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携帯型脱塩ユニットは大騒ぎせずに海水から飲料水を供給する

Portable Desalination Unit Delivers Drinking Water from Seawater with No Fuss

https://www.technologynetworks.com/      2022.04.29

Original story from Massachusetts Institute of Technology

 

 マサチューセッツ工科大学の科学者達は粒子や塩を除去して飲料水を生成できる重量が10 kg未満の携帯型脱塩ユニットを開発した。

 携帯電話の充電器よりも操作に必要な電力が少ないスーツケース・サイズの装置はオンラインにより約50ドルで購入できる小型の携帯型太陽電池で駆動することもできる。世界保健機関の品質基準を超える飲料水を自動的に生成する。この技術はボタンを1つ押すだけで実行される使用者に優しい装置にパッケージ化されている。

 水がフィルターを通過する必要がある他の携帯型脱塩装置とは異なり、この装置は電力を利用して飲料水から粒子を除去する。交換用フィルターの必要性を排除することで、長期的なメンテナンス要件が大幅に削減される。

 これにより装置を小さな島のコミュニティや船乗りの貨物船に乗っているなど、遠隔地で資源が非常に限られた地域に配備できるようになる可能性がある。また、自然災害から逃れる難民を支援したり、兵士が長期的な軍事作戦を遂行したりするためにも使用できる。

 「これは私と私のグループが行ってきた10年間の旅の集大成である。我々は何年もの間、個々の脱塩プロセスの背後にある物理学に取り組んだが、それらすべての進歩を箱に入れ、システムを構築し、それを海で実証することは私にとって本当に有意義でやりがいのある経験であった。」と電気工学、コンピューター・サイエンス、生物工学の教授であり電子工学研究所のメンバーである上級著者のJongyoon Hanは言う。

 論文でHanに加わったのは、電子工学研究所の研究科学者である筆頭著者のJunghyo Yoon、元ポスドクのHyukjin J. Kwon、北東大学のポスドクSungKu Kang、そして米国陸軍戦闘能力開発コマンドのEric Brackである。この研究はEnvironmental Science and Technologyにオンラインで公開されている。

 

無フィルター技術

 市販の携帯型脱塩装置は通常、フィルターを通して水を押し出すために高圧ポンプを必要とするが、装置のエネルギー効率を損なうことなく小型化することは非常に困難である、とYoonは説明する。

 代わりに彼等の装置は10年以上前にHanのグループによって開拓されたイオン濃度分極と呼ばれる技術に依存している。イオン濃度分極プロセスでは、水をろ過するのではなく、水路の上下に配置された膜に電界をかける。膜は正または負に帯電した粒子(塩分子、細菌、ウイルスなど)が通過するときにそれらをはじく。帯電した粒子は最終的に排泄される2番目の水の流れに注ぎ込まれる。

 このプロセスでは、溶解した固形物と懸濁した固形物の両方が除去され、きれいな水がチャネルを通過できるようになる。低圧ポンプのみが必要なため、イオン濃度分極は他の技術よりも少ないエネルギーを使用する。

 しかし、イオン濃度分極はチャネルの中央に浮かんでいるすべての塩を常に辞去するとは限らない。そこで研究者達は電気透析として知られる2番目のプロセスを取り入れて、残っている塩イオンを除去した。

 YoonKangは機械学習を使用して、イオン濃度分極と電気透析モジュールの理想的な組み合わせを見つけた。最適なセットアップには、2段階のイオン濃度分極プロセスが含まれ、水は最初の段階で6つのモジュールを流れ、次に2番目の段階で3つを流れ、その後1つの電気透析プロセスが続く。これによりプロセスが自己洗浄を維持しながらエネルギー使用量が最小限に抑えられる。

  「一部の帯電粒子がイオン交換膜に補足される可能性があるのは事実であるが、それらが補足された場合、電界の極性を逆にするだけで、帯電粒子を簡単に除去できる。」とYoonは説明する。

 彼等はイオン濃度分極と電気透析モジュールを収縮させて積み重ね、エネルギー効率を改善し、携帯型装置内に収めることができるようにした。研究者達は自動脱塩および精製プロセスを開始するためのボタンを1つだけ使用して、非専門家向けの装置を設計した。塩濃度と粒子数が特定の閾値まで減少すると、装置は使用者に水が飲めることを通知する。

 研究者達はまた、装置をワイヤレスで制御し、電力消費量と水の塩分に関するリアルタイム・データを報告できるスマートフォン・アプリを作成した。

 

ビーチ・テスト

 様々な塩濃度と濁度の水を使用してラボ実験を行った後、ボストンのカーソン・ビーチで装置の実地試験を行った。YoonKwonは岸の近くに箱を置き、供給管を水中に投げ入れた。約30分間で装置はプラスチック製の飲用カップに透明で飲用に適した水を満たした。「最初の運転でも成功した。これは非常にエキサイティングで、驚くべきことであった。しかし、我々が成功した主な理由は、我々が途中で行ったこれらすべての小さな進歩の蓄積であると思う。」とHanは言う。

 得られた水は世界保健機関の品質ガイドラインを超え、装置は浮遊固形物の良を少なくとも10分の1に減らした。彼等のプロトタイプは1時間当たり0.3リットルの速度で飲料水を生成し、1リットル当たりわずか20ワットの電力しか必要としなかった。「現在、我々はその生産率を拡大するために研究を推進している。」とYoonは言う。

 携帯型装置を設計する上での最大の課題の1つは、誰でも使用できる直感的な装置を設計することであった、とHanは言う。Yoonは技術を商業化するために立ち上げる予定のスタートアップを通じて、装置をより使用者に優しくし、エネルギー効率と生産効率を向上させたいと考えている。

 実験室では、Hanは過去10年間に学んだ教訓を、飲料水中の汚染物質の迅速な検出など、脱塩を超えた水質の問題に適用したいと考えている。「これは間違いなくエキサイティングなプロジェクトであり、これまでの進歩を誇りに思っているが、まだすべきことが沢山ある。」と彼は言う。

 例えば、「電気膜プロセスを使用した携帯型装置の開発は、オフグリッドの小規模な脱塩における独自の刺激的な方向性である。」が、特に高い濁度を持っている場合、汚染の影響によりメンテナンス要件が大幅に増加する可能性がある。エネルギー・コストについては、エンジニアリングの教授であり、この研究に関与していなかったニューヨーク大学アブダビ・ウォーター研究センターの所長であるNidal Hilalは述べている。

 もう1つの制限は高価な材料の使用である。」と彼は付け加える。「低コストの材料を使用した同様のシステムを見るのは興味深いことである。」