塩と健康 - 塩摂取量を減らすために世界中で
何が行なわれているか?
Salt and Health – What Is Being Done Globally to Reduce Salt Intake?
https://khni.kerry.com/ 2024.02.27
食品中のナトリウム含有量を削減するための取り組みは、義務的または自主的な目標設定の形で実施されており、これらは食事性ナトリウム摂取量を削減するための重要なステップである。世界が持続可能な食生活にますます注目するにつれ、今後数年間で食事性ナトリウム摂取量の目標設定の重要性と普及がさらに高まると予想される。この記事では、以下の点について考察する。
● 健康におけるナトリウムの役割
● 世界的に施行されている減塩に関する税制および法規制の取り組みその影響
● 食品業界による自主的な取り組みとナトリウム摂取量への影響
● 今後の展望
過剰なナトリウム摂取量が健康に及ぼす影響
心血管疾患は世界全体で非感染性疾患による死亡原因の大半を占めており、年間1,790万人に相当する。これらの死亡原因のうち、ヨーロッパでは年間推定189万人が過剰なナトリウム摂取量に関連している。これは多くの国で高血圧症の主要な原因となっており、心血管疾患の主要な危険因子となっている。塩は食品中のナトリウムの主な供給源であるため、塩摂取量を減らすことは、自然とナトリウム摂取量の減少につながり、健康に有益であり、心血管疾患の減少にも関連している。しかし、ナトリウムは必ずしも悪いものではない!人体は、筋肉の収縮と弛緩、神経インパルスの伝導、体液の調節など、重要な身体機能のために少量のナトリウムを必要とする。残念ながら、我々の摂取量は人体が必要とする量をはるかに上回っており、健康に悪影響を及ぼしている。
世界平均の成人の塩摂取量は4,310mg/d(塩10.78 g/d)で、これは世界保健機関の推奨値(ナトリウム2,000mg/d=塩5 g/d)の2倍以上である。一般的に世界全体の1日当たりの塩摂取量目標量は2,000~2,400mg/d(塩5~6 g)である。驚くべきことに、国際機関の報告書によると、中東の塩摂取量は非常に高く、1人当たりの平均摂取量は12 g/dを超えている。
イギリスの国民食事・栄養調査によると、食事による塩摂取量の主な原因は、パン、チーズ、加工肉製品である。ヨーロッパでも同様で、塩摂取量の大部分は、ジャガイモ製品や缶詰など、必ずしも塩辛くない食品から来ている。一方、食事からのナトリウムの摂取源は、高所得国と中低所得国で異なることが示されている。例えば、東南アジアでは、高所得国の食事中の塩摂取量の80%は加工食品から得られているのに対し、中低所得国では、消費される塩の大部分は、食品の調理や下ごしらえの際に加えられる塩、あるいは食卓塩として自由に選べる塩である。一般的に南アジア諸国では加工食品の消費量が依然として比較的少ないことを念頭の置くことが重要である。南インドで実施された調査では、ナトリウムの主な食品源は、豆類(29.7%)、米料理(27%)、野菜(16.7’%)であることが特定された。
世界的に塩摂取量を減らすためにどのような対策が講じられているか?
世界保健機関によると、費用対効果の高い減塩対策を実施することで、2030年までに世界で推定700万人の命を救うことができる可能性があるとされている。多くの国が、減塩戦略の一環として、一般的に消費される食品の減塩目標を設定している。2013年、世界保健機関加盟国は、2025年までに人口の平均塩摂取量を30%削減すると言う自主的な世界目標を採択した。世界保健機関は2023年に、減塩政策を採用・実施している国々の詳細をまとめた、減塩に関する世界報告書を発表した。
Santosらは、世界各国の減塩対策を特定し、その進捗状況を定量化するための包括的なレビューを実施した。要約すると、2014年以降、世界中で減塩対策の件数は増加したものの、減塩目標達成に必要な戦略をより厳密に監視・評価し、他の国々でも取り組みを早急に加速させ、同様の取り組みを実施する必要がある。
東南アジア
世界保健機関(WHO)の世界的ナトリウム削減目標に沿うため、WHO東南アジア諸国連合は2013年、今後5年間で平均塩摂取量を10%削減すると言う地域中間目標を設定した。
ヨーロッパとイギリス
ヨーロッパの多くの国では、食品の塩含有量の上限や食品の配合変更プログラムなど、義務的または自主的な減塩対策が実施されている。政策には、高塩食品への課税(ハンガリー)、高塩表示の義務化(フィンランド)、食品の配合変更目標の設定と食品供給の厳密な監視(イギリス)といった戦略が含まれる。
東地中海地域
