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高導電率と電気化学的安定性を兼ね備えたナトリウム固体電解質

Sodium Solid Electrolyte Combining High Conductivity with Electrochemical Stability

By Toyohashi University of Technology

https://techexplor.com/ より   2021.07.06

 

         三次元イオン拡散経路(黄色の部分)と結晶構造の可視化

 

 豊橋技術科学大学電気電子情報工学科の研究チームは全固体ナトリウム(Na)・イオン電池で使用するための塩素(Cl)置換Na3SbS4固体電解質を開発した。Cl置換なしの試料と比較して硫黄(S)が部分的にClで置換されたNa3SbS4固体電解質のイオン伝導度は最大3倍向上した。Cl置換Na3SbS4Naイオンが三次元でより簡単に移動できる結晶構造フレームワークを持っていることをチームはまた実証し、Cl置換がNa金属陽極で優れた安定性を示すことを発見した。

 大規模なエネルギー貯蔵の需要の高まりにより、低コストで豊富に入手可能なNa資源を使用した全固体ナトリウム・イオン電池の研究は加速している。全固体ナトリウム・イオン電池を実用化するためには、室温でイオン伝導性の高い固体電解質を開発する必要がある。様々なナトリウム固体電解質の中でNa3SbS4固体電解質は室温で1 mScm-1以上の高い誘電率を持っているため、世界中の広く研究されている。しかし、高い誘電率を実現するためには、ボールミルによる後処理は必要であり、より単純な合成工程で高いイオン伝導性を実現することは特に問題となっている。

 そのため研究グループでは大量生産に適した液相合成法を用いてCl置換Na3SbS4固体電解質を開発した。Na3SbS4固体電解質中のSClで部分的に置換することにより、置換なしの試料(0.3 mScm-1)と比較して室温でのイオン伝導度が3((0.9 mScm-1)に増加した。また、Cl置換による構造変化による伝導特性への影響を明らかにするためにイオン伝導経路を可視化した。その結果、Na3SbS4SClで部分的に置換すると、NaイオンとS(またはCl)の局所的な結合が緩くなり、NaイオンとS(またはCl)の間の静電相互作用が弱い結晶構造フレームワークが形成され、特に結晶学的c軸に沿ってイオン拡散が促進されることが実証された。Cl置換によるイオン伝導度の増加は三次元のイオン拡散経路を持つ結晶構造の形成によって引き起こされる。

 さらに、チームはCl置換Na3SbS4固体電解質がCl置換なしの試料と比較してNa金属陽極で優れた安定性を示すことを発見した。彼等はこの電気化学的安定性の改善が陽極の固体電解質の間の界面抵抗の減少に関連していること、および大量のClドーピングが陰極との安定性の改善に効果的であることを示した。

 研究チームは高いイオン伝導性や優れた電気化学的安定性などの望ましい特性を備えた理想的な固体電解質を開発するための重要な設計原理を明らかにした。彼等はこの研究から得られた固体電解質を液相コーティング技術と組合せて、全固体ナトリウム・イオン電池の高い貯蔵容量と安定したサイクルを実現できると信じている。