新しいナトリウム・アルミニウム電池は、再生可能エネルギーを
統合し送電網の回復力を高めることを目指している
New Sodium, Aluminum Battery Aims to Integrate
Renewables for Grid Resiliency
By Karyn Hede
https://www.pnnl.gov/ 2023.02.07
低コストで地球に豊富に存在する原材料が、新しい送電網エネルギー貯蔵解決策の原動力となる。
ワシントン州リッチランド:Energy Storage Materials誌に掲載されたばかりの研究によると、新しい電池設計は、地球上に豊富に存在する金属を使用して、 再生可能エネルギーを低コストで国の電力網に統合するのに役立つ可能性がある。アメリカエネルギー省の太平洋岸西部国立研究所が率いる研究チームは、低コストの金属であるナトリウムとアルミニウムで構築された送電網エネルギー貯蔵電池の新しい設計が、より安全で拡張性の高い定置型エネルギー貯蔵システムへの道筋を提供することを実証した。
「この新しい溶融塩電池の設計は、従来の他の高温ナトリウム電池よりもはるかに速く充電・放電でき、より低温で作動し、優れたエネルギー貯蔵容量を維持できる可能性があることを実証した。」と太平洋岸西部国立研究所の材料科学者でこの研究の主任研究者であるGuosheng Liは述べた。「この新しいナトリウム・ベースの化学では、より地球上に豊富に存在する材料を使用しながら、市販の高温ナトリウム電池技術によりも100 ℃以上低い温度で同様の性能が得られる。」
より多くのエネルギー貯蔵が実現
この研究を支援したアメリカエネルギー省電力局エネルギー貯蔵プログラムのディレクターImre Gyukは、「国内で入手可能な低コストの材料で構築されたこの電池技術は、我が国のクリーン・エネルギー目標の達成に一歩近づくものである。」と述べている。
新しいナトリウム・ベースの溶融塩電池は、2つの異なる反応を利用している。研究チームは以前、中性溶融塩反応を報告していた。今回の発見は、この中性溶融塩がさらに反応して酸性溶融塩になる可能性があることを示している。重要なのは、この2番目の酸性反応メカニズムによって電池の容量が増加することである。具体的には、高電流で345回の充電サイクルを行なった後、この酸性反応メカニズムはピーク充電容量の82.8%を維持した。
電池が放電プロセスで供給できるエネルギーは、比エネルギー密度と呼ばれ、「 Wh/kgで表される。電池は初期段階、つまり「コインセル」テストの段階であるが、研究者は、実用的なエネルギー密度は最大100 Wh/kgになる可能性があると推測している。比較すると、市販の電子機器や電動自転車で使用されているリチウム・イオン電池のエネルギー密度は約170~250 Wh/kgである。ただし、新しいナトリウム・アルミニウム電池設計には安価で、はるかに豊富な材料を使用してアメリカで簡単に製造できるという利点がある。
「最適化により比エネルギー密度とライフサイクルがさらに高くなり、長くなると期待している。」とLiは付け加えた。
ナトリウム電池の実力
実際、太平洋岸西部国立研究所の科学者達は、アメリカに拠点を置く再生可能エネルギーのパイオニアであるNexcerisの同僚と協力して、電池の組み立てとテストを行なった。Nexcerisは新しいビジネスであるAdena Powerを通じて、特許取得済みの固体ナトリウム・ベースの電解質を太平洋岸西部国立研究所に提供し、電池の性能をテストした。この重要な電池コンポーネントにより、充電時にナトリウム・イオンが電池の負極から正極側に移動する。
「この技術の主な目的は。10~24時間にわたって低コストで毎日太陽エネルギーを電力網に取り込むことである。」と、エネルギー貯蔵システムと関連技術を30件以上持つ太平洋岸西部国立研究所の電池技術専門家Vince Sprenkleは語る。「これは風力や太陽光発電などの再生可能資源から真の電力網の回復力を提供するために、電力網に再生可能エネルギーをより多く統合することを検討し始めることができる絶好の機会である。」
