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養子細胞療法:塩が注入前にT細胞の抗腫瘍活性を覚醒させる仕組み

Adoptive Cell Therapies: How Salt Could Awaken T Cell’s Anti-Tumor Activity before Infusion

https://www.humanitas-research.com/   2024.08.28

 

腫瘍微小環境中のナトリウムがT細胞の活性化を高めることがわかり、新たなガン治療の道を示唆している。

 

 Enrico Lugliが率いる研究は、簡単に入手できる化合物、一般に「食卓塩」として知られる塩化ナトリウムの意外な可能性を明らかにした。注入前に試験管内でT細胞に投与すると、ガンの前臨床モデルで抗腫瘍活性が強化される。我々は食卓でよく食塩を味付けに使う。その学名は塩化ナトリウム(NaCl)Nature Immunology誌に掲載された新しい研究によると、特定量の塩を加えると、CAR-T療法やTRC療法などのガンに対する細胞療法の準備に意外な用途が生まれる可能性がある。これらの治療では、患者のリンパ球を採取し、ガン細胞をよりよく認識できるように改変してから、患者に再注入する。実験室実験では、培養中のTリンパ球に注入前に塩を投与すると、細胞が活性化し、治療効果が強化される。

 この発見は、Translational Immunology研究所およびFlow Cytometry Coreの責任者であるEnrico Lugliが率いるIRCCS Humanitas Research Hospitalの研究者グループによるものである。この研究は、AIRCガン研究財団と、Enrico LugliCRI Lloyd J. Old STAR賞を受賞した2021年以来、同氏の研究室を支援してきたニューヨークの権威あるガン研究所(CRI)からの資金提供によって可能になった。

 この研究は高い応用可能性を秘めている。今後の臨床研究で結果が確認されれば、塩はガンに対する細胞療法の準備にすでに使用されているサイトカインと代謝物の組み合わせに、重要で入手しやすく、費用対効果の高い追加物となる可能性がある。

 

ガンに対する免疫システムを覚醒させることの重要性

 腫瘍微小環境では、免疫系のCD8 T細胞など、ガンに対して最も攻撃的であるはずの細胞でさえ、腫瘍によって不活性化され、「疲弊」と呼ばれる機能不全状態に陥ることがある。この状態では、細胞はもはや機能を果たすことができず、増殖を停止する。

 「効果的なガン治療を実現するためには、この疲弊状態を理解して回復させることが重要である。免疫系を改良してガン細胞をよりよく認識できるようにするCAR-Tなどの最先端の治療法でさえ、同じ疲弊メカニズムに陥るリスクがある。」とEnrica Lugliは言う。

 Lugliが率いる研究者グループは、ほぼ10年間、T細胞疲弊のメカニズムを研究し、それに対抗する戦略を開発してきたが、塩化ナトリウムのようなありふれた分子の有効性を発見したのは驚きであった。

 「グルコース、カリウム、マグネシウム、脂肪などのさまざまな微量栄養素が免疫細胞の機能と代謝に与える影響、そして微量栄養素がこれらの細胞を炎症誘発状態に導く仕組みについては、すでにデータがあった。しかし、塩分、特にCD8 T細胞に対する塩の役割についてはほとんど分かっていなかった。」とLugliは続ける。

 

発見とガンとの戦いにおけるその影響

 研究チームは、実験室で培養された細胞に塩化ナトリウムを一度加えるだけで細胞を目覚めさせ、細胞の持続性と抗腫瘍作用を高めることができることを発見した。実験では、注入前のT細胞の準備段階で塩化ナトリウムを使用することに焦点を当てた。研究者は、この準備処理により、塩を構成する2つのイオンのうちの1つであるナトリウム(Na)の作用により、移植後の細胞の消耗を防ぐことができることを実証した。

 Humanitas Cancer Centerの固形腫瘍(1相研究)および神経腫瘍学の新薬の早期臨床開発責任者であるMatteo Simonelli博士と、腫瘍学者で研究者のAgnese Losurdoと共同で実施したさらなる研究では、血液中のナトリウム濃度が高いほど、いわゆるチェック・ポイント阻害剤を含むガン免疫療法に対する反応が良くなることが明らかになった。

 これまでは主に実験室の疾患モデルで得られたこれらのデータは、間違いなく臨床の場で検証される必要がある。予備的ではあるが、結果はリンパ球の抗腫瘍作用はNaCl代謝を促進することで強化できることを示唆している。「我々の結果は、制御された実験室環境では、塩化ナトリウムが抗腫瘍反応に重要な細胞であるCD8Tリンパ球の機能に著しく影響を与えることを示している。この発見は、免疫システムの再プログラム化における代謝の役割を明らかにするのに役立ち、細胞免疫療法を強化するための革新的で持続可能な戦略を示している。」とEnrica Lugliは言う。

 T細胞調製プロトコルにおける塩の有効性は、食事からの塩摂取量とはまったく関係がないことを強調することが重要である。塩を多く含む食事を長期間続けると、ガンに対する免疫系が活性化されないだけでなく(全身濃度がまだ低すぎるため)、深刻な心血管障害も引き起こす。