ナトリウム電池
Sodium Batteries
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歴史を振り返る
特定の課題を克服すれば、リチウム・イオン電池の問題がナトリウム・イオン電池技術の復活を促進するとNick Flahertyが報告。
ナトリウム・イオン電池の研究は1970年代から80年代に始まったが、1990年代にリチウム・イオン電池研究に追いつかれた。しかし、最近、リチウムの需要によりコストが高騰しているため、ナトリウム・イオン電池は持続可能で安価なリチウム・イオン電池の代替品として再浮上しており、短絡や熱暴走を起こしやすいリチウム・イオン電池セルの安全性に対する懸念が高まっている。
ナトリウム・イオン電池セルは、リチウム・イオン電池と同様に豊富な材料から構築できる。しかし、材料の組み合わせではこれまでリチウム・イオン電池のエネルギー・レベルに達するのに苦労していたが、過去10年間の研究により、ナトリウム電池の性能がリン酸鉄リチウム電池の性能にまで達した。
イギリスのバーミンガム大学冶金・材料学部のEmma Kendrickによると、ナトリウムは海水から抽出でき、アノード材料は再生可能資源から入手でき、カソードには一般に高濃度のコバルトやニッケルではなく鉄やマンガンが含まれていると言う。
製造プロセスはリチウム・イオン電池と同様になる見込みで、新たな製造ラインへの投資は不要となる。したがって、リチウム・イオン電池とナトリウム・イオン電池のコストの違いは、材料と性能のみによるものと考えられる。
しかし、Kendrickはセルの寿命を延すことには課題があると指摘する。これは、材料だけでなく電極とセルの設計、およびその動作に関連するさまざまな化学工学およびセル・エンジニアリングの最適化によって決まる。例えば、ナトリウム・イオン電池では樹枝状結晶やメッキが非常に容易に発生する可能性があるが、これは電解質の組成や低抵抗で安定した界面を形成する能力だけでなく、電極設計によっても制御される。
これは、インドの電気自動車や大型トラックでファラディオンのナトリウム電池が使用されていることで実証されており、中国の電気自動車開発会社NIUは、2023年にナトリウム電池を使用した二輪車のバージョンを計画している。大手電池メーカーCALTも技術開発を進めている。
ナトリウム電池にはリチウム・イオン電池に比べて3つの主な利点がある。充放電性能の点でより強力であるため車載電池や小型車両など、高電力要件と高速充電を必要とする用途に利点をもたらす。しかし、それらはまだ電気自動車に十分適合するとは考えられていない。
もう1つの利点は、低温性能である。リチウム電池は0℃以下では動作しにくいため、動作できるようにするためにヒーターを駆動して温めるために他の電池が必要である。これはナトリウム・イオン電池セルには必要ない。
次に、操作時と輸送時の両方での安全性の側面がある。ナトリウム・イオン電池セルはリチウム・イオン電池セルと同じように樹枝状結晶を形成する可能性があるが、短絡は引き起こさず、加熱は水ベースの電解質によってすぐに消失する。セルはリチウム・イオン電池セルでは不可能なゼロ電荷で輸送することもできるため、ナトリウム・イオン電池セルの輸送がより簡単かつ安全になる。
カソード
ほとんどの陰極は酸化物材料の層を使用しており、空気に敏感であるため、ナトリウム・イオン電池の製造コストが高くなり、その開発が妨げられている。大気安定性の悪さについて理解して解決する必要があると、大気過敏症に関する最新の理解と解決策を検討した中国の研究者達は述べている。
空気過敏症のメカニズムは複雑で、複数の化学反応と物理反応が関係している。酸素、水、CO2などの空気中の成分は、材料の結晶構造に応じてカソードの層状カソード材料との反応に関与する。
空気安定性を改善するには、表面コーティングの導入、カソード材料の洗浄、遷移金属サイトまたはナトリウム・サイトの元素置換など、さまざまな戦略がある。しかし、研究者達は実用的な材料を合理的に設計するための有益な情報が不足していることを発見した。
電解質の増加
アメリカの太平洋北西部国立研究所の研究者達は、ナトリウム・イオン電池セルの寿命を延す精製に取り組んでいる。ナトリウム電池には2つの傾向がある。1つはサイクル寿命が長いものの、定置型蓄電用途では電圧が低く、エネルギー密度が低いこと、またはe-モビリティ用途ではエネルギー密度が高く、電圧が高いことであるが、それが寿命に影響を与えることである。