Sprenkleは、この電池の新しいフレキシブル設計を開発したチームの一員であった。この設計により、電池は従来の管状から平らでスケーラブルな形状へと変化した。この形状は、コインサイズの電池からより大きな送電網規模の実証サイズへと技術が発展するにつれて、より簡単に積み重ねて拡張できる。さらに重要なのは、この平らなセル設計により、より厚いカソードを使用するだけでセル容量を増やすことができることである。研究者達は、この研究でこれを活用して、実験室条件下で28.2時間の持続放電を実現する3倍の容量のセルを実証した。
リチウム・イオン電池を含む現在の電池技術のほとんどは、短期的なエネルギー貯蔵に適している。10時間以上のエネルギー貯蔵の需要を満たすには、現在の最先端の電池技術を超えた低コストで安全かつ長時間持続する新しい電池コンセプトの開発が必要である。この研究は、その目標に向けた有望な実験室規模の実証を提供する。
送電網の回復力に関するテーマのバリエーション
再生可能エネルギーによって生成されたエネルギーを貯蔵し、必要に応じて電力網に放出する能力は、電池技術の急速な進歩を牽引し、多くの新しい設計が注目と顧客を競い合っている。それぞれの新しいバリエーションは、それぞれのニッチな用途の需要を満たす必要がある。太平洋岸西部国立研究所の凍結融解電池設計を持つ電池など、一部の電池は季節的に生成されたエネルギーを一度に数ヶ月間貯蔵できる。
季節限定の電池と比較すると、この新しい設計は12~24時間にわたる短期から中期の送電網エネルギー貯蔵に特に適している。これは、いわゆるナトリウム金属ハロゲン化物電池のバリエーションである。システムの一部としてニッケル・カソードを採用した同様の設計は、商業規模で効果的であることが示されており、すでに市販されている。
「電池の性能を犠牲にすることなく、比較的希少で高価な元素であるニッケルの必要性を排除した。」とLiは語った。「ニッケルとりもアルミニウムを使用するもう1つの利点は、アルミニウム・カソードがより速く充電されることである。これは、この研究で実証されたより長い放電時間を可能にするために不可欠である。」
このマイルストーンを達成したことで、チームは放電持続時間をさらに延ばすためのさらなる改善に注力しており、これにより再生可能エネルギー源のさらなる導入に向けた送電網の柔軟性が大幅に向上する可能性がある。
また、低温で作動するため、従来の高温ナトリウム電池のように複雑で高価な部品やプロセスを必要とすることなく、安価な電池材料で製造できると、太平洋岸西部国立研究所の電池専門家で研究の共著者であるDavid Reedは述べた。
より低コストでより多くの送電網エネルギー貯蔵
2023年、リチウム・イオン電池を使用した送電網エネルギー貯蔵の最先端のエネルギー貯蔵容量は約4時間分であるとSprenkleは述べた。「材料と製造の予想コスト目標を達成できれば、この新しいシステムにより貯蔵エネルギー容量が大幅に増加する可能性がある。」と同氏は付け加えた。
研究の一環として、研究者達は安価な原材料をベースにしたナトリウム・アルミニウム電池の設計では、活性材料のコストが1 kWhあたりわずか7.02ドルに抑えられると推定した。最適化と実用的なエネルギー密度の向上により、このコストは下がると予測している。この有望な低コストの送電網規模の貯蔵技術により、風力や太陽光発電などの断続的な再生可能エネルギーが、国の電力網にさらにダイナミックに貢献できるようになる。
研究の共著者でナトリウム電池構造メーカーのAdena Powerの社長であるNeil Kidnerは、太平洋岸西部国立研究所と連携してナトリウム・ベースの電池技術を進歩させている。「この研究は、当社のナトリウム電解質が当社の特許技術だけでなく、ナトリウム・アルミニウム電池設計でも機能することを示している。」とKidnerは述べた。「ナトリウム電池技術の進歩に向けて、太平洋岸西部国立研究所研究チームとのパートナーシップを継続することを楽しみにしている。」
この研究は、DOE電力局および韓国エネルギー技術評価計画研究所の国際共同エネルギー技術研究開発プログラムによって支援された。電解質の開発は、DOE中小企業革新研究プログラムによって支援された。核磁気共鳴測定は、生物環境研究プログラムによって後援されているDOE科学局ユーザー施設である環境分子科学研究所で行われた。