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太陽光発電淡水化システムは追加の電池を必要とせず、低コストで飲料水を提供できる可能性がある

Solar-Powered Desalination System Requires No Extra Batteries,

Could Provide Drinking Water at Low Cost

By Jenifer Chu, Massachusetts Institute of Technology

https://techxplore.com/  より   2024.10.08

 

 マサチューセッツ工科大学(MIT)のエンジニア達は、太陽のリズムに合わせて動作する新しい淡水化システムを構築した。研究者達はNature Waterに掲載された論文で、この新しいシステムの詳細を報告している。

 太陽光発電システムは、太陽エネルギーの変化に密接に追随するペースで水から塩分を辞去する。日中、太陽光が増加すると、システムは脱塩プロセスを強化し、太陽光の突然の変化に自動的に対応する。例えば、雲が通過すると減速し、空が晴れると加速する。

 このシステムは太陽光の微妙な変化に素早く反応できるため、太陽エネルギーの有効利用が最大限に行なわれ、1日を通して太陽光が変動しても大量のきれいな水が生産される。他の太陽光駆動淡水化設計とは異なり、MITのシステムはエネルギー貯蔵用の追加の電池も、送電網などの補助電源も必要としない。

 エンジニア達は、ニューメキシコ州の地下水井戸でコミュニティ規模のプロトタイプを6ヶ月にわたってテストし、さまざまな気象条件や水質の中で稼動させた。このシステムは、天候や利用可能な太陽光の大きな変動にもかかわらず、システムのソーラーパネルから生成される電気エネルギーの平均94%以上を利用して、1日当たり最大5,000リットルの水を生産した。

 「従来の淡水化技術は安定した電力を必要とし、太陽光のような変動する電源を平滑化するために蓄電が必要である。太陽に合わせて継続的に変化する電力消費により、我々の技術は太陽光エネルギーを直接かつ効率的に利用して水を作る。」とMITのゲルメスハウゼン機械工学教授でK. Losa Yang Global Engineering and Research Center所長のAmos Winterは言う。

 蓄電池を必要とせずに再生可能エネルギーで飲料水を作ることは、非常に大きな課題である。そして我々はそれを実現した。」

 このシステムは、地下の貯水池に存在し、淡水よりも多く存在する塩分を含んだ地下水の淡水化を目的としている。研究者達は、特に世界の一部で淡水資源が逼迫している中、地下の塩分を含んだ地下水は、未開発の飲料水源として大きい可能性を秘めていると考えている。

 彼等は、この新しい再生可能で電池不要のシステムが、特に海水や送電網へのアクセスが限られている内陸部のコミュニティに、切望されている飲料水を低コストで提供できると想定している。

 「住民の大半は、実際には海岸からかなり離れた場所に済んでおり、海水淡水化が届くことはない。そのため、特に遠隔地の低所得地域では、地下水に大きく依存している。そして残念なことに、個の地下水は気候変動によりますます塩分を多く含んでいる。」とMIT機械工学博士課程の学生Jonathan Bessetteは言う。「この技術は、世界中の手が届かない場所に、持続可能で手頃な価格のきれいな水をもたらす可能性がある。」

 

ポンプと流れ

 この新しいシステムは、Winterと元MIT博士研究員のWei Heを含む同僚が今年初めに報告した以前の設計に基づいている。そのシステムは、「柔軟なバッチ電気透析」によって水を淡水化することを目的としていた。

 電気透析と逆浸透は、汽水地下水の淡水化に使用される主な2つの方法である。逆浸透では、圧力を利用して塩水を膜に送り込み、塩分をろ過する。電気透析では、水をイオン交換膜のスタックに送り込む際に電界を使用して塩分イオンを引き出す。

 科学者達は、持続可能エネルギー源で両方の方法に電力を供給することを模索してきた。しかし、太陽などの自然に変化するエネルギー源と互換性のない一定の電力レベルで従来稼動している逆浸透システムにとって特に困難であった。