太平洋北西部国立研究所の研究は、電極上に形成される保護膜、つまり固体電解質界面層を最適化することでナトリウム・イオン電池の寿命を延すための新しい電解質と溶媒に焦点を当てている。フィルムは電池寿命を維持しながらナトリウム・イオンの通過を可能にするため、非常に重要であるが、現在使用されている電解質によってフィルムが溶解し、寿命が短くなる傾向がある。
カソードとアノードの異なる材料に対応する新しい電解質の開発は課題であるが、太平洋北西部国立研究所チームはリン酸鉄リチウム電池に匹敵する150 Wh/リットルのエネルギー密度と少なくとも300サイクルの寿命を備えたセルを生成する電解質を発見した。
研究用セルは、ナトリウム・イオンを充填したナトリウム添加リチウムMNCカソードと、新しい電解質を含む硬質炭素アノードを使用する。鍵となるのは、アノードとカソードの両方に形成されるSEI層であり、この層は電極の組成と電解質との相乗作用に依存する。「これが、高電圧ナトリウム・イオン電池のサイクル寿命が長くない理由の1つである。」とチームの主任研究員であるJiguang Zhangは言う。
「我々は、ナトリウム・イオンが長持ちする環境に優しい電池技術となる可能性があることを原理的に示した。アノード上のSEI層の量と質を制御するために塩と溶媒を選択し、溶解度を低下させてアノードをより長く保護した。」と彼は言う。
電解液の塩として従来のNaPF6を使用するのではなく、研究チームは塩ナトリウム、フッ素、ヨウ化硫黄材料を使用した。「この塩は分解して無機SEI層を形成する可能性がある。」とZhangは言う。「SEI層を溶解しにくくするために、誘電率の小さい溶媒を選択した。」
研究チームは、材料の性能をテストするためのコイン・セルを開発した。4.2 Vで300サイクル後も容量の90%を維持した。これは以前に報告されたほとんどの高電圧ナトリウム・イオン電池よりも高い値である。
「通常、サイクル寿命のゴールドスタンダードは、容量の80%まで放電することである。」とZhangは言う。「今回の作業では90%まで測定できたので、さらに長持ちすると考えている。」
電解液は不燃性であり、セルは高電圧で動作できる。
「カソードでのガス蒸気の生成も測定した。」と太平洋北西部国立研究所の電池化学者であり、この研究の筆頭著者の1人であるPhung Leは述べている。「ガス生成は非常に最小限であることが分かり、高温で動作する可能性のあるナトリウム・イオン電池用の安定した電解質の開発に新たな洞察が得られた。」
しかし、新しい電極材料を使用してセルのエネルギー密度を向上されるためには、さらに取り組む必要がある。「我々は正極材料をさらに検討する必要があり、異なる構造を使用して炭素負極の比容量を50%以上改善する取り組みを行っている。」と彼は言う。
「適切な材料が見つかったら、パウチセルにスタートアップする予定であるが、アノードとカソードの両方の改良を続けているため、まだ初期段階にある。」
シャトル・チェンジ
ナトリウム電池の耐久性の低さは、電池内を移動するイオンが結晶構造の乱れを引き起こし、最終的には結晶構造を破壊するため、電池の動作(P2-O2層転移)における特定の原子の再シャッフルに起因する。
アメリカのコーネル大学の研究者達はこのプロセスを研究しており、ナトリウム・イオンが電池内を移動するにつれてP2-O2層転移の直前に層が突然整列する前に、個々の粒子内の結晶層の配向のずれが増加することを発見した。
「我々は新しく重要なメカニズムを発見した。」とコーネル大学材料科学工学助教授のAndrej Singerは言う。「電池の充電中に、原子が突然再配置し、欠陥のある層転移が促進された。」
研究チームは、コーネル高エネルギー・シンクロトロン源を使用した新しいX線イメージング技術を開発した後、この現象を観察することができた。これにより、使用していた電池内の単一粒子の挙動をリアルタイムかつ質量スケールで観察することができるようになった。
「従来の粉末X線回折測定では、個々のカソード・ナノ粒子の内部を見る能力が必要となるため、予期せぬ原子配列は目に見えない。」とSingerは言う。「我々のハイ・スループット・データにより、微妙だが重要なメカニズムを明らかにすることができた。」
これにより、チームは使用していた電池の種類に新しい設計オプションを提案することになり、従来の研究プロジェクトで調査する予定である。このプロジェクトの研究者であるJason Huangによると、解決策の1つは、電池の化学的性質を変更して、欠陥のある遷移段階の直前に粒子に戦略的な無秩序を導入することだという。
