ナトリウム・イオン電池:ドーピングの仕組み
Sodium-Ion Batteries: How Doping Works
By Helmholtz Association of German Research Centres
https://techxplore.com/ より 2024.02.21
概略図はナトリウム・イオン電池を示している。陽極(左)は層状の遷移金属酸化物
で構成され、ナトリウム・イオンのホスト構造を形成する。遷移金属ニッケルは、
マグネシウムまたはスカンジウム・イオンで置き換えることができる。出典:HZB
ナトリウム・イオン電池には依然として多くの弱点があり、電池材料を最適化することで解決できる可能性がある。1つの可能性は、陽極材料に異種元素をドープすることである。HZBとベルリンのフンボルト大学のチームは現在、スカンジウムとマグネシウムのドーピングの影響を調査している。
科学者達は、全体像を把握するためにX線原BESSYⅡ、PETRAⅢ、およびSOLARISでデータを収集し、陰極の安定性を決定する2つの競合するメカニズムを明らかにした。彼等の研究は、Advanced Materials誌に掲載されている。
リチウム・イオン電池は1 kg当たりのエネルギー密度が可能な限り最高であるが、リチウム資源には限りがある。一方、ナトリウムは事実上無制限に供給され、エネルギー密度の点で次善の選択肢となる。したがって、特に定置型エネルギー貯蔵システムなど、電池の重量が大きな問題にならない場合には、ナトリウム・イオン電池が優れた代替手段となる。
しかし、専門家は、これからの電池の容量は、陽極の材料設計をターゲットにすることによって大幅に増加できると確信している。ニッケルおよびマンガン元素を含む層状遷移金属酸化物で作られた陽極材料(NMO陽極)が特に有望である。
これらは、放電中にナトリウム・イオンが蓄積され、充電中に再び放出されるホスト構造を形成する。しかし、最初は容量が向上しても、最終的には局所的な構造変化を通じて陽極材料が劣化する化学反応のリスクがある。これにより、ナトリウム・イオン電池の寿命が短くなる。
「しかし、高い安定性を備えた大容量が必要である。」とPhilipp Adelhelm教授が率いるベルリン・フンボルト大学とHZBの共同研究グループ「オペランド電池分析」のメンバーであるKatherine Mazzio博士は言う。Ph.Dが主導学生のYongchun Liは現在、外来元素のドーピングがNMOの陽極にどのような影響を与えるかを調査した。
ニッケル(Ni2+)と同様のイオン半径を持ち、価数状態が異なるさまざまな元素(マグネシウム・イオン(Mg2+)またはスカンジウム・イオン(Sc3+))がドーパントとして選択された。
BESSYⅡ、PETRAⅢ、SOLARISでの3年間の実験
2つの元素の影響を解明するには、3つの異なるX線源で実験を実行する必要があった。BESSYⅡでは、共鳴非弾性X線散乱と軟X線および硬X線範囲のX線吸収分光法を使用して試料を分析した。PETRAⅢでは、X線回折と硬X線による一対分布関数分析で構造変化を評価し、マグネシウム元素に関するより詳細な洞察を得るために、SOLARISのPIRXビームラインで追加のソフトXAS研究を実施した。
「結果は我々を驚かせた。」とMazzioは説明する。スカンジウムをドーピングすると、マグネシウムをドーピングするよりも電池化学サイクル中に構造変化が少なくなるが、安定性は向上しない。「これまでは、相転移(ひいては体積変化)を抑制すれば、多くのサイクルにわたる陽極材料のサイクル性能も向上すると考えられていた。しかし、それだけでは十分ではない。」
マグネシウムをドーピングすると、NMOの酸素酸化還元反応がさらに抑制される。マグネシウムは層状マンガン酸化物中で酸素酸化還元反応を引き起こすことが知られているため、これも予想外であった。「NMOのさまざまなMg/Ni比を分析したところ、酸素酸化還元反応は1に近い比で最小値に達することが分った。」とMazzioは説明する。
「高度なX線技術を組み合わせることによってのみ、長期サイクル挙動を改善するために重要なのは抑制相転移だけではなく、NiとOの酸化還元活性の間の相互作用が性能を左右するこれまでのところ、を示すことができた。」