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ナトリウム・イオン電池:エネルギー分野における

リチウム・イオンの有望な代替品

Sodium-Ion Batteries: A Promising Alternative to Lithium-Ion in the Energy Landscape

By Stefano Lovati

https://www.powerelectronicsnews.com/      2024.03.05

 

より持続可能で効率的な電池技術に対する高まるニーズを満たす革新的な解決策は、常に変化するエネルギー貯蔵分野の研究者やエンジニアによって求められている。

 

 リチウム・イオン電池は電気自動車、携帯型電子器機、エネルギー貯蔵システムの基本コンポーネントとして登場し、グローバルに相互接続された社会において重要な電源とし機能している。以前の電池技術と比較して、この主要な技術は、より高いエネルギー密度、より長いサイクル寿命、環境への影響の低減を実現するとこで、エネルギーの利用方法を大きく変えた。

 

リチウム・イオン技術とその限界

 リチウム・イオン電池技術は、その利点と幅広い使用にもかかわらず、いくつかの制限がある。まず、エネルギー密度の向上はここ数年鈍化している。この確立された技術がピークに達する時間は分からないが、非常に高いエネルギー密度が求められる電気航空などの新興またはニッチな用途での使用には現在、制限がある。

 ご存じのとおり、潜在的な安全性の問題もある。リチウム・イオン電池は過熱しやすく、熱暴走状態を引き起こしたり、極端な場合には火災を引き起こしたりする可能性がある。

 最後に、リチウム・イオン電池の製造に必要なリチウム、ニッケル、コバルトなどの原材料の供給に関する深刻な問題がある。科学者は、現在および将来の電池需要を満たすのに十分なこれらの材料が地球上に供給されていると考えているが、稼働中の採掘施設の数は限られており、新しい工場の建設には数年かかる。原材料の不足により価格変動が激しくなり、リチウム・イオン電池のコストが上昇する。

 

ナトリウム・イオン技術

 より持続可能で効率的な電池技術に対する高まるニーズに応える革新的な解決策は、常に変化するエネルギー貯蔵分野の研究者やエンジニアによって求められており。人気のリチウム・イオン電池の競合相手は、大きな可能性を秘めているナトリウム・イオン電池である。

 希少で高価なリチウムとは対照的にナトリウムはナトリウム・イオン電池の主成分である。ナトリウムは、サプライチェーンと価格変動に問題があるリチウムよりも、より安定的で経済的に実現可能な代替品である。地殻に豊富に存在するナトリウムは、資源不足の懸念を和らげるために、大規模な電池製造に適している。

 より手頃な価格であることに加えて、ナトリウム・イオン電池は環境に良い影響を与える可能性がある。ほとんどの人は、環境問題につながる可能性があるリチウムの処理と抽出よりも、ナトリウムの製造と抽出の方が環境に優しいと考えている。さらに、ナトリウムの反応性が低いため、ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池よりも安全である可能性がある。

 ナトリウム・イオン電池のコンセプトは有望であるが、この技術にはいくつかの問題がある。ナトリウム・イオン電池がリチウム・イオン電池に負けないように、科学者達はエネルギー密度、サイクル寿命、安全性の向上に懸命に取り組んでいる。これらの障害を克服し、ナトリウム・イオン電池の潜在能力を最大限に引き出すことが、陽極材料、電解質、セル設計における継続的なイノベーションの目標である。

 

電気自動車およびエネルギー貯蔵システムへの応用

 再生可能エネルギー源を電力網に統合し、輸送手段を電化することは、ナトリウム・イオン電池の使用から大きな恩恵を受ける可能性がある。ナトリウム・ベースの化学はコスト効率が高く、拡張性が高いため、大規模なエネルギー貯蔵システム、や電気自動車への導入に非常に魅力的である。より持続可能なエネルギーの未来に貢献するナトリウム・イオン技術は、リチウム・イオン電池に関連する経済的障壁を克服することで、電気自動車やエネルギー貯蔵システムの採用を加速させる可能性がある。