東地中海地域は22ヶ国からなり、人口は約5億8000万人になるが、心血管疾患の負担が大きい地域である。バーレーン、エジプト、イラン、ヨルダン、サウジアラビア、クウェート、レバノン、モロッコ、オマーン、パレスチナ、カタール、チュニジア、UAEでは、国家レベルでの減塩戦略が策定されている。食品・飲料への課税は最も少なかったのに対し、最も多かった戦略は食品の配合変更(100%)、次いで消費者教育(77%)、特定の環境における取り組み(54%)、パッケージ前面への表示(46%)であった。しかし、東地中海諸国のうち、活動のモニタリングを実施しているのはわずか27%であり、影響評価は不十分である。
税制と法制
高塩分製品への課税
ケーススタディー - ヨーロッパ
ハンガリーは2011年、塩の多いスナック菓子や調味料など、塩を多く含む包装食品に公衆衛生製品税を導入した。この税導入の目的は、公衆衛生に有益ではない食品の消費を減らすことである。しかし、栄養素税の導入と特定の栄養素の消費量の減少との因果関係を証明することは容易ではない。ハンガリーでは、公衆衛生製品税導入後に国民への影響をモニタリングするための評価が実施された。残念ながら、成人人口による課税対象製品の消費量は減少せず、塩税はハンガリーの消費者行動に最小限の影響しか及ぼさなかった。
食品の塩含有量の強制的な上限設定
アメリカ
2023年12月6日、コロンビア保健省は決議2056号を公布し、「ナトリウム規制」を改正した。この改正により、アメリカの輸出業者はコロンビアの加工食品におけるナトリウム含有量の上限を遵守していることを自己申告で証明できるようになり、コロンビアへの加工食品の貿易が促進される。
ヨーロッパおよびイギリス
ベルギー、ブルガリア、フランス、ギリシャ、オランダ、ポルトガルを含むヨーロッパ諸国は、一般的に塩含有量の多い製品に対して、強制的な塩含有量目標を設定している。対象となる主な製品は、食事によるナトリウム摂取量に大きく寄与する製品である。イギリスは、公衆衛生問題への取り組みにおいて、他の国々から優れた事例としてしばしば認識されている。イギリスは自主的な減塩イニシアチブを成功させ、現在、政府は高脂肪、高糖質、高塩分と見なされる製品の宣伝、販売場所、広告を制限する法律を制定している。
高塩分食品の警告ラベル
世界中の多くの国では、食品や飲料に含まれるエネルギー含有量と、通常は脂肪、飽和脂肪酸、糖質、塩分の4つの栄養素含有量を強調した栄養成分表示ラベルや警告ラベルをパッケージ前面に貼付している。国民レベルでナトリウム摂取量を減らす最も効果的な方法の1つは、頻繁に摂取する食品のナトリウム含有量を減らすことであると広く認められている。業界が自主的に塩含有量の高い製品の見直しに取り組みことは、成功への重要な戦略である。多くの国では、幅広い食品について、カテゴリー別の塩含有量目標値を設定した業界主導の自主的な取り組みが確立されている。
ヨーロッパとイギリス
EUは、2025年に全加盟国を対象とした統一的なパッケージ前面表示制度を提案する予定である。ヨーロッパの食品業界と小売業者は、製品パッケージ前面に参照摂取量を表示している。そこには、上記の栄養素の含有量に加え、エネルギーの1日当たりの参照摂取量値と1食分当りの4つの栄養素の参照摂取量値が表示されている。さらに、エネルギー値は100 g/100 ml当りでも表示される。近年、多くの国が、ナトリウム(または塩)に関する情報を表示する同様のパッケージ前面表示を採用している。例えば、ヨーロッパ大陸では、複数の国が食品の栄養価をAからEまで段階的に表示するNutri-Score表示制度を導入している。2023年12月、Sante Publiqueは、食品業界が改訂版のNutri-Scoreアルゴリズムを食品および飲料に適用できるよう、Nutri-Scoreに関する最新の技術文書を発表した。
フィンランドでは、減塩に向けた様々な取り組みが行なわれており、特に自主的な取り組みや、パッケージ前面への警告ラベルの義務化が進んでいる。特定の製品に定められた基準を超える糖分または塩分が含まれている場合、警告ラベルの貼付けが義務付けられている。例えば、塩含有量の高い食品には、「高塩分」の警告を記載することが義務付けている。興味深いことに、この導入以来、フィンランドの食品に含まれるナトリウム含有量の平均は20~25%減少している。
南北アメリカとカナダ
チリ、メキシコ、ペルー、ウルグアイ、そして近々ブラジルなど、ラテン・アメリカの多くの国では、製品に高カロリー、高脂肪、高糖質、高塩分が含まれているかどうかを示す黒い警告ラベルをパッケージ前面に表示している。
