塩を渡して。パワーは内部にある
Pass the Salt Please. Power Lies within
By Anthony King
https://projects.research-and-innovation.ec.europa.eu/ 2024.04.29
新世代の電池は、EUのグリーン化の野望を後押しするかもしれない。
ヨーロッパのグリーン産業の未来は、家庭の必需品である食卓塩にかかっているかもしれない。
フランスのTiamat Energyの研究者であるJohn Abou-Rjeily博士は、ナトリウムを使って充電式電池を開発している。ナトリウムは塩化ナトリウムの一部で、イオン化合物で通常の塩の専門用語である。
供給源
ナトリウム・イオン電池の背後にある考え方は、歯ブラシや携帯電話からモペットや自動車まで、あらゆるものに電力を供給するリチウム・イオン電池へのヨーロッパの依存を減らすことである。
今日の電池には、リチウム、ニッケル、コバルトなどの希少で有毒な材料が含まれているが、ナトリウムは地球上で最も豊富な元素の1つである。
「ナトリウム・イオン電池は、リチウム・イオン電池よりも豊富で安全な材料をベースにしている。」とAbou-Rjeilyは言う。「リチウム・イオン、コバルト、ニッケルは、すべての人のニーズを満たすには足りない。」
同氏は、ナトリウム・イオン電池の設計と製造を行なうTiamat社の研究開発エンジニアである。Abou-Rjeilyは、商業的に魅力的で、ヨーロッパの製造業の新たな基盤となり得るナトリウム・イオン電池を開発するためのEU資金による研究プロジェクトを主導した。
NAIMAと呼ばれるこのプロジェクトは、2019年12月から2023年5月まで実施された。ブルガリア、ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、スロベニア、スペイン、スエーデンの企業、研究機関、大学が参加した。
電池充電
電池は、化石燃料を風力や太陽光発電などの再生可能エネルギー源に置き換えるというヨーロッパの取り組みの中心である。ヨーロッパでクリーン・エネルギーを増やすには、電池が提供できる新しい貯蔵容量が必要である。
ヨーロッパの電池市場は、2025年までに年間2,500億ユーロに達する可能性がある。ヨーロッパは、世界の電池セル生産に占めるシェアを2018年の3%からこの10年間で25%まで引き上げ、アジアの85%の優位性を削り取ろうとしている。
EUは、ヨーロッパが電池の需要増大に対応できる産業基盤と供給ネットワークを確保するために、さまざまな研究プロジェクトに資金を提供している。
この研究は、電池製造に必要な原材料へのアクセスやエネルギー貯蔵に必要なインフラから、電力が最も安いときに車両を自動的に充電する「スマートグリッド」、リサイクルを保証する電池設計まで、サプライチェーンのすべてのセグメントをカバーしている。
リチウム・イオン電池は小さなスペースに大量のエネルギーを蓄えることができるため、スマートフォンや電気自動車に最適である。ナトリウム・イオン電池は若干大きく、安価になる可能性があるため、家庭、電動工具、小型車などの場所でエネルギーを蓄える候補となる。
フレンチ・コネクション
レバノン出身の化学者Abou-Rjeilyは、環境の持続可能性への関心を追求するため、2016年にフランスに移住した。同氏はリチウム、コバルト、銅を使わず、ニッケルのほとんど使わないナトリウム・イオン電池を製造しているTiamat社に馴染んでいる。同社はフランス国立科学研究センターからスピンオフした企業で、NAIMAの参加者の1つであった。
リチウム、コバルト、銅、ニッケルはEUの重要原材料リストに載っており、ヨーロッパでは外国の供給業者への依存と供給不足に対する懸念が浮き彫りになっている。例えば、世界のリチウム・イオン電池について言えば、2021年には中国が80%近く製造した。さらに、世界のリチウム・イオン電池生産の大半は自動車産業向けになると見込まれている。
Abou-Rjeilyによると、Tiamatは2026年にフランスのアミアン市に巨大工場を開設し、当初は電動工具などの機器に適したナトリウム・イオン電池を生産する予定である。同市はNAIMAが同社の電池に関するノウハウの向上に役立ったと述べた。
このプロジェクトでは、パートナーが再生可能エネルギー貯蔵用のナトリウム・イオン電池の開発を進める上でも役立った。この種の電池は、将来的には一部の車にも適したものになる可能性がある。
Abou-Rjeilyによると、このナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池の500 kmの容量に決して匹敵することはないが、短距離ではより競争力があるかもしれない。「短距離や中距離の運転ではより安価になる可能性がある。」と彼は語った。
ホームベース
ナトリウム・イオン電池を介して自動車と住宅をエネルギーでつなぐことは、ドイツのダルムシュタット工科大学の客員教授であるMagdalena Graczyk-Zajac博士の構想である。
ドイツのエネルギー会社EnBWの電気化学者でもある彼女は、EUの資金援助を受けた家庭用ナトリウム・イオン電池の開発プロジェクトに携わっている。SIMBAと呼ばれるこのプロジェクトは、3年半を経て2024年6月に終了する予定である。
Graczyk-Zajacは、住宅の太陽光発電パネルで集めたエネルギーが充電可能な家庭用ナトリウム・イオン電池に蓄えられる未来を描いている。その電池は住宅に電力を供給し、住民の電気自動車に充電する。
Graczyk-Zajacは、このようなシナリオは輸送費の大幅な削減を意味すると述べた。「年間8~9ヶ月間、車を無料で運転できる可能性がある。」と同氏は述べた。
家庭の利益
ナトリウム・イオン電池とリチウム・イオン電池は同じように機能するが、ナトリウムはリチウムよりも大きいイオンである。これが、ナトリウム・イオン電池が少しスペースをとる理由の1つである。
家庭での保管では、このような電池は地下やガレージに設置されるため、少し大きな電池でもあまり問題にならないと、Graczyk-Zajacは言う。
ヨーロッパ全土の約20の研究機関、大学、企業が参加するSIMBAは、実験室でのテスト用に家庭用ナトリウム・イオン電池の必須コンポーネントをいくつかまとめた。
部品の1つであるアノードは、木材やバイオ廃棄物から製造できる硬質炭素でできている。もう1つの部品であるカソードは、プルシアン・ホワイトと呼ばれる材料で作ることができる。
リチウム・イオン・カソードにはコバルトが含まれることが多いが、このプルシアン・ホワイト・カソードには鉄が含まれている。鉄はより豊富で安価な金属である。このカソードは、SIMBA参加者の1つであるスエーデンのウプサラ大学から2017年にスピンオフしたAltrisによって開発された。
一般的に、ナトリウム・イオン電池はヨーロッパの家庭に、より安価でクリーンなエネルギーの機会を約束する。
この電池は、貯蔵によって経済的利益も期待でき、その後、家庭での発電量が必要以上に多い場合に余剰電力を電力網に売るか、後で、家庭で使用するかを選択できる。Graczyk-Zajacは後で使用することを推奨している。「世帯主は、そのエネルギーをそのまま保持するだけで、より多くのお金を節約できる。」と彼女は言った。