なぜ塩が甘く感じるのか
How Salt Can Taste Sweet
https://neurosciencenews.com/ 2023.03.26
概要:研究者達は、味覚知覚の新しいメカニズムを特定した。この研究では、塩化物イオン・チャネルが甘味受容体に結合して味覚を引き起こすことが報告されている。
出典:岡山大学
人間は、甘味、旨味、苦味、塩味、酸味の5つの基本的な味覚を知覚する。特定の食品は、味蕾のさまざまな受容体の活性化を通じて、これらの感覚の味認識を引き起こす。
食塩の場合、濃度も味を決める重要な要素である。例えば、食卓塩の好ましい濃度は、人間が塩味を感じる100 mMである。しかし、500 mMを超える高濃度の塩は苦いおよび/または酸っぱいと知覚される可能性があり、10 mM未満の非常に低い濃度は人間にとって甘いと知覚される。
科学的研究により、味蕾には複数の塩検出経路が存在することが示唆されているが、その正確なメカニズムは完全には理解されていない。食塩の場合、塩味の感覚は主にナトリウム・イオンであるNa+によって決まる。しかし、陰イオン(塩化物イオンCl-)も独特の分子機構で検出され、味覚に関与すると考えられている。
この塩化物イオン検出メカニズムを調査するために、日本の岡山大学の科学者達は、構造生物学的手法とマウス・モデルを使用した研究を実施した。この研究は2023年2月28日にeLifeに掲載された。
研究者達は以前、日本のメダカの味覚受容体の構造を分析していた。この味覚受容体は人間の甘味受容体に似ており、構造解析にも適合する。この魚味受容体の一部は塩化物イオンに結合する可能性がある。
山下淳子教授は次のように説明している。「我々は以前にメダカのT1r2a/T1r3LBD受容体の構造を解析していたが、その結果、Cl-がT1r3LBDに結合するという予期せぬ発見につながった。この研究では、Cl-結合が受容体の構造変化を誘導するかどうかを調べ、cl-によるこの変化の誘導を確認することができた。」
T1r受容体の構造変化(または構造変化)は、他の味覚物質によって誘導されるものと類似していることが判明し、Cl-がT1r2a/T1r3LBD上の甘味受容体を活性化することを示唆している。形状の変化は受容体の活性化を示すことが多いため、科学者達はこの研究で、糖に反応する甘味受容体の塩化物イオン活性化をさらに調査した。
山下教授は次のように説明している。「我々はより確立された動物モデルを使用してこの現象をさらに調査したいと考えた。T1r3のCl-結合部位はさまざまな種にわたって保存されていたため、マウスの味覚神経記録を使用してCl-の生理学的重要性を調査することにした。」
この証拠を提供するために、彼等はマウスに対して電気生理学的分析を実施し、少量の塩化物をマウスの舌の上に置くと、甘味のシグナル伝達に関与するニューロンが活性化することを実証することができた。したがって、彼等は、低濃度のCl-が味蕾のt1rを介して「軽い」甘味感覚を生み出す可能性があることを実証した。
「Cl-誘導の味覚は、アミノ酸や糖などのT1rの標準味覚物質によって誘発され味覚と似ているが、その有効性はわずかに低くなる。」と山下教授は言う。
さらに、希塩化物溶液と普通水のどちらかを選択するよう提示すると、マウスは塩化物溶液の味を認識し、それを好む傾向を示した。甘味反応を引き起こす塩化ナトリウムの濃度は10 mM未満と微量であることが判明し、グルマリンを含む甘味抑制剤を外用することで甘味を抑制できることが判明した。
これらの発見は、マウスが特定の受容体とニューロンの作用を介して塩化物を甘いと認識するという仮説を裏付けるものである。また、希薄な食塩は塩化物イオンの存在により味覚刺激を与えることも視している。
食卓塩は、恒常性または体内の平衡を維持する上で重要な成分である。この平衡は、ナトリウムの最適な摂取と排泄によって調節される。
この研究は、前者のプロセスがカウンター塩化物イオンを使用して、関与する受容体の分析機能を調節していることを示している。この研究結果は、生物の味の知覚をより微妙に理解するための道を開くであろう。