「遷移金属、この場合はニッケルとマンガンの比率を変更することで、少しの無秩序を導入し、観察された秩序効果を潜在的に減らすことができる。」と彼は言う。
新しい特性評価手法を使用して、硫黄電池などの他のナノ粒子システムにおける複雑な相挙動を明らかにすることができる。
「我々はナトリウム・イオン電池とそれについて我々が知っていることの最前線を押し広げている。」とHuangは言う。「我々はまた、この知識を利用して、将来の実用化に向けた技術の扉を開くより優れた電池の設計に取り組んでいる。」
正極材料
スコルテック大学とロモノーソフ・モスクワ州立大学の研究者達は、現在の電池よりも15%高いエネルギー密度と4.0 Vの放電電圧を提供するナトリウム・イオン電池用の正極材料を開発した。これは、特定の結晶構造を有するリン酸ナトリウム・バナジウム・フッ化物粉末である。比較的低温のプロセスを使用して製造される。
「我々の新素材と業界が使い始めた素材はどちらもナトリウム・バナジウム・リン酸フッ化物と呼ばれる物で、同じ元素の原子からできている。」とスコル工科大学のStanislav Fedotov助教授は言う。「それらが異なるのは、それらの原子がどのように配置され、どのような比率で化合物に含まれているかである。
「我々の材料は、カソード用の層状材料のクラスにも匹敵する。ほぼ同じ電池容量と優れた安定性を提供し、電池の寿命が長くなり、コスト効率が高くなる。驚くべきことに、競合する材料の理論的予測でさえ、実際のパフォーマンスには達していない。理論上の可能性が完全には実現されていないため、これは決して簡単なことではない。
「より高いエネルギー貯蔵能力は、この材料の利点の1つにすぎない。また、陰極をより低い周囲温度で動作させることも可能になり、これは特にロシアにとって重要である。」と彼は言う。
チームは試行錯誤ではなく、固体化学設計を使用した。「それは、我々がハード・サイエンスに依存し、固体化学の基本法則と原理を使用して、望ましい特性を持つ材料に到達することを意味する。」とスコルテックの研究者Semyon Shrareは言う。
「理論的考察により、高いエネルギー貯蔵能力を提供できる可能性のある材料の基本的な配合が導かれた。」と彼は付け加えた。「次に、どの結晶構造がその可能性を解き放つかを決定する必要があった。
「我々が選択したものは、KTPタイプのフレームワークとして知られており、非線形光学に由来している。電池工学ではあまり一般的ではない。我々は、この特定の結晶構造を持つこの特定の化合物が機能するはずであることに気付き、低温イオン交換によってそれを合成することに成功した。そして、その優れた特性が実験によって確認された。」
カソード材料は190℃での低温イオン交換合成を使用して、NaVPO4Fタイプのフレームワークを組み合わせて製造される。ナトリウム金属負極およびNaPF6ベースの非水電解液と組み合わせたコイン・セル構成でテストした場合、カソード活物質は平均セル放電電圧14.3 mA/gで136 mAh/gの放電容量を実現する。同じセル構成では、5.7 A/gで123 mAh/gの比放電容量も報告されている。
昨年、スコルテックのチームは、ナトリウム、リチウム、マンガンの層であるNaLi/Mn2/O2を使用し、ナトリウム・イオン電池の正極材料としては比較的高い値である190 mAh/gの可逆比放電容量を備えた正極を開発した。
また、フランスのTiamat Energyは、ポリアニオン性Na3V2(PO4)2F3材料をベースとしたカソードを使用している。同社はこの技術を開発したフランスのCNRS研究所から独立した企業である。
重要なのは、ナトリウム族がリチウム・イオン族と同じくらい幅広く、それによって酸化物の層が可能になる事である、とTiamat Energy社の創設者兼社長のHerve Beuffeは言う。
Tiamatのポリイオン化合物はフッ化物とバナジウムを使用して40~50Cの速度での高速充電をサポートするため、NMCリチウム・イオン電池とまったく同じように、セルを10分で完全に充電できる。欠点は、リチウム金属電池のエネルギー密度が400~800 Wh/kgであるのに比べて、エネルギー密度が90 Wh/kgから最大120 Wh/kgと低いことであり、これにより、可能なe-モビリティ用途よ範囲が制限される。
「バックアップ電源を使用した100%電気自動車は、10分でフル充電できるにもかかわらず、航続距離が制限される。」とBeuffeは言う。「これは、都市で使用される小型車、特に常に車を道路に走らせたいと考えている車両管理会社にとって有益となる可能性がある。」
