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研究者達は電動自転車や送電網エネルギー貯蔵用の

ナトリウム・イオン電池の重要な問題を解明

Researchers Crack a Key Problem with Sodium-Ion Batteries for

Electric Vehicles and Grid Energy Storage

 By Argonne National Laboratory

https://phys.org/より  2024.09.27

 

 リチウム・イオン電池は電気自動車の主力電源として長い間市場を独占してきた。また、電力網で使用する再生可能エネルギーの貯蔵用としても検討されるようになっている。しかし、この市場の急速な拡大により、今後510年以内にリチウムの供給不足が予測されている。

 「ナトリウム・イオン電池は、ナトリウムの豊富さと低コストにより、リチウム・イオン電池の魅力的な代替品として浮上している。」と、アメリカエネルギー省アルゴン国立研究所の化学者Gui-Liang Xuは述べた。

 これまで、このような電池の商業化には大きな障害があった。特にナトリウム含有カソードの性能は、放電と充電を繰り返すと急速に低下する。

 アルゴンヌのチームは、ナトリウム・イオン酸化物カソードの新しい設計で、この問題を解決する上で重要な進歩を遂げた。これは、実証済みの高いエネルギー貯蔵容量と長寿命を備えた、アルゴンヌの以前のリチウム・イオン酸化物カソードの設計に密接に基づいている。この研究はNature Nanotechnology誌に掲載されている。

 両方の設計の重要な特徴は、微細なカソード粒子にニッケル、コバルト、鉄、マンガンなどの遷移金属の混合物が含まれていることである。重要なことは、これらの金属が個々のカソード粒子に均一に分布していないことである。例えば、ニッケルはコアに現われ、このコアを取り囲むコバルトとマンガンがシェルを形成する。

 これらの要素はそれぞれ異なる目的に使用される。マンガンを多く含む表面は、充放電サイクル中に粒子に構造的安定性を与える。ニッケルを多く含むコアは、高いエネルギー貯蔵容量を提供する。

 しかし、この設計をテストしたところ、カソードのエネルギー貯蔵容量はサイクル中に着実に低下した。問題は、サイクル中に粒子に亀裂が形成されることが原因であった。これらの亀裂は、粒子のシェルとコアの間に生じる歪みが原因で形成された。チームはカソードの準備方法を微調整することで、サイクル前にその歪みを排除しようとした。

 合成プロセスを開始するために使用される前駆物質は水酸化物である。酸素と水素に加えて、ニッケル、コバルト、マンガンの3つの金属が含まれている。チームはこの水酸化物の2つのバージョンを作成した。1つはコアからシェルに金属が勾配で分布した物で、もう1つは比較のために、3つの金属が各粒子全体に均等に分布した物である。

 最終製品を形成するために、チームは前駆物質と水酸化ナトリウムの混合物を600℃まで加熱し、一定時間その温度に保った後、室温まで冷却した。また、さまざまな加熱速度も試した。

 この処理全体を通じて、チームは粒子特性の構造変化を監視した。この分析にはエネルギー省科局の2つのユーザー施設、アルゴンヌのAdvanced Photon Sourceとエネルギー省のブルックヘブン国立研究所のNational Synchrotron Light Source Iが使用された。

 「これらの施設のX線ビームにより、現実的な合成条件下で粒子の組成と構造のリアルタイムの変化を判定することができた。」とアルゴンヌのビームライン科学者Wenqian Xuは語った。

 研究チームはまた、アルゴンヌ国立研究所のナノスケール材料センターを利用して粒子の特性をさらに分析し、アルゴンヌ国立研究所リーダーシップ・コンピューティング施設のPolarisスーパーコンピューターを使用してX線データを詳細な3D画像に再構成した。ナノスケール材料センターとアルゴンヌ国立研究所リーダーシップ・コンピューティング施設もエネルギー省科学局のユーザー施設である。

 最初の研究では、均一粒子には亀裂は見られなかったが、250℃という低温で勾配粒子に亀裂が生じていることが明らかになった。これらの亀裂はコアとコアシェル境界に現われ、その後表面に移動した。明らかに金属の勾配によって大きな歪みが生じ、亀裂が発生した。

 「勾配粒子は高エネルギー貯蔵容量のカソードを生成できることが分っているので、勾配粒子の亀裂をなくす熱処理条件を見つけたいと考えた。」とアルゴンヌのポスドク研究員であるWenhua Zuoは語る。

 加熱速度が重要な要因であることが判明した。亀裂は毎分5℃の加熱速度で形成されたが、毎分1℃という遅い速度では形成されなかった。より遅い速度で調整された

カソード粒子を使用した小型セルでのテストでは、400サイクル以上にわたって高い性能が維持された。

 「カソード合成中に亀裂を防ぐことは、その後カソードを充電および放電するときに大きな利点をもたらす。」とGui-Liang Xuは言う。「ナトリウム・イオン電池はまだ長距離走行の車両に電力を供給するのに十分なエネルギー密度を持っていないが、市街地走行には理想的である。」

 チームは現在、カソードからニッケルを排除する作業に取り組んでおり、これによりコストがさらに削減され、より持続可能なものになる。

 「将来のナトリウム・イオン電池の見通しは非常に明るい。低コストで長寿命なだけでなく、現在、多くのリチウム・イオン電池に使用されているリン酸鉄リチウム電池正極に匹敵するエネルギー密度も備えている。」とアルゴンヌ国立研究所の特別研究員Khalil Amineは言う。「これにより、走行距離が長く、より持続可能な電気自動車が実現するであろう。」