ナトリウムがスポーツ・パフォーマンスに与える影響
Sodium’s Impact on Sports Performance
By Coach Joe Beer
https://www.sportsbloodtests.co.uk/より 2024.08.16
塩、あるいはナトリウムは、水分補給と筋肉機能に大きな役割を果たす。水分補給と食
事については多くの神話がある。1つはっきりしていることは、食事のこの要素について学
び、測定し、最適化することが、次の大きな栄養限界利益であるということである。
Joe Beerが新しいデータ、見逃されていた貴重な研究、改善された推奨事項をいくつか公開する…
ナトリウムとは何か?
では、ナトリウムとは何か?
あまり専門的になりすぎないように言うと、ナトリウムは血圧、血液量、浸透圧平衡などの機能をコントロールする体内の重要なミネラル(別名電解質)である。発汗によるナトリウムの損失はスポーツのパフォーマンスに影響するため、バランスの取れた食事やサプリメントで補給することが重要である。
最後の項目は少々技術的なので、体のさまざまな細胞を適切なサイズに調整できるようにする、という所から始めよう。体内には合計で約70~90 gのナトリウムが蓄えられており、そのうち60%は体液に、残りの40%は骨格に蓄えられている。
アスリートにとってナトリウムが重要な理由とは?
ナトリウムは、体液バランス、神経機能、筋肉のパフォーマンスを維持するのに役立つ。アスリートにとって適切なナトリウム濃度を維持することが重要である理由は次の通りであ:
● 体液バランス:ナトリウムは細胞内外の水分量を調節する。運動中、特に暑い環境では、アスリートは汗をかいてナトリウムを失しなう。ナトリウム濃度が下がりすぎると、脱水症状、痙攣、低ナトリウム血症と呼ばれる危険な状態を引き起こす可能性がある。
● 神経機能:ナトリウムは神経インパルスの伝達に不可欠である。ナトリウムは神経が筋肉に信号を送り、運動を可能にする。十分なナトリウムがないと、これらの信号が妨害され、筋肉が弱くなったり、適切に収縮しなくなったりすることがある。
● 筋肉機能:ナトリウムはカリウムなどの他の電解質と連携して筋肉の収縮を促進する。適切なナトリウム濃度は、痙攣を防ぎ、激しい身体活動中に筋肉が効率的に機能することを保証する。
● 血圧調節:ナトリウムは適切な血液量と血圧を維持するのに役立つ。これはアスリートにとって重要である。安定した血圧は、運動中に筋肉と臓器に十分な酸素と栄養素を供給するためである。
アスリートにとって、ナトリウムの適切なバランスを維持することは、パフォーマンスを最適化し、痙攣や胃の問題を回避し、長時間または激しい運動中の全体的な安全を確保するために不可欠である。
アスリートの食事におけるナトリウム
運動中に汗をかくことで、我々はほとんどのナトリウムを失う。考えて見て下さい。運動を開始してから約10~15分以内に発汗に気付くであろう。
努力が大きければ大きいほど、発汗は早く始まり、多くのアスリートは屋内の床を水浸しにしたり、暑い屋外でトレーニングしているときに汗まみれの姿になったりする。1時間当り1.5リットル以上の発汗量を記録するのが一般的で、暑さの中で競技する非常に高度なトレーニングを受けたアスリートは1時間当り3リットルを超えることもある!
アスリートの体格が大きく、パワーが大きければ大きいほど、発汗量も大きくなる。ほとんどのアスリートは、体液の2~4%の損失(例えば、2~3リットル)には対処できるが、それ以上になると、多くの身体機能が鈍化または変化し始め、パフォーマンスの低下につながり、最終的には体がサバイバル・モードになり始める可能性がある。
長時間の運動中に水分摂取量が不十分であると、ナトリウムに比べて水分が不均衡に失われる脱水症状を引き起こす。この不均衡により、血液量が減少するにつれて血中ナトリウム濃度が上昇し、高ナトリウム血症と呼ばれる状態になる。これにより、体温が上昇し、疲労が誘発されてパフォーマンスが低下する可能性がある。水分摂取量が制限されている場合は脱水が懸念されるが、過剰な水分摂取は別のリスクをもたらす。
運動関連低ナトリウム血症は、アスリートが水分を過剰に摂取し、血中ナトリウム濃度が危険なほど低くなることで起こる。脱水、痙攣、熱中症を予防しようとして誤った方法で純水を飲み過ぎると、この致命的な状態につながる可能性がある。水が細胞に流れ込むと、嘔吐、発作、肺浮腫、脳浮腫などの重篤な症状が発生することがある。軽症の場合は、頭痛、疲労、吐き気などの症状が現われる。
食事中のナトリウム濃度を維持すると、次の症状が緩和される:
1. 電解質バランス
2. 水分補給
3. パフォーマンス
4. 回復
ナトリウムについては誤った情報が数多くある。多くの人に尋ねると、ナトリウムは悪いので避けるべきだと答えるであろう。しかし、現実は違う。
残念ながら、この記事を読んでいる皆さんは、情報化時代に溢れる健康に関するメッセージを聞いている。アルコールの飲み過ぎはよくない、タバコや電子タバコは吸わない、紫外線レベルに注意する。そしてもちろん塩は悪い、などである。後者はほとんどのアスリートには当てはまらない。アスリートは定期的に汗をかき、ナトリウムを失い、さらにグリコーゲンを排出したり補充したりするからである。このように常に体内に水分を補給し、水分を含む食品を食べたり飲んだりすることは、「塩を減らそう」というメッセージが対象とする平均的な男性や女性とは本当にかけ離れていることを意味する。
しかし、塩は悪い物であるという過剰な考え方に基づいて、アスリートのキッチンから塩が捨てられることがある、その結果、塩の摂取量が少なくなり、水分補給が不十分になり、多くのアスリートが必要以上に頻繁にトイレに駆け込むことになる。塩は悪い物で、バケツに入ったミネラルウォーターは良い物ですよね?違います!
