戻る

塩溶液はより良い有機電気化学トランジスターを生成する

Salt Solution Produces Better Organic Electrochemical Transistors

 By King Abdullah University of Science and Technology (KAUST)

https://phys.org/より  2020.06.15

 

 ドーピングは半導体デバイスの性能を向上させるために一般的に使用されるが、電子輸送やn-型有機電子材料ではこれまで成功していなかった。現在、KAUSTによって開発されたアプローチでは、n-型半導体ポリマーの電子性能と水安定性を高める添加剤であるドーパントを使用して、OECT(有機電子材料トランジスター)として知られる最初の水安定性n-ドープ有機電気化学トランジスターを製造している。

 有機電気化学トランジスターはプラスチック混合導体(イオン電荷と電子電荷を同時に伝導する活性半導体層)でできている。これらの混合導体により有機電気化学トランジスターは電解質や体液中のイオン信号を電子信号に変換できる。ただし、n-型有機半導体の性能は生物学的システムによって決定される環境での正孔輸送対応物の性能よりも遅れており、論理回路やトランジスター・アレイの開発に対する大きな障害となっている。

 有機電気化学トランジスターの電子特性を強化するための現在の方法には新しいプラスチック混合導体の合成が含まれる。KAUSTチームはn-ドーパントとしてフッ化アンモニウム塩テトラ-n-ブチルアンモニウムを使用し、混合導体としてナフタレンとチオフエン・ユニットを含む共役ポリマーP-90を使用する簡単な手法を選択した。チームはドーパントと半導体を2つの別々の溶液に溶解し、それらを組み合わせた。「この技術は化学者や専門家でなくてもどの実験室でも使用できる。」とシャヒカ・アイナルの指導の下で研究を主導した元KAUSTポスドクのアレキサンドラ・パターソンは述べている。

 研究者達は、効果的なn-ドーピングはアンモニウム・カチオンをそのフッ化物アニオンから分離することにかかっていることを発見した。塩はフッ化物アニオンをポリマーに移動させてフッ素化P-90ラジカルとP-90アニオン・ラジカルを生成する。結果として生じる非局在化および不対電子は有機電気化学トランジスターの電気化学的ドーピングを改善する。

塩はまた表面のテクスチャーを減少および平滑化することによって形態添加剤として使用し、ポリマー・フィルム上に凝集体を形成させ、これによりフィルム内の電荷輸送が促進される。「塩の二重の役割は混合伝導の電子が電子的側面とイオン的側面の両方に影響を与える。」とペーターソンは説明する。

研究者達は空気および水中での有機電気化学トランジスターの動作安定性と生物学的媒体に保存されたときの貯蔵寿命をテストした。「有機電気化学トランジスターとn-ドーピング・メカニズムは非常に安定している。」とペーターソンは言う。研究中のポリマーは安定するように設計されているが、n型ドーパントは通常、電気化学的操作条件下、特に空気や水溶液では不安定であるため、これは大きな成果である。

チームは現在、グルコース・センサーや酸素燃料電池などの生体電子用途向けにこれらのn-ドープ有機電気化学トランジスターの長い貯蔵寿命と動作安定性の活用に取り組んでいる。