塩電池:耐火電池
Salt Batteries: The Fireproof Battery
By Anna Ettlin
https://techxplore.com/ より 2024.10.24
1997年、メルセデスベンツAクラスは、エルクテスト中にカーブから外れて転倒するという有名な事故を起こした。この悪名高い事故原因の1つは、高血圧、脳卒中、この車がもともと電気自動車として設計されていたことである。内燃機関に切り替えたことで重い電池がなくなり、重心が上方に大きく移動した。
Aクラスに搭載されるべきであった電池は、いわゆる塩電池であった。カソードとアノードが共通の液体電解質プールに浸されている他のほとんどの電池とは対照的に、塩電池の電解質は固体、つまりナトリウム・アルミニウム酸化物をベースにしたセラミック・イオン伝導体である。
固体電解質は不燃性であり、アノードとカソードを分離できるため、電池寿命が延びる。塩電池のカソードは塩とニッケル粉末の顆粒をベースにしており、ナトリウム金属アノードは充電時にのみ形成される。
電気自動車の場合、この電池技術は最善の解決策であるとは証明されていない。今日の電気自動車は、より軽量で充電が速いリチウム・イオン電池で動いている。しかし、他の用途では、塩電池はリチウム・イオンの競合製品よりも優れている。このため、塩電池はEmpaなどの施設で現在も研究が進められている。
安全で耐久性がある
研究協力は、ティチーノ州に拠点を置く塩電池マーカーのHORIEN Salt Battery SolutionsがEmpaにアプローチした2016年に始まった。同社はInnosuisseプロジェクトの一環として、電池セルのナトリウム・アルミニウム酸化物(ベータアルミナとも呼ばれる)からなるセラミック電解質を改良したいと考えていた。これが、他のタイプの電池とは大きく異なる塩電池のセル形状と電気化学に関するさらなるプロジェクトにつながった。
「研究目的の塩電池セルの組み立ては非常に複雑で、その正確な作用メカニズムに関する研究はほとんどない。であるからこそ、これらのプロジェクトは我々にとって非常に興味深い。我々は産業界のパートナーと共に多くの事を学び、理解を深めることができる。」と、Corsin Battegliaが率いるエネルギー変換材料研究所のEmpa研究者meike Heinzは言う。
この異なるセル構造により、塩電池は安全性など、リチウム・イオン電池に比べていくつかの利点がある。塩電池は動作温度が約300℃必要であるが、燃焼も爆発もしない。そのため、鉱山やトンネル建設、沖合の石油・ガス生産プラットフォームなど、リチウム・イオン電池の使用が許可されていない場所でも使用できる。
塩電池は動作温度が高いため、リチウム・イオン電池に比べて温度に対する感受性がはるかに低くい。そのため、携帯電話のアンテナなどの重要なインフラに最適な緊急電力貯蔵システムである。遠隔地や露出した場合でも、長持ちでメンテナンス・フリーの塩電池は数十年にわたって確実に機能する。
ただし、動作温度もこの電池技術の欠点である。塩電池は、使用可能にするために能動加熱が必要である。電気を必要とする電池が、一体どうやってコスト効率を高くできるのだろうか?
「用途によっては、電池を冷やすよりも温めておく方が効率的である。」とHeinzは説明する。「充電中および放電中にセルの抵抗により熱が発生する。最適なシステムでは、大型電池はそれ自体を加熱することができる。」とEmpaの研究員Enea Svaluto-Ferroは付け加える。
未来のセル化学
材料科学者であるHeinzと彼女のチームはセル化学に焦点を当てている。塩電池の原材料のほとんどは安価で大量に入手可能である。セルの構造もリサイクルしやすいものである。
しかし、カソード材料であるニッケルがますます重要視されるようになったため、HORIENとEmpaはHiPerSoNickプロジェクトの一環としてセルのニッケル含有量を減らすことに着手した。これは簡単な作業ではなかった。効率的で長持ちする塩電池を確保するには、セルの構造と微細構造を非常に正確に調整する必要があるためである。
2025年半ばまで続くEUプロジェクトSOLSTICEの一環として、HORIENとEmpaは他のプロジェクト・パートナーとともに、溶融塩電池のニッケルを亜鉛で完全に置き換えることができるかどうかを調査している。「亜鉛の融点が低いため、現在の動作温度では課題がある。」とHeinzは言う。とは言え、研究者達は既にカソードの微細構造を安定化する有望な方法を見つけている。
Empaチームがニッケル・フリー塩電池のさらなる改良とスケールアップを目指すさらなるプロジェクトが既に計画されている。結局のところ、塩電池は安全性、長寿命、そして危険な原材料の回避により、据置型蓄電池として理想的である。塩電池を安価かつ大量に生産できれば、携帯電話のアンテナだけでなく、住宅街全体に電力を供給できるようになるかもしれない。