ナトリウム・イオン電池:資源効率が高く、気候に優しい
Sodium-Ion Batteries: Resource-Efficient and Climate-Friendly
https://www.technologynetworks.com/ 2023.12.14
Original Story from Chalmers University of Technology
ナトリウム・イオン電池には、リチウムの代わりに食卓塩によく含まれている物質であるナトリウムが含まれている。
化石燃料のない社会への移行は、電池の必要性が急激に増加していることを意味する。同時に、この増加は、最も一般的なタイプの電池の主要成分である金属リチウムとコバルトの不足を意味する。
1つの選択肢はナトリウム・イオン電池で、食塩と林業のバイオマスが主要な原材料となる。現在、スエーデンのチャルマーズ工科大学の研究者達は、これらのナトリウム・イオン電池は原材料が不足するリスクなしに、リチウム・イオン電池と同等の気候影響があることを示している。
「将来の電池に使用する材料は、再生可能エネルギーや化石燃料を使かわない車両群への移行を可能にするために重要になる。」とチャルマーズ工科大学の環境システム分析准教授Rickard Arvidssonは言う。
欧州委員会の重要原材料法によれば、EU諸国が再生可能エネルギー・システムや電気自動車に移行するにつれて、重要な電池原材料の需要は飛躍的に増加すると予想されている。グリーン移行には、電池やその他の新しい化石燃料を使わない技術の現地生産も必要となり、需要を満たすには原材料の安定した供給が必要である。同時に、原材料の供給源が限られているため、そのような生産には供給途絶のリスクが高くなる。
「リチウム・イオン電池は世界で主流の技術になりつつあり、特に輸送に関しては、化石燃料ベースの技術よりも気候に優しい。しかし、リチウムがボトルネックとなっている。リチウム・ベースの電池は電気自動車と同じペースで生産できず、長期的には鉱床が枯渇する恐れがある。」とRickard Arvidssonは言う。これに加えて、リチウムやコバルトなどの重要な電池材料は、主に世界の数カ所で採掘されており、供給にリスクをもたらしている。
ナトリウム・イオン電池は有望な技術を提供する
次世代の持続可能なエネルギー貯蔵の探求において、新しい電池技術の開発が急速に進んでいる。この技術は、できれば寿命が長く、エネルギー密度が高く、製造が容易である必要がある。チャルマーズ工科大学の研究チームは、リチウムの代わりに一般的な塩化ナトリウムに含まれる非常に一般的な物質であるナトリウムを含むナトリウム・イオン電池に注目した。新しい研究では、彼等は電池のいわゆるライフサイクル評価を実施し、原材料の抽出と製造中の環境と資源への全体的な影響を調べた。
「我々は、鉱物資源の不足への影響という点ではナトリウム・イオン電池の方がリチウム・イオン電池よりもはるかに優れており、気候への影響と言う点では同等であるという結論に達した。どのシナリオを見るかによって異なるが、理論上の電力貯蔵容量1 kWhあたり二酸化炭素換算で60~100 kg強となり、このタイプのナトリウム・イオン電池についてこれまで報告されていたものよりも低い値である。これは明らかに有望な技術である。」とRickard Arvidssonは述べている。
研究者達はまた、電池全体の影響の大部分を占める環境的に優れた電解質の開発など、気候への影響をさらに軽減する可能性のある対策をいくつか特定した。
クリーン・エネルギーにはエネルギー貯蔵が必要
現在のナトリウム・イオン電池は、すでに電力網の固定式エネルギー貯蔵に使用されることが期待されており、開発が続けば、将来的には電気自動車にも使用されるようになるであろう。
「エネルギー貯蔵は、風力発電や太陽光発電の拡大の前提条件である。貯蔵は主に電池で行なわれるため、問題はそれらの電池が何から作られるかということである。リチウムとコバルトの需要増加は、この開発の障害となる可能性がある。」とRickard Arvidssonは述べている。
この技術の主な利点は、ナトリウム・イオン電池の材料が豊富にあり、世界中で見つけられることである。電池の一方の電極(カソード)には電荷キャリアとしてナトリウム・イオンがあり、もう一方の電極(アノード)は硬質炭素で構成されており、チャルマーズ究所の研究者達が調査した例の1つでは、硬質炭素は林業のバイオマスから生産できる。生産プロセスと地政学的観点から、ナトリウム・イオン電池は化石燃料のない社会への移行を加速できる代替手段でもある。
「豊富な原材料をベースにした電池は、電池メーカーと国の両方にとって、地政学的リスクと特定地域への依存を減らすことができる。」と、Rickard Arvidssonは述べている。
調査の詳細
この調査は、2種類のナトリウム・イオン電池セルの将来的なライフサイクル評価であり、環境および資源への影響がクレードルからゲートまで、つまり原材料の抽出から電池セルの製造まで計算される。研究の機能単位は、セルレベルでの1 kWhの理論的な電力貯蔵容量である。どちらのタイプの電池セルも、主に豊富な原材料に基づいている。アノードは、バイオマスのリグニンまたは化石燃料からの硬質炭素で作られ、カソードはいわゆる「プルシアン・ホワイト」(ナトリウム、鉄、窒素、炭素で構成)で作られている。電解質にはナトリウム塩が含まれている。生産は、将来の大規模生産に対応するようにモデル化されている。例えば、電池セルの実際の生産は、ギガファクトリーでの今日のリチウム・イオン電池の大規模生産に基づいている。
2種類の異なる電力ミックスと、2種類の異なる割り当て方法、つまり資源と排出量の割り当てがテストされた。1つは気候と資源への影響を質量に基づいて副産物間で分配する方法で、もう1つはすべての影響を主製品(ナトリウム・イオン電池とその部品および材料)に割り当てる方法である。