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水から塩を取り除く方法:塩を自己排泄させる

How to Get Salt Out of Water:  Make It Self-Eject

By David L. Chandler, Massachusetts Institute of Technology

https://phys.org/より  2021.04.28

 

 先進工業国の国内総生産全体の約1/4%が単一の技術的問題によって失われていると推定されている:塩類や他の溶存ミネラルによる熱交換器表面の汚染である。この汚染は多くの工業工程の効率を低下させ、水の前処理等の費用の掛かる対策をしばしば要求する。現在、マサチューセッツ工科大学からの結果はそのような汚染を減らす新しい方法につながる可能性があり、その上、有害な工程を販売可能な製品を生み出せる生産的な工程に変えることさえ可能にする可能性がある。

 その結果はマサチューセッツ工科大学のクリッパ・バラナシ機械工学教授と共に最近の2020年の卒業生であるサマンサ・マクブライドとヘンリールイス・ギラードによる長年の研究結果である。Science Advances誌に発表された研究は、疎水性(撥水性)表面と熱の組み合わせにより、ある場合には重力だけで表面から容易に落とせる方法で溶存塩類は析出ことを示している。

 研究者達が表面上に塩類の析出の仕方を研究し始めたとき、彼等は、沈殿する塩は液滴の回りに部分最初は部分的な球殻を形成することに気付いた。予想外にこの殻は蒸発中に成長した一連の棘のある脚を突然に伸す。この工程は象や他の動物、さらには科学小説のドロイドにさえ似た多足の形が繰り返し形成された。研究者達は論文の表題でこれらお構成を「結晶動物」と名付けた。

 多くの実験と詳細な解析後に、チームはこれらの脚様の突出を形成させる機構を明らかにした。彼等はまた、温度と低い隆起のナノスケール・パターンを形成することによって生成される疎水性表面の性質に応じて突出がどの様に変化するかも示した。彼等は、これらの生き物のような形を支えている細かい脚が下から上向きに成長し続けることを明らかにした。塩水はストローのような脚を通って下向きに流れ、成長するつららのように底に沈殿し、その先端のみでバランスが取れている。やがて脚が長くなり、生き物の体重を支えることができなくなり、塩の結晶の塊が壊れて落下したり、あるいは流される。

 研究は、そのような析出が閉塞につながる可能性がある管の内部を含め、表面で析出物の形成を制限、または防止したいという願望によって動機付けられた、とバランシは言う。「サマンサの実験は、析出物自体でほとんど飛び出すというこの興味深い効果を示した。」と彼は言う。

 「これらの脚は中空の管で、液体はこれらの管を通して注ぎ込まれる。それが底に当たって蒸発したら、新しい結晶を形成し、連続的に管の長さは増加する。最後に、表面と結晶との間の接触は非常に限られているので、これらの結晶は転がり落ちる。」とマクブライドは言う。

 マクブライドは、博士論文の一環として最初の実験を行なう際に思い出す、「この特別な表面は塩化ナトリウムの付着を排除するために上手く機能する、と我々は間違いなく疑ったが、その付着を防ぐことの結果は表面から全の物を排出することを我々は知らなかった。」

 1つの鍵は表面上のパターンの正確な尺度であることを彼女は明らかにした。多くの模造の異なった長さの尺度は疎水性の表面をもたらすが、ナノメーター尺度のパターンだけがこの自己排出効果を達成する。「超疎水性表面上の塩水水滴を蒸発させるとき、通常、これらの結晶は生地の内部に入り始め、球体を形成するだけで、最終的に浮き上がることはない。したがって、この効果を発生させるには、ここで見ている生地と長さの尺度について非常に具体的なものである。」とマクブライドは言う。

 この自己排泄工程はエッチング、摩耗、またはコーティングによって生地を簡単に生成できる表面からの蒸発に単純に基づいており、様々な工程に恩恵をもたらす可能性がある。海洋環境や海水に曝されるあらゆる種類の金属構造物は析出物や腐食に悩まされている。結果はまた、析出物と腐食の機構を調査するための新しい方法を可能にするかもしれない、と研究者達は言う。

 表面に沿って熱量を変えることにより、結晶形成を特定の方向に向けることさえ可能である、と研究者達は明らかにした。温度が高ければ高いほど、それだけ成長は速くなり、これらの形成物の剥離が起こり、結晶が表面を塞ぐ時間を最小限に抑える。熱交換器は幅広い様々な工程で使われ、その効率は表面の汚染によって強く影響を受ける。それらが無いだけで、アメリカや他の工業先進国のGDPパーセントの1/4に等しい。しかし、汚染は多くの他の分野でも大きな要因である。それは水配給系の管、地熱井戸、農業施設、淡水化プラント、および様々な再生可能エネルギー・システムと二酸化炭素変換方法に影響を及ぼす。

 バラナシによると、この方法では一部の産業用冷却システムなど、他の方法では実用的ではない一部の工程で未処理の塩水を使用できる可能性さえある。さらに、場合によっては、回収された塩やその他の鉱物が販売可能な製品になる可能性がある。最初の実験は通常の塩化ナトリウムで行われたが、他の種類の塩やミネラルでも同様の効果が期待されており、研究者達はこの工程を他の種類の溶液に拡張することを模索し続けている。

 疎水性の表面を生成するための生地を作成する方法は既に十分に開発されているため、この工程を大規模な工業規模で実施することは比較的迅速であり、そうでなければ貴重でしばしば制限された淡水の使用を必要とする冷却システムに塩水または汽水を使用できるようになる可能性がある、とバラナシは言う。例えば、アメリカだけで冷却のために年間1兆ガロンの淡水が使われる。典型的な600メガワットの発電所は年間約10億ガロンの水を使い、これは10万人に配水するに十分かもしれない。つまり、可能な場合は冷却に海水を使用することで、淡水の不足問題を軽減できる可能性がある。