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持続可能な電池のために、一つまみの塩を加えるだけで乱れた

岩塩がEV電池のエネルギー密度を3倍にする可能性がある

For Sustainable Batteries, Just Add a Pinch of Salt > Disordered Rock Salt Could Triple Energy Density for EV Batteries

By Prachi Pater

https://spectrum.ieee.org/         2023.10.02

 

 乗用車、トラック、バス(さらには飛行機や電車)が化石燃料の燃焼から電池での走行にますます切り替わるにつれて、重要な電池金属の需要が急増し始めている。マーケット・インテリジェンス会社S&P Globalの最近のレポートによると、電動自転車の販売は2023年から2027年にかけて倍増すると予想されており、その結果、2024年までにリチウムが不足し、2027年までに今日のリチウム電池正極の2つの主成分であるニッケルとコバルトが不足することになると言う。

 研究者達は、これらの重要な金属の使用量を減らしたり、金属を完全に置き換えたりするカソードを作ろうとしている。ある研究チームは、食卓塩の親戚である無秩序岩塩(DRX)というまさに適切な材料を見つけたのではないかと考えている。ローレンス・バークレイ国立研究所(バークレー研究所)が率いるDRXコンソーシアムは現在、有望な新しい正極候補の商品化に向けて競い合っており、5年以内にEV電池用のDRX正極を実証する計画を立てている。

 DRX正極は、現在可能であるよりも重量当りのエネルギーが大幅に大きいリチウム・イオン電池を実現する可能性があり、これにより車両の航続距離が長くなる。そして、これらのカソードは、コバルトやニッケルを使用しなくても、このエネルギー密度の利点を提供できる。DRXコンソーシアムの初期の配合物の一部は、ニッケルやコバルトよりも安価なマンガンまたはチタンで作られている。

 「さまざまな遷移金属を沢山使うことができる。」とカリフォルニア大学バークレー校材料科学工学教授Gerbrand Cederとともにコンソーシアムを共同主導するバークレー研究所の研究科学者Guoying Chenは言う。「元素ははるかに豊富で、簡単にアクセスできる。ここ何年も、従来のリチウム・イオン正極材料はニッケルとコバルトに依存してきたが、今では突然、多用途で柔軟なスペースが手に入るようになった。持続可能性は本当に大きな利点である。」

 現在の電池に使用されている高密度の正極は、リチウム金属酸化物で作られている。これらは、リチウムとコバルト、ニッケル、その他の金属が交互に繰り返される層で構成される結晶構造を持っている。リチウム・イオンは層間の隙間に簡単に出入りし、コバルト・イオンは構造を安定させる支柱のような役割を果たす。「コバルトのようなものを使用しない場合、これらの材料を充放電するときに層状構造の安定性が低下する。」とChenは言う。コバルト・フリーの正極を作るための研究プロジェクトがいくつか進行中であるにもかかわらず、コバルトを完全に除去することが課題となっているのはこのためである。

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「長年にわたり、従来のリチウム・イオン正極材料はニッケルとコバルトに依存していたが、今では突然、多用途で柔軟なスペースが手に入るようになった。」

Guoying Chen、バークレー研究所研究員

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 しかし、すべての電池金属の中で、コバルトは特に厄介な金属である。世界のコバルトの半分以上はコンゴ民主共和国で産出されており、そこでの採掘行為により環境問題や人権問題への懸念が生じている。世界の新しい地域でコバルトやその他の電池金属を見つけるための良い方法を使用することが1つの解決策である。海洋からの採掘も別であるが、それ自体が問題を浚渫する。

 DRX材料は層状ではなく立方体の結晶構造を持っているため、安定性のためにコバルトを必要としない。リチウム・イオンは従来の層状正極材料のように二次元ではなく3次元で材料に浸透する。これは、DRX正極に「より多くのリチウム・イオンを充填できるため、より多くのエネルギー密度を提供できることを意味する。」とChenは言う。「我々はこれをリチウム過剰正極材料と呼んでいる。」

 2014年にCederらによって初めて報告されたDRX材料は、計算研究におけるリチウム・イオン貯蔵に十分な有望性を示したため、研究者達はこの材料について4年間にわたる徹底的な研究を実施した。その後チームは、アメリカエネルギー省自動車技術局からの2,000万ドルの資金提供を受けて、202210月にDRXコンソーシアムを立ち上げた。

 これらのコンソーシアムは、DOEのさまざまな国立研究所や大学にまたがっている。さまざまなチームが、DRXカソードの新しく改良された化学組成を考案するための計算モデリングに取り組んでいる。材料を作成し、特性を評価して改善するために実験的にテストしている。そして電池のDRX正極と最適に機能する新しい電解質を開発している。

 Chenは、研究者達が乗り越えなければならない最大の問題は、数千回の充放電サイクルに耐えられる安定した材料を作ることであると語る。「当社の材料は優れた性能を示しているが、我々が取り組んでいる主な取り組みの1つは、DRX材料を使用して電池のサイクル寿命を改善することである。これらの材料がEVの電池で長期間持続することが望まれる。」