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振るかかき混ぜるか:結晶成長を早める鍵

Shaken or Stirred: The Key to Faster Crystal Grow

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/    2022.12.21

 

 

原子解像度のタイムラプス画像により、結晶がどのように成長するかが、これまで見たことのないほど詳細に明らかになる。

 

 濃縮塩溶液をかき混ぜると、微細な結晶ができる。日本の研究者達が初めて、高速画像撮影法を用いて原子分解能で結晶が成長する仕組みを明らかにした。その研究結果は、濃縮塩溶液をかき混ぜると結晶成長が加速する理由を示している。この研究は、これまで見過ごされてきた結晶成長を正確に制御するための洞察を提供している。この研究で使用された技術は、さまざまな産業用途に利用できる。

 「結晶形成は、核形成と結晶成長の2つの段階からなる。昨年、我々は最初の段階の画像を撮影し、現在、10倍高速なカメラを使用して2番目の段階を分析する国家的な取り組みで考慮すべき事項に成功した。」と東京大学のEiichi Nakamura教授は述べている。

 核生成の過程では、イオンと分子が特定のパターンに整列して、より多くのイオンが結合する場所を形成する。その後、結晶の成長が始まる。このプロセスを極めて詳細に撮影するために、研究者達は過去15年間で2つの技術を開発した。1つ目の技術では、水分散性円錐カーボン・ナノチューブと呼ばれる微小容器を使用する。塩化ナトリウム結晶は微小容器内で成長し、より鮮明に観察できる。2番目の技術は、単分子原子分離能時間分解電子顕微鏡法(SMART-EM)と呼ばれる透過型電子顕微鏡を使用する。この顕微鏡は個々の分子を分解でき、最先端のカメラを使用して、動いているイオン対(Na+Cl-)の画像を毎秒300フレームで撮影できる。この2つの技術により、Nakamura教授とチームは、NaCl分子の連続供給と容器の穏やかな低周波振動が結晶成長段階を促進することを実証した(1,省略)

 結晶の成長は、新しいイオンが核形成部位に集まることから始まる。その後すぐに、欠陥のない結晶層の上にNaClイオン・ペアの小さな島が形成される(2およびビデオ1(省略

)を参照)。島は表面に固定されていないため、研究者達はこれを「浮島」と呼んでいる。島は容器の振動ごとに集まったり、分解したり、動き回ったりする。大きくなっり小さくなったりして、運動エネルギーを失って結晶層に着地すると、新しい結晶層の急速な蓄積が始まる。浮島はめったに発生しないが、結晶の成長には必要である。そのため、飽和塩溶液をかき混ぜると、結晶の成長を加速できる浮島が形成される。穏やかな振動がなければ、結晶の成長は遅くなる。

 「振動が結晶成長に与える影響を原子レベルで直接観察することに成功したことで、微小な機械的刺激が分子レベルでどのような現象を引き起こすのかを研究できることが分かった。この研究手法により、これまでブラックボックスであったマクロな分子集合体の応答を生み出す分子ひとつひとつの挙動が明らかになる。分子レベルの観察に基づいて、マクロな応答を示す新材料の開発も可能になる。さらに、原子や分子の動きを目で見てわかるSMART-EMが化学教育のツールとなることを期待している。」とNakamura教授は語る。