2021年10月、アメリカ食品医薬品局は食品・飲料業界向けに新たな自主的な減塩目標を発表した。減塩圧力の高まりを受け、目標期間は以前の目標と比較して2.5年と短縮されている。この戦略は、業界が既に達成している減塩を支援すると共に、進捗状況を定義・測定するための目標を設定し、企業に目標達成のための柔軟性と時間的余裕を与える。さらに、アメリカはパッケージ前面ラベルの導入を検討している。2023年には、アメリカの食品医薬品局は様々なフォーカス・グループを通じて、白黒表示とカラー表示の両方に対する消費者の理解度を調査するテストを実施した。興味深いことに、カナダは2023年に、糖分、ナトリウム、飽和脂肪酸を多く含む食品に義務付けられるパッケージ前面への栄養成分表示を導入した。
東南アジア
南アジア諸国のほとんどでは、減塩対策はまだ計画段階にあり、完全に実施されておらず、その成果は評価も報告模されていない。この地域における地区全体にわたる減塩戦略の拡大は、塩摂取量を制限するために不可欠である。
公衆衛生の観点から見ると、業界による自主的な取り組みは、利益団体からの圧力、政治的行き詰まり、官僚主義の停滞によって阻害される可能性のある政府の対策よりも達成可能性が高く、より効果的である可能性がある。また、政府の規制よりも迅速かつ効率的に、そしてより介入なく公衆衛生上の目標を達成できる可能性がある。
業界の観点から見ると、製品の栄養改善に取り組むことには、公衆衛生への責任、ブランドの好感度向上、利害関係者間の信頼関係の構築、政府の拘束力のある規制や財政措置の回避など、多くの利点がある。製品の配合変更は、食生活の質に大きな潜在的影響を与え、公衆衛生の向上につながる可能性がある。しかし、配合変更の大きな課題の1つは、食品の官能特性が変化し、消費者の嗜好に影響を与える可能性があることである。しかしながら、時間をかけて徐々に塩分を減らしていくと、消費者は食品の塩分濃度の漸減に気付かないという証拠がある。
減塩における産官連携の成功例
世界各地で地域密着型の減塩プログラムが実施され、塩摂取量の減少、意識の向上、血圧の低下が見られた。WHO加盟国194ヶ国のうち、79%(154ヶ国)が減塩政策を策定しており、これらの取り組みは通常、国家栄養計画(n=82)、非感染性疾患計画(n=94)、または保健セクター計画(n=40)に盛り込まれている。WHOは2023年に、加盟国における減塩に関する世界報告書を発表し、加盟国における減塩の取り組みの詳細な事例を示した。
西太平洋地域
ベトナムで実施された地域密着型の「Eat Less Salt」介入では、地域住民の塩摂取量が1日当たり21.5 g/dから20.4 g/dに減少し、介入開始時と1年間の追跡調査期間を比較すると、収縮期血圧は5.93 mmHg、拡張期血圧は4.86 mmHg低下した。オーストラリア出行われた同様のプロジェクトでは、3年間で平均塩摂取量が8.8 gから8 gに減少した。日本で行なわれた研究では、地域住民の塩摂取量が大幅に減少し、それに伴い血圧も低下した。
ヨーロッパおよびイギリス
同様に、ポルトガルで実施された調査では、一般社会の塩摂取量が大幅に減少し、それに伴って血圧も減少したことが報告されている。オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、リトアニア、オランダ、ポーランド、スペインを含む多くのEU加盟国政府は、業界と協力して自主的な塩分目標を設定するアプローチを提案している。アイルランドでは、2003年から2013年までの10年間にわたり減塩プログラムが実施され、成人の塩摂取量が1.1 g減少した。2021年、アイルランド政府は、これらの栄養素の摂取に最も寄与する製品について、2025年までにカロリー(20%)、飽和脂肪(10%)、塩分(10%)、砂糖(20%)を削減するという野心的な「製品改良ロードマップ」を発表した。
最近、イギリスは第5次自主減塩目標を発表した。イギリスの段階的な減塩プログラムは、国民全体の塩摂取量を1 g/d削減し、成人の平均ナトリウム摂取量を2000年の3,752mg/d(9.38 g/d)から2018年には3,352mg/d(8.38 g/d)に減少させた。摂取量はイギリスの推奨摂取量である2,400 mg/dを依然として大幅に上回っているが、これは公衆衛生にとって大きな前進である。
結論
多くの国々が国民のナトリウム摂取量を削減するための対策を講じており、今後も継続していく予定である。ナトリウムの過剰摂取は、血圧の上昇だけでなく、心血管疾患のリスクにも関連している。世界のナトリウム摂取量は過剰であり、摂取量を削減することで公衆衛生が大きく改善される。そのため、製品に含まれるナトリウム含有量は引き続き厳しく監視され、業界に対する製品の配合変更を求める圧力はますます高まって行くであろう。塩は食品の保存性、風味、そして構造に不可欠な役割を果たしている。そのため、政府と食品業界が協力して消費者への啓蒙活動を行ない、新技術への投資を行ない、革新的な配合変更方法や実践を開発することが不可欠である。