アスリートはどのくらいのナトリウムを必要とするのか?
食事ガイドラインによると、平均的な成人は1日当たり約1,500~2,300 mgのナトリウムを必要とする。しかし、アスリートは激しい運動中に汗で失われるナトリウムのために、はるかに多くのナトリウムを必要とする場合がある。
健康やフィットネスの多くの分野と同様に、定期的にトレーニングを開始すると(週6~
12時間)、ルールが異なる。中間の推定値として、アスリートは1リットルの汗につき500
~1,500 mgのナトリウムを失う可能性がある。アスリートの発汗量が多いほど、補給する
必要があるナトリウム量も多くなる。例えば、暑い気候で競技する長距離ランナーやトラ
アスロン選手は、涼しい環境で短時間のトレーニングを行なう人よりも大幅に多のナトリ
ウムを必要とする可能性がある。
アスリートによっては、血液検査や発汗検査などの個別アプローチで、特定のナトリウム必要量を判断することが有効な人もいる。これは長時間の運動を行なう持久力アスリートにとって特に重要である。
画期的なツールであるS1を使用すると、アスリートやコーチは、運動、トレーニング、持久力イベントでの実際の発汗量とナトリウム測定を確認できる。これは画期的なことである。ナトリウム排泄量を特定し、個々の水分補給計画、使用した製品に含まれるナトリウムと損失量の計算、アスリートが運動後のナトリウムと水分含有量の水分補給習慣を変える必要があるかどうかを特定する。
例えば、セッション後、S1デバイスはアスリートに、運動中にすでに摂取した分を除いて、1.13リットルの水分を摂取し、1.131 mgのナトリウムを摂取する必要がある抗原特異的を通知する。賢い方法である。
重要なのは、これが教育プロセスを開始し、それがあなたに力を与えることである。データがあれば、より良い決定を下すことができる。アスリートが実際に失うナトリウム量と実際の発汗量を確認すると、目を見張るものがある。次に食事からのナトリウム摂取量、彼等が摂取するスポーツ栄養製品には何が含まれているか、アスリートはこの重要な水分補給サイクル(失う、分析する、補充する)に気付いていないかどうかについて質問する必要がある。
人気のスポーツ・ドリンクやジェルのほとんどには、ある程度の量のナトリウムが含まれているが、このリストから分かるように、その量はメーカーによって大きく異なる。
SIS GO=ナトリウム 0 mg
PASエナジージェル= 182 mg/回
GU Roctane = 180 mg/回
PowerGels = 200 mg/回
Maurten 320 = 500 mg/回
この情報を入手することで、トレーニングやレース当日に適切な栄養摂取量を選択するのに非常に役立つ。
口の中の塩味の味蕾が、現在のナトリウム濃度に応じて食物の塩味を強めたり弱めたりできると知ったら、驚かれるかもしれない。塩に対する欲求は、複雑な神経内分泌機構によって厳密に制御されている。自宅で、塩味のポテト・チップスとビール1パインとを使って実験することができる(アルコールは、脳が塩を欲しがる原因となるアルドステロンというホルモンの放出を抑制する)。
ナトリウムにはマイナス面があるか?
