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スタンフォード大学のナトリウム・イオン電池研究によると、

この技術が競争するにはさらなる進歩が必要だという

Stanford Sodium-Ion Battery Study Says the Technology Will Need More Breakthroughs to Compete

By April Bonner

https://www.energy-storage.news/      2025.01.15

 

 スタンフォード大学の新しい研究によると、ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池と競争するためにさらなるブレークスルーが必要であるという。

 ナトリウム・イオン電池技術は、大規模に商業化され、リチウム・イオンの代替となると広く見られている。Energy-Storage.newsが取り上げたナトリウム・イオン技術の進展に関する最近のニュースには、BYD幹部によるナトリウム・イオンBESS製品の発売発表、中国とアメリカの企業によるナトリウム・イオン・ギガファクトリーの計画発表、中国で稼動予定の世界最大のナトリウム・イオンBESSなどがある。

 しかし、スタンフォード大学に本拠を置くアメリカエネルギー省の資金提供を受けた組織であるSTEERの新しい報告書は、新興エネルギー技術の技術的および経済的影響の評価に焦点を当てている。

 この研究の主執筆者であるAdrian Yaoは、リチウム・イオン電池の新興企業EnPowerの創設者兼CTOとして8年間勤務した。Yaoは、リチウム・イオン電池の価格が初めて上昇した2022年を、電池企業がナトリウム・イオン製造を模索するきっかけとしている。

 パンデミック中期の価格高騰後、リチウム・イオンの価格は下降傾向に戻り、ナトリウム・イオンは市場シェアを追い抜くには弱い立場にあるかもしれない。

 Yaoはこの状況について、「ナトリウム・イオン電池がリチウム・イオン電池の価格を下回るかどうか、何時、どのように下回るかは、特にリチウム・イオンの価格が下がり続けることを考えると、ほとんど推測の域を出ないことを認識していた。」と述べた。

 BloombergNEFによると、世界平均のリチウム・イオン電池パック価格は2024年に20%下落し、電気自動車では1 kWhあたり100ドルを下回る。これは2017年以来最大の年間下落となる。

 STEERの研究とDOE2022年エネルギー貯蔵サプライチェーン分析はどちらも、より手頃な技術であるという理由だけでリチウム・イオンに頼ることには危険があることを強調している。潜在的なセキュリティー・リスクもある。この研究では、例えばグラファイトの供給ショックが発生した場合に何が起こるかをシミュレートしている。

 グラファイトはリチウム・イオン電池のアノードとして機能する。グラファイトのほとんどは中国で採掘されており、アメリカには現在、天然グラファイトの生産拠点はない。中国はまた、2024年にアメリカへのグラファイトやその他の電池およびリチウム処理関連技術の輸出を制限し始めた。

 この技術はエネルギー密度、サイクル寿命、性能に関して現在、課題を抱えているが、このような状況ではナトリウム・イオンに切り替える方が有利になる可能性がある。

 採掘されたグラファイトの代替品として、合成グラファイトなどがあるが、アメリカではまだほとんど生産されていない。質量ベースでグラファイトの10倍のリチウム・イオンを保持できるシリコンなどの他の材料はまだ初期段階にあると、欧州の知的財産会社Mewburn EllisのパートナーであるCallum McGuinnEnergy-Storage.newsで指摘している。

 STEERの調査では、リチウム価格が時間の経過とともに下がり続ける場合、ナトリウム・イオンが価格面で有利になる技術ルートは限られていることも指摘されている。

 Yaoはこの研究について次のように付け加えた。「業界関係者から学んだ重要なことの1つは、電池セルの価格は重要であるが、技術はシステム・レベルでしか成功しないということである。例えば、電気自動車や送電網規模の電池エネルギー貯蔵システムなどである。」

 「そのため、我々は現在、安全性のコストやその他のシステム上の考慮事項の理解を含め、より統合的な視点を提供するために範囲を拡大している。」

 アメリカに拠点を置くナトリウム・イオンBESSスタートアップ企業Peak Energyなどの企業は、ナトリウム・イオンを大規模プロジェクトに導入する取り組みを行なっており、小規模でもコスト面で有利になると考えている。

 Peak Energyの社長兼CCOであるCameron Dalesは、Energy-Storage.newsのインタビューで次のように述べている。:「規模の観点で、セル・アセンブリ・レベルで1 GWh以下でも、経済性が収益性の高いビジネスを支えることができると考えている。」

 「これは、材料サプライチェーン全体の継続的な成長に依存する。これは、1つの企業だけで、LFPに対してコスト面で有利なレベルまで推進できるものではない。」

 

エネルギー密度の向上は競争優位性への「最速かつ最も確実な」道となる

 STEERは、調査で6,000を超えるシナリオでナトリウム・イオンとリチウム・イオンの価格動向を比較した。これらのシナリオを通じて、STEERはナトリウム・イオンの最大の課題はエネルギー密度を高めて材料強度を下げることであると結論付けた。

 調査では、次のように述べられている。「ナトリウム・イオンが価格面で有利になる最も迅速で確実な方法は、材料とセルレベルのエネルギー密度を高めることで材料強度を下げることである。」

 「これは、図6(省略)に示すパラメーター感度分析で定量的に裏付けられている。2030年と2040年に予測されるナトリウム・イオン・セルの価格の最大の要因は、アクセス可能な上限電圧カットオフ、カソードとアノードの比容量、および電極の厚さである。」