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電気自動車用電池をより持続可能にするための新しい協会

New Consortium to Make Batteries for Electric Vehicles More Sustainable

By Theresa Duque

https://newscenter.lbl.gov/     2023.09.11

画期的な電池技術により、クリーン・エネルギーへの移行を促進する重要な鉱物のサプライチェーンが強化される可能性がある。

 

 電気自動車用リチウム・イオン電池パック。リチウム・イオン電池はニッケルやコバルトの代わりにほぼすべての遷移金属で作ることができる多用途の電池材料である無秩序岩塩によってエネルギー密度が大幅に向上する可能性がある。

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重要なポイント

  無秩序岩塩と呼ばれる新しい電池材料は、ガソリン車をより迅速に電気自動車に置き換える道を開く可能性がある。

  無秩序岩塩陽極は、ニッケルやコバルトで作られた従来の陽極よりも高いエネルギー密度のリチウム・イオン電池を提供し、電気自動車用の電池をより持続可能な物にする可能性がある。

  新しい電池材料は通常、商品化までに数十年かかるが、研究者達はわずか数年で商品化可能な無秩序岩塩陽極を実証したいと考えている。

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 ローレンス・バークレイ国立研究所(バークレー研究所)が率いる国内最高の電池科学者からなる協会は、無秩序岩塩と呼ばれる新しい電池陽極材料ファミリーの商業化を加速する予定である。

 無秩序岩塩陽極は、供給が極めて不足しているニッケルとコバルトという2通常の金属で作られた従来のリチウム・イオン電池の陽極よりも高いエネルギー密度を電池に提供できる可能性がある。

 アメリカエネルギー省は、電池でのコバルトの使用を削減または排除する方法論を見つけることを優先事項にしている。この取り組みを支援するために、無秩序岩塩協会は、ニッケルやコバルトよりも豊富で安価なマンガンまたはチタンで作られた無秩序岩塩陽極の製造に焦点を当てている。無秩序岩塩陽極を使用して製造されたリチウム電池は、供給制約によって引き起こされる価格高騰から自動車産業、ひいては消費者を守ることができる。

 「無秩序岩塩陽極は、ニッケルやコバルトの代わりに、ほぼすべての遷移金属で作成できる。ガソリン車を電気自動車に置き換えたい場合には、その多用途性が鍵となる。」と主任研究者のGerbrand Cederは述べた。バークレー研究所の上級科学者であり、材料科学および工学のカリフォルニア大学バークレー校教授は、バークレー研究所の電池科学者Guoying Chenとともに無秩序岩塩陽極協会を共同主導している。

 昨年の秋に結成され、バークレー研究所、SLAC国立加速器研究所、パシフィック・ノースウエスト国立研究所、アルゴンヌ国立研究所、オークリッジ国立研究所、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の約50人の科学者チームで構成される無秩序岩塩協会が、アメリカエネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー局の車両技術局から2,000万ドルを授与された。2025年まで毎年500万ドルずつ割り当てられるこの資金により、協会は今日のリチウム・イオン電池で使用されるNMC(ニッケルマンガンコバルト)陽極と同等かそれ以上の性能を発揮できる無秩序岩塩電池陽極を開発できるようになる。

 「無秩序岩塩は、電池の陽極用に、より持続可能で、より豊富で、より安価な鉱物源を提供する。」とCederは述べている。「リチウム・イオン電池は非常に優れたエネルギー貯蔵技術であるが、関連性を維持するには、年間数テラワット時の生産量の増加に向けて成長する必要がある。無秩序岩塩がなければ、現在の技術をそのまま使用した場合、リチウム・イオン電池には膨大な量のニッケルとコバルトが必要となるであろう。」

 「無秩序岩塩は電池陽極の頼りになる材料になる可能性がある。」とChenは付け加えた。「我々はコストとリソースの点ですでに優位性を持っている。今、我々がしなければならないのは、性能を向上させることだけである。」

 

無秩序岩塩による交通の脱炭素化

 無秩序岩塩はまだ非常に若い技術である。Cederと彼のチームは、急速に成長するリチウム・イオン電池産業への対応として、わずか10年未満の2014年に無秩序岩塩を開発した。新しい電池技術は通常、成熟するまでに2030年かかる。しかし、無秩序岩塩は商品化位向けて異例の速さで進んでいる。