アスリートが塩を摂り過ぎるとどうなるか?そうですね、高血圧、腎臓病、ガン、その他の過剰摂取による病気など、ナトリウムの過剰摂取に関連する健康上の問題がある。しかし、アスリートは塩を恐れ、必要な量について十分な知識を持っておらず、運動中の水分補給と運動後の水分補給のために飲むものをよりよく監視しているように見受けられる。
私がコーチとして観察した内容には、ナトリウム摂取量が少なすぎるために起こる過度の排尿(トレーニングやレース中に複数回起こることもある)、トレーニング・セッションやイベント(おそらく2~3時間以上)でのナトリウム摂取不足によるイベント後の塩分過多、こうした長時間の運動セッションの直後に体調を崩したり低血圧になったりすること、そして実際のナトリウム損失量がアスリートの考えと比べて計算されたときに大きな驚きの認識があることなどが含まれる。
摂取不足とタイミングの悪さは、活動的なアスリートにとってより問題である。活動的でなく、食生活も悪い「普通の人々」は、私のターゲット・グループでもなければ、私が関係している人々でもない。残念ながら、加工食品やボトル入り飲料業界の力と戦うのはNHSに任されている。
覚えておいて下さい。運動や競技のあらゆる場面で発汗量が一定ではないため、1時間毎に900 mlなど、正確なスケジュールで水分補給することはできない。喉の渇きに合わせて水分を摂取するだけでなく、塩をどれだけ欲しがっているかにも注意して下さい。いつも普通の水しか飲んでいないなら、ナトリウムを追加した水分補給ドリンクを検討する時期かもしれない。
塩を賢く摂取するためのヒント
1.習慣
水分補給の習慣を見てみよう。厳格な規則に従って飲んでいるか、それとも喉の渇きに耳を傾けて周囲の変化に適応しているか?トレーニング日記には、「ランニング中に4回トイレに行かなければならなかった。」や「乗馬後に塩と酢のポテト・チップスを3袋食べた。」、または「少ししか飲まなかったらその後頭痛がした。」などと記入する。
2.試してみる
長時間の暑くて汗をかいた運動の後に塩を大量に摂取するのを待たずに、ナトリウムを含む製品を見て、1時間当り約400~800 mg(控えめな推測である)の範囲を摂取するようにする。数時間の運動をする場合、この目標のナトリウム摂取量でトレーニング中のトイレの必要性や運動後の塩過剰摂取を減らすことができるかどうかを追跡する。
3.追跡
自宅での調理中や1日を通して食べる食物に含まれる塩量をチェックする。目標はナトリウムをゼロにすることや過剰に食べることではない。中間点があり、ナトリウムを摂取するタイミングと量は、トレーニング日記やイベントのフィードバックで非常に役立つ追跡指標になる。トレーニングが増えると、汗とナトリウムの損失も増えることを忘れてはならない。
4.安全に
高血圧に関する家族の問題、水分補給に影響を与える薬、または極端なナトリウム濃度に関連する可能性のある健康上の問題(長時間の活動後の失神など)に関する懸念がある場合は、専門家の助けを求める。
26分も速くなるという話は聞いたことがあるか?
ここまで読んでくれた皆さんには、ご褒美に持久力トレーニング中のナトリウム補給がもたらすメリットに関する素晴しい研究がある。Juan Del Cosoと同僚達は、中距離ハーフ・アイアンマンのアスリートと、レース当日の補給にナトリウムを補給することの効果について調べた。
2015年にScandinavian Journal of Medicine and Science in Sportsに掲載された彼等の研究では、約5時間のイベント中に合計2500 mgのナトリウムと他の電解質を追加した場合、トライアスロンのレース時間が大幅に短縮されることが示された。
これは二重盲検法の研究であるため、実験者もアスリート自身も、ナトリウム錠剤を摂取したのかプラセボを摂取したのかを知らなかった。しかし、現地での研究であるため、毎日のイベントは完璧には行なわれなかった。例えば、各グループ(プラセボまたは電解質摂取者)から5人の被験者が脱落し、アスリートがどれだけ頑張って食事を摂ったかにも左右された。
しかし、研究の欠点にもかかわらず、ナトリウムを余分に摂取した人は、余分に摂取しなかった人よりも平均26分早くイベントを終えた。
同様に、Hamoutiと同僚達は2012年にサイクリストを対象に、「水とナトリウム対水のみ」のシナリオを研究した。2時間のサイクリング後、サイクリストはタイムトライアルを行なった。結論として、サイクリストが使用する飲料にナトリウムを加えると、20ワット速く走れるようになった。これは、大きな安価な利点である。このような利点は、サイクリング技術や衣類で購入するには高価である。数百ポンド、場合によっては数千ポンドである。
最終的な考え
運動では、「喉が渇いたら飲む」というメッセージから、より長く、より速く走る能力を高めるために炭水化物でエネルギーを補給するようになった。電解質ドリンク、粉末、ドロップイン水分補給トローチに添加されたナトリウムは、今やスポーツや運動の水分補給改善の次のレベルとして真に認識されている。
すべてのアスリートに当てはまる目標、製品、教訓は1つではない。すでに塩に詳しいアスリートもおり、食事に塩をたっぷりと取り入れ、何年もの間、長距離の競技で塩分補給をしている。しかし、多くの人は依然としてナトリウム損失に気付かず、塩を避け、水分補給を間違えて、運動や持久力の課題を非常以上に難しくしている。中には健康に危険をもたらす人もいる。
S1センサーのような進歩、塩はエルゴジェニック補助であり悪い物ではないと言う話は、教育とナトリウムを受け入れるというこの素晴しい新世界についての議論を通じて、水分補給を個人に合わせて調整するのに役立つだけである。