 WinterHe、および同僚達は電気透析に焦点を当て、再生可能な太陽光発電の変動に反応する、より柔軟で「時間変動型」のシステムを作る方法を模索した。

 以前の設計では、チームは水ポンプ、イオン交換膜スタック、およびソーラーパネル・アレイで構成される電気透析システムを構築した。

 このシステムの革新は、システムのすべての部分からのセンサー読み取り値を使用して、スタックに水を汲み上げる最適な速度と、水から抽出される塩の量を最大化するためにスタックに適用する必要がある電圧を予測するモデル-ベースの制御システムであった。

 チームがこのシステムを現場でテストしたところ、太陽の自然な変化に合わせて水の生成量を変えることができた。平均すると、このシステムはソーラーパネルで生成された利用可能な電気エネルギーの77%を直接使用した。これは従来設計のソーラー式電気透析システムよりも91%多いと、チームは推定している。それでも、研究者達はもっと改善できると感じていた。

 「3分毎にしか計算できず、その間に雲が文字通りやってきて太陽を遮ってしまう可能性がある。」とWinterは言う。「システムは「この高出力で動作させる必要がある。」と言っている可能性がある。しかし、日光が減ったため、その出力の一部が突然低下した。そのため、追加の電池でその電力を補わなければならなかった。」

 

ソーラー・コマンド

 研究者達は最新の研究で、システムの応答時間を1秒未満に短縮することで、電池の必要性をなくすることを目指した。新しいシステムは、1秒当り35回、脱塩速度を更新できる。応答時間が速いため、システムは1日を通して日光の変化に適応でき、追加の電源で電力の遅れを補う必要はない。

 より機敏な脱塩の鍵は、BessettePrattが考案したよりシンプルな制御戦略である。新しい戦略は、「流量指令電流制御」の1つで、システムは先ず、システムのソーラーパネルによって生成される太陽エネルギーの量を感知する。

 パネルがシステムの使用量によも多くの電力を生成している場合、コントローラーは自動的にシステムに「指令」してポンプのダイヤルを上げて、より多くの水を電気透析スタックに送り込む。同時に、システムはスタックに供給される電流を増やすことで追加の太陽エネルギーの一部を転用し、流れの速い水からより多くの塩を追い出す。

 「太陽が数秒ごとに昇としよう」とWinterは説明する。つまり、1秒間に3回、ソーラーパネルを見て、「ああ、電流が増えた。流量と電流を少し上げよう」と言う。もう1度確認して、まで余剰電力が残っていることが分かったら、さらに増やそう。そうすることで、消費電力と利用可能な太陽光発電を、1日を通して非常に正確に一致させることができる。また、このループを速く実行すればするほど、必要な電池バッファリングが少なくなる。」

 エンジニア達は、この新しい制御戦略を完全自動化システムに組み込み、約3,000人の小さなコミュニティに供給できる量の汽水地下水を淡水化できる規模に調整した。彼等は、ニューメキシコ州アラゴモ-ドの汽水地下水国立研究施設のいくつかの井戸でも6ヶ月間このシステムを運用した。

 試験中、プロトタイプはさまざまな太陽光条件下で動作し、平均してソーラーパネルの電気エネルギーの94%以上を淡水化に直接電力供給した。

 「従来の太陽光淡水化システムの設計方法と比較すると、必要な電池容量をほぼ100%削減できた。」とWinterは言う。

 エンジニア達は、低コストで完全に太陽光で動く飲料水をより大きなコミュニティ、さらには自治体全体に供給することを目指して、システムをさらにテストして拡張する予定である。

 「これは大きな前進であるが、我々は引き続き低コストでより持続可能な淡水化方法の開発に熱心に取り組んでいる。」とBessetteは言う。

 「我々の現在の焦点は、テスト、信頼性の最大化、そして再生可能エネルギーを使用して淡水化水を世界中の複数の市場に提供できる製品ラインの構築である。」とPrattは付け加える。

 チームは今後数ヶ月以内に、彼等の技術に基づいた会社を設立する予定である。この研究の共著者は、BessetteWinter、およびスタッフ・エンジニアのShane Prattである。