 CederChenは、DOE Vehicle Technologies Officeからも資金提供された「Deep Dive」と呼ばれる4年間のプログラムで無秩序岩塩の可能性を実証した。このプログラムは2022年に終了し、その後すぐに協会が設立され、5年以内に商用可能な無秩序岩塩陽極を実証することを目標とした。

 この緊急性は、クリーン・エネルギーへの移行の真っただ中にある。アメリカは2030年に販売される新車の半分を、電池電気自動車、プラグイン・ハイブリッド電気自動車、または燃料電池電気自動車を含むゼロエミッション車にすることを目標としている。カリフォルニア州では、2035年からすべての新車はゼロエミッション車でなければならない。

 この野心的な目標を達成するためにCederChenは無秩序岩塩協会を設立し、全国の電池科学者と全国の研究所システムに支援を求めた。

 エネルギー省の国立エネルギー研究科学計算センターの研究者達は、コンピューター・モデリングを通じてマンガンとチタンの最適な組み合わせを絞り込むチームを支援する。オークリッジ国立研究所とアルゴンヌ国立研究所の研究者達は、化学合成に取り組み、産業用の材料をスケールアップする予定である。新しい無秩序岩塩互換電解質は、太平洋岸西部国立研究所で開発されている。また、バークレー研究所の分子鋳造所、SLAC国立加速器研究所、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者達が材料の特性評価を支援する。

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「無秩序岩塩陽極ニッケルやコバルトの代わりに、ほぼすべての遷移金属で作成できる。ガソリン車を電気自動車に置き換えたい場合には、その多用途性が鍵となる。」

Gerbrand Ceder、バークレー研究所教員、材料科学部門上級科学者

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 計算材料発見の先駆者であるCederと彼のチームは、コンピューター・モデルの実験を通じて無秩序岩塩を発見した。その多くは国立エネルギー研究科学計算センターで行なわれた。

 バークレー研究所のVince Battagliaと彼のチームは、チタンやマンガンのさまざまな配合で数十個の無秩序岩塩コイン型電池を製造することでCeder       の無秩序岩塩陽極「レシピ」をテストする予定である。このアイデアは、材料の電子伝導性を向上させることである。これは無秩序岩塩リチウム・イオン電池のエネルギー密度が高いだけでなく、サイクル寿命(電池が壊れ始めるまでに充放電できる回数)も長くするために重要である。

 「私の研究室では、一度に数百個のリチウムイオンコイン電池をテストできる。素材そのものの性能を理解できるように可能な限り最良の環境で電池を作るよう努めている。実際に現場で機能する製造プロセスを模倣するためにスケールアップされている。」とBattagliaは語った。

無秩序岩塩開発のこの最新章は、世界中の国々が地球温暖化の悪化を防ぐための実行可能な解決策を模索している極めて重要な瞬間に到達している。

 世界で最も温室効果ガスを排出している部門の1つである運輸部門は、カリフォルニア州の温室効果ガス排出量の半分、アメリカの温室効果ガス排出量の3分の1、そして世界の温室効果ガス排出量の5分の1を占めている。カリフォルニアでは、ガソリン車からの排気管からの排泄が最大の温室効果ガス排出源となっている。

 気候科学者達は、ガソリン車を電気自動車に置き換えることが、運輸部門を急速に脱炭素化する最も効果的な方法の1つになる可能性があると述べている。

 国連の気候変動に関する政府間パネルの最近の報告書によると、温室効果ガスの排泄量が20030年までに半分に削減されない限り、世界は間もなく産業革命以前の水準より摂氏1.5度の温暖化に見舞われるであろう。

 Cederは、無秩序岩塩は交通機関の脱炭素化において重要な役割を果たす可能性があると述べている。「無秩序岩塩は、信頼性が高く、安価で豊富なエネルギー貯蔵を提供できる非常に有望な技術である。しかし、これは30年後ではなく、今すぐにでも起こらなければならない。我々には待っている時間はない。無秩序岩塩協会が、我々がそこに到達するのを助けてくれるであろう。」と彼は言った。