなっている。そのため、食卓塩が我々の日常会話に長く浸透してきたのも不思議ではない。もっとも、必ずしも良い意味合いを持つ表現ばかりではない。しかし「傷口に塩を塗る」という表現は、近いうちに、ガン治療において、良い意味を持つようになるかもしれない。

 かつて、ガンは死を意味する場合が多かったが、ここ数十年で研究は大きく進歩し、多くの種類のガンにおいて生存期間が大幅に延長し、高い生活の質を実現している。特に近年、養子T細胞療法は効果的な治療法として発展している。この療法では、体内の白血球であるT細胞を改変し、腫瘍細胞を特異的に認識して攻撃できるようにする。この治療法の有効性は、腫瘍の免疫抑制環境では通常抑制されているT細胞の代謝活性に左右される。そのため、この抑制を克服する因子を特定することが重要である。

 イエナにあるハンス・クネル研究所(ライプニッツ天然物研究・感染生物学研究所、ライプニッツ-HKI)Christina Zielinskiが率いる研究チームは、これらの要因の1つを発見した。塩化ナトリウムの成分であるナトリウム・イオンが、抗腫瘍性T細胞の効率を高めるというものである。研究者達は、乳ガンの腫瘍は健常組織よりもナトリウム濃度が高く、周囲のナトリウム濃度が高い場合、T細胞が腫瘍に対して特に強く作用することを実証した。その結果、これらの患者の生存期間はさらに長くなる。

 「ナトリウムがCD8+T細胞の免疫反応を増強することを示すことができた。」と、本研究の筆頭著者であるChang-feng Chuは述べている。CD8+T細胞は、体内で腫瘍細胞やウイルスに感染した細胞を認識し、殺傷する免疫細胞である。「これまでの研究で、ナトリウムが自己免疫疾患やアレルギーに関与する他の種類のT細胞を制御することは既に示されている。我々は、ナトリウムがヒトCD8+T細胞の活動に具体的にどのような影響を与えるのかを明らかにしたかったのである。」と、もう1人の筆頭著者であるShan Sunは説明する。

 そこで研究者達は、さまざまな技術を用いて、ナトリウム・イオンがCD8+T細胞の遺伝子発現と代謝プロセスに及ぼす影響を調べた。「ヒトT細胞を塩で前処理し、腫瘍細胞と共に培養した。また、マウスを用いたT細胞実験も行なった。」と、Chuは重要な実験について説明する。

 

免疫細胞がより健康になる

 研究者達は、塩が糖とアミノ酸の取り込みを増加させ、ひいては細胞内のエネルギー産生を促進することで、CD8+T細胞の代謝適応度を向上させることを発見した。その結果、培養細胞とマウスを用いた実験で示されるように、免疫細胞は腫瘍細胞をより効果的に排除する能力が向上した。「塩で前処理したT細胞をマウスに注入したところ、膵臓腫瘍が縮小した。」とChuは述べている。

 しかし、ナトリウムは細胞内で具体的にどのように作用するのだろうか?「ナトリウム・イオンはT細胞の細胞膜にあるナトリウム-カリウム・ポンプの活性を高める。これが膜電位の変化につながり、T細胞受容体の活性化を高める。」とSunは報告している。「このシグナル増幅により、免疫細胞は腫瘍細胞をより効率的に殺傷しやすくなる。」同僚のChuはさらに高血圧付け加える。「塩はT細胞が急速に疲弊するのを防ぐ役割も果たす。疲弊したT細胞は徐々にガン細胞と闘う能力を失っていくため、これは重要である。」

 研究チームは、将来、T細胞の「キラー」機能の正の調節因子として塩化ナトリウムを使用することを推奨している。もちろん、これは患者が食事でより多くの塩を摂取するコールド・トラッピングを意味するものではない。むしろ、患者に投与された免疫細胞が体外で高濃度の塩分にさらされ、腫瘍細胞に対する高い活性を示すことが考えられる。つまり、普通の食塩は、ガンと闘う養子移植されたT細胞、そして感染細胞に対する防御を必要とする感染症と闘うT細胞をサポートする可能性がある。つまり、「傷口に塩を塗る」と表現は、必ずしも否定的な意味を持つわけではない。