ナトリウム・イオン電池の新素材が、手頃な価格で持続可能な
未来を手近なものに
New Material for Sodium-Ion Batteries Brings Affordable,
Sustainable Future within Grasp
By Rashda Khan, University of Houston
https://techxplore.com/ より 2024.12.20
リチウム・イオン電池はスマートフォンやノートパソコンから電気自動車まであらゆるものに採用されている技術である。リチウムは比較的希少で高価で入手が難しく、地政学的配慮から近いうちに危険にさらされる可能性があるため、将来に対する懸念が高まっている。世界中の科学者達が実行可能な代替品の開発に取り組んでいる。
ヒューストン大学のカネパ研究所を含む学際的な研究者の国際チームは、ナトリウム・イオン電池の効率を高め、エネルギー性能を向上させる新しいタイプの材料を開発した。これにより、より持続可能で手頃な価格のエネルギーの未来への道が開かれる。
この研究結果は、Nature Materials誌に掲載されている。
この新素材は、化学式NaxV2(PO4)3のリン酸バナジウム・ナトリウムで、エネルギー密度を15%以上高めることでナトリウム・イオン電池の性能を向上させる。この素材は、従来のナトリウム・イオン電池の396 Wh/kgに比べて458 Wh/kgとエネルギー密度が高く、ナトリウム技術をリチウム・イオン電池に近付けている。
「ナトリウムはリチウムよりも50倍近く安く、海水から採取することもできるため、大規模なエネルギー貯蔵にとってはるかに持続可能な選択肢となる。」とハワイ大学のRobert Welch電気・コンピューター工学助教授で、カネパ研究所の主任研究員であるPieremanuele Canepaは述べた。
「ナトリウム・イオン電池はより安価で製造が容易であるため、リチウムへの依存を減らし、世界中で電池技術をより利用しやすくなる可能性がある。」
理論から現実へ
理論的専門知識と計算手法を用いてクリーン・エネルギー技術の進歩に役立つ新しい材料や分子を発見するカネパ研究所は、フランスのアミアンにあるピカルディ・ジュール・ベルヌ大学のCNRS研究所の一部であるLaboratoire de Reáctivité et de Chimie des Solidesのフランス人研究者Christian MasquelierとLaurence Croguennecが率いる研究グループ、およびフランスのボルドーにあるボルドー大学、ボルドー大学凝縮材料化学研究所と共同で、このプロジェクトの実験作業を行なった。これにより、理論モデルを実験的に検証することができた。
研究者達は新しい材料NaxV2(PO4)3を使用した電池のプロトタイプを作成し、エネルギー貯蔵の大幅な改善を実証した。NaxV2(PO4)3は、「Na超イオン伝導体」またはNaSICONと呼ばれるグループの一部であり、充電および放電中にナトリウム・イオンが電池内外にスムーズに移動できるように設計されている。
既存の材料とは異なり、この材料はナトリウムを独自の方法で処理し、単相システムとして動作することができる。つまり、ナトリウム・イオンを放出または吸収しても安定している。これにより、NaSICONは充電および放電中に安定を保ちながら、金属ナトリウムに対して3.7 Vの連続電圧を供給できる。これは、既存の材料の3.37 Vよりも高い電圧である。
この差は小さいように思えるかもしれないが、電池のエネルギー密度、つまり重量に対して蓄えられるエネルギー量が大幅に増加する。効率の鍵となるのはバナジウムである。バナジウムは複数の安定状態で存在できるため、より多くのエネルギーを保持および放出できる。
「連続的な電圧変化が重要な機能である。」とCanepaは言う。「つまり、電極の安定性を損なうことなく、電池の効率を高めることができる。これはナトリウム・イオン技術にとって画期的なことである。」
持続可能な未来の可能性
この研究の影響はナトリウム・イオン電池だけにとどまらない。NaxV2(PO4)3の作成に使用された合成方法は、同様の化学的性質を持つ材料にも応用できる。高度なエネルギー貯蔵技術の新たな可能性を切り開くことができる。その結果、より手頃な価格で持続可能な電池から、よりクリーンなエネルギー経済への移行を支援するデバイスへの電力供給まで、あらゆるものに影響を与える可能性がある。
「我々の目標は、クリーンで持続可能なエネルギー貯蔵解決策を見付けることである。」とCanepaは語った。「この材料は、ナトリウム・イオン電池はコスト効率が良く環境に優しい一方で、現代の技術の高エネルギー需要を満たすことができることを示している。」
Canepaの元学生で現在はノースウエスタン大学の博士研究員であるZiliang Wangと、フランス人研究者の元学生で現在は韓国のサムスンSDIのスタッフ・エンジニアであるSunkyu Parkがこのプロジェクトの作業の多くを遂行した。