 中国の自動車メーカー電池メーカーはここ数ヶ月、リチウムの代わりにナトリウムを使用する電池化学の実験を発表している。この技術が、各社が確立した高価な基準を満たすことができれば、これらの新しいナトリウム・イオン電池は、定置型蓄電池と電気自動車の両方の費用を削減できる可能性がある。

 昨年3月、中国の自動車および商用車メーカーであるJAC Motors、世界初のナトリウム・イオン電池車を発表した。図1(省略)に示す5人乗りの乗用車には、1回の充電で250 km走行できる25 kWhのナトリウム・イオン電池が搭載されている。北京に拠点を置くこれらの企業は、ナトリウム・イオン電池技術を、スクーター、バスなどの他の電気自動車プラットフォームにも適用する予定である。

 中国最大の電気自動車用電池メーカーであるCATLは、JACモーターズの直後に、自動車メーカーのChery Autoが製造する自動車向けにナトリウム・イオン電池を開発したと発表した。CATLが製造するナトリウム・イオン電池は、エネルギー密度が160 Wh/kg20217月にデビューした。これは硫酸酸鉄ナトリウム電池よりもわずかに低いが、製造コストの削減、低温での性能向上、安全性の向上など、いくつかの利点がある。

 この技術については、何時生産されるのか、電池を評価するためにどのような性能基準が使用されるのか、どのような種類のナトリウム・イオン電池が使用されるのかなど、まだ不明な点が多い。そのため、ナトリウム・イオン電池が量産自動車向けに準備されているかどうかは不明である。

 同等のリチウム・ベースの電池と同じ量のエネルギーを蓄えるには、より大きく重いナトリウム・ベースの電池が必要になる。その結果、同じサイズの電池を使用する電気自動車の航続距離が短くなる。JACモーターズが発表したような小型で航続距離の短い電気自動車の場合、より重く安価な電池が最善の選択肢となる可能性がある。

 ナトリウム・イオン電池メーカーにとって、よりアクセスしやすい可能性があるのは、送電網バックアップ電源を供給したり、家庭や企業のバックアップ電源として機能したりするエネルギー貯蔵システムなどの固定貯蔵施設である。

 アメリカに拠点を置くNatron Energyなどの企業は、スペースと質量が重要な考慮事項となる移動車両ではなく、固定された用途を念頭に置いて化学反応を開発している。競合する市販の電池と比較すると、Natron独自のプルシアン・ブルー電極は、内部抵抗、ナトリウム・イオンの貯蔵と移動の速度、移動頻度の点で優れている。産業用モビリティの未来は、Natronが製造するナトリウム・イオン電池にある。サイクル速度が10倍速く、サイクル寿命は50,000サイクルを超え、充電または放電時に負担がかからない。

 持続可能な電池の開発と製造を専門とするスエーデンの企業、Northvoltは最近、セル・ポートフォリオにナトリウム・イオン電池を導入すると発表した。

 エネルギー密度が1 kg当たり160 Wh/kgを超えることが検証されてこのセルは、従来のニッケル、マンガン、コバルトや硫酸酸鉄の化学組成に比べて、より安全、より経済的で、より環境に優しいものである。さらに、このセルは鉄やナトリウムなどの鉱物を使用して製造されており、これらは世界市場で容易に入手できる。

 Northvoltは、従来のエネルギー貯蔵製品の基盤としてナトリウム・イオン技術を使用する予定である。この技術は手頃な価格で高温に耐えられるため、インド、中東、アフリカなどの新興地域でのエネルギー貯蔵解決策として特に魅力的である。

 さらに、この技術は現地で調達した材料を使用して製造できるため、従来の電池サプライチェーンとはまったく異なる、新しい現地の電池生産能力を確立する絶好の機会を提供する。