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塩はT細胞の抗腫瘍反応を高めることができる

Salt Can Boost Antitumor Responses of T Cells

By Pooja Toshniwal Paharia

https://www.news-medical.net   2024.09.13

腫瘍微小環境中のナトリウムがT細胞の活性化を高めることがわかり、新たなガン治療の道を示唆している。

 

  Nature Immunologyに最近発表された研究では、研究者達は細胞傷害性分化クラスター8(CD8)を発現するT細胞に対するナトリウム・イオンの直接的な影響、ひいては抗腫瘍細胞毒性について調査した。

 

背景

 細胞傷害性T細胞またはリンパ球の代謝状態が抗腫瘍免疫を制御する。これらの細胞は、腫瘍微小環境(TME)に敏感である。TMET細胞の浸入を減らし、T細胞の維持を減らし、エフェクター活性を低下させることで、抗ガン免疫応答を阻害できる。研究によると、カリウムなどの細胞外イオンはT細胞の機能に影響を与える可能性がある。

 カリウム・イオンは壊死性TME内に豊富に存在し、T細胞受容体駆動型エフェクター機能を阻害する一方で、幹細胞性と多様性を高める。ナトリウム・イオン濃度の上昇は、Tヘルパー17の分化を刺激し、自己調節性サイトカイン発現を増加させる。しかし、ナトリウム・イオン濃度が細胞傷害性T細胞を介した抗腫瘍免疫に及ぼす影響は不明である。

 

研究について

 研究者達は、ナトリウム・イオン濃度が細胞傷害性T細胞の活性と抗腫瘍免疫応答に及ぼす影響を調査した。

 誘導結合プラズマ発光分析法により、乳ガンおよび隣接組織のK+およびNa+濃度を評価した。研究者達は、細胞傷害性T細胞に対する塩化ナトリウム曝露のトランスクリプトーム・インプリントを調査した。研究者達は、高NaCl処理により差次的発現遺伝子が劇的に増加し、その結果、塩化ナトリウム・シグネチャが生じることを発見した。次に、腫瘍組織と健常組織におけるこのシグネチャの濃縮を調査した。また、細胞傷害性T細胞におけるトランスクリプトームNaClシグネチャの濃縮も調査した。

 研究者達は、CD3およびCD28モノクローナル抗体でin vitro増殖させたヒトCD45Ra-ve細胞傷害性T細胞のトランスクリプトームに対するNaClの影響を調査した。彼等は単一細胞リボ核酸配列を使用してトランスクリプトームの変化を分析した。彼等は、高NaClおよび低NaCl環境下でのリボソーム・サブユニットS6リン酸化を介してCD45RA-ve細胞傷害性T細胞のTCR架橋による哺乳類ラパマイシン標的シグナル伝達誘導を調査した。

 研究者達は、細胞外塩化ナトリウム濃度の上昇が細胞傷害性Tリンパ球におけるT細胞受容体の関与をT細胞の活性化へと変関する分子経路を調査した。細胞外塩化ナトリウム濃度の上昇により、TCR誘導性カルシウム・チャンネル活性化後のCa2+流入の起電力が増加すると予想した。研究者達は、NaCl誘導性膜電位の相対的過分極を調査した。

 研究者達は、T細胞によって認識される黒色腫瘍関連抗原特異的TRCを核感染させることにより、抗原特異的細胞傷害性記憶Tリンパ球を作成した。研究者達はPanc02-mROR1膵臓ガン細胞を識別する4-1BB由来の共刺激ドメインを持つ第二世代キメラ抗原受容体を発現するTリンパ球を設計した。研究者達はまた、CD28由来の共刺激ドメインを持つCARTリンパ球に対するNaClの影響を調査した。膵臓ガンマウス・モデルとPancOva膵臓ガン細胞株を使用して、研究者達は、生体内での養子T細胞療法中にNaClT細胞の細胞傷害性を高めるかどうかを試験した。主成分分析と均一多様体近似および射影により結果が得られた。

 

結果

 この研究では、乳ガン組織でNaClレベルが上昇し、免疫細胞の転写変化を引き起こしていることが分った。Cancer Genome Atlasの腫瘍実体のほとんどは、健康な組織と比較して転写産物のナトリウム・フットプリントを持っている。この発見は、ナトリウムが腫瘍微小環境の関連成分であることを示している。NaClは細胞傷害性T細胞の活性化と活動を増加させ、代謝適応を改善した。したがって、NaClin vitroおよびin vivoで腫瘍細胞の死を促進する。mTOR、腫瘍壊死因子、インターロイキン-2、プログラム細胞死、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ、インターフェロン調節因子4、低酸素誘導因子1サブユニット・アルファなどの遺伝子レベルの上昇が、これらの発見を裏付けた。

 細胞傷害性記憶Tリンパ球におけるNaCl誘発性変化は、ナトリウム誘発性のNa+/K+-アデノシン・トリホスファターゼ活性の増加および膜過分極と関連しており、これによりTCR誘発性の下流TCRシグナル伝達およびCa2+流入の起電力が増幅される。高NaCl条件下で活性化された細胞傷害性記憶Tリンパ球の養子移入により、マウス膵臓ガン・モデルにおける腫瘍の成長が効果的に減少した。

 NaClは、ネイティブTリンパ球レパートリー、CARTリンパ球、およびトランスジェニックTリンパ球の抗ガン活性を高めた。高NaCl環境では、細胞傷害性記憶T細胞が活性化T細胞核因子5の発現を高め、膵臓ガン患者の生存期間を延長した。同様に、ATPase Na+/K+輸送サブユニット・アルファ1遺伝子発現の増加は、Na+/K+-ATPase調節を伴う患者の膵臓ガン生存と牽連していた。その結果、研究者達は、NaClが急性抗腫瘍免疫応答を積極的に制御し、CAR T種のような治療用Tリンパ球を体外で訓練するために調整が必要になる可能性があると主張している。

 

結論

 この研究では、腫瘍微小環境におけるNaClT細胞の代謝適応と細胞毒性を改善することが示された。NaCl誘発性のT細胞過剰活性化のメカニズムには、内部Na+転座、Na+/K+-ATPase活性の増加、膜過分極、およびTCRによって生成されるCa2+流入の起電力の増加が含まれる。このメカニズムに基づく治療戦略は、ガン患者に役立つ可能性がある。さらなる臨床試験では、NaClの抗腫瘍免疫に対する短期および長期の影響を評価する必要がある。