これらのナトリウム電池は、回生ブレーキからのエネルギーを取り込むための電池パックを必要とする水素燃料電池と並行して使用することもできるため、同社は48 Vでの概念実証を開発中である。また、Plastic Omniumと協力して、水素システムを組み込むことを目的としたマイルド・ハイブリッド車用の48 Vナトリウム電池パックの開発にも取り組んでいる。
また、フランスではSodium CyclesがTiamatのセルをベースにした電気自動車を開発している。Xubakaは4 kWモーターを搭載し、アメリカでは最高速度50マイル(80.5キロ)であるが、欧州連合では45キロに制限される。このパックは標準プラグから4時間で充電でき、航続距離は60~80 kmである。
イギリスでは、ファラディオンの技術が混合相O3/P2タイプのNa-Mn-Ni-Ti-Mg層状酸化物陰極、硬質炭素陽極、および非水性電解質を使用し、3000~4000サイクルの寿命を達成している。この摂家に基づいた電池はインドのトラックや電気自動車で使用されており、メンテナンスの必要性が低く、リチウム・イオンよりもナトリウムの方が安定性が高いことが重要な利点である。
次世代の技術は、2 kW/kg、210 Wh/kg、最大8000サイクルの寿命を目指している。これは、10 Ahパウチセルの設計性能が155 Wh/kgであり、エネルギー密度が140 Wh/kgを超える既存のセルと比較する。
一方、アメリカに本拠を置くナトロン・エナジー社は、水生溶媒とPBAベースのカソードおよびアノードを中心にナトリウム・イオン技術を構築しているが、これはe-モビリティよりもむしろ定置型エネルギー貯蔵システム用途に適している。イギリスのAMTEパワーは、e-モビリティ用途向けのリチウム・イオン電池と並行して、ESS向けのナトリウム電池ラインについても同様の計画を立てている。
e-モビリティ・セルのカソードは、アルトリスはプルシアン・ホワイトと呼ばれる材料を使用している。これはナトリウム、鉄、炭素、窒素からなる骨格材料であり、プルシアン・ブルーと呼ばれる染料の一種である。材料内部の大きな細孔により、さまざまな原子や分子を捕捉して保存できるため、この化合物はさまざまな用途にとって非常に興味深いものとなっている。
アルトリスは、フェナックと呼ばれる正極材料を、ナトリウム・イオン電池の正極材料として使用するのに適した形で製造する方法を開発した。電力源として鉄を使用し、材料をナトリウムで完全に満たすことにより、理論容量170 mAh/gと平均電圧出力3.2 Vが得られる。
フェナックは、特許取得済みの低温高圧合成プロセスを使用して、カソード材料に必要な完全にナトリウム化された形で製造される。これは既存の電池生産ラインに導入できる。
アルトリスは、この材料を製造するためにスエーデンのサンドビケンにフェルムと呼ばれる生産工場を建設し、来年開設する予定である。年間2000トンのフェナックを生産する予定で、これは1 GWhのナトリウム・イオン電池を製造するのに十分である。フランスの繊維製品メーカーであるアールストローム・ムンクショーは、フェナック・ベースのセル用の耐熱セパレーターを提供する予定である。スペインの運輸・エネルギー研究開発財団であるCIDAUTは、安全性と性能のセル試験を開発し、実施する。
アノード
ランカスター大学化学科のNuria Tapia-Ruiz博士とイギリスのファラデー研究所によると、陽極は層状酸化物(プルシアン・ブルーの変種、ナトリウムまたはバナジウム・ベースのポリアニオン化合物と混合したもの)から作ることができ、水性および非水性電解液と一緒に使用できるという。
また、韓国海洋大学の研究者達は、ナトリウム・イオン電池に適した非黒鉛陽極材料の発見に着手した。「ナトリウム・イオン電池は性能が低く、リチウム・イオン電池の容量の1/10しかないため、黒鉛の低コストと安定性を維持する効率的な負極を見つけることが重要である。」と主任研究員のJun Kang博士は述べている。
彼等が開発したアノードは、電解質のバルク・ゾーンから活物質の界面までのナトリウム・イオンの迅速な移動を可能にする階層的多孔質構造を使用している。
この構造には、ナトリウム・イオンが界面に移動する比表面積があり、活物質内で容易にアクセスでき、表面欠陥と細孔構造を利用して、表面から内部への共インターカレーションを可能にする。これにより、拡散経路が減少し、活性サイトの数が増加して性能が向上する。
「これらの要因により、良好な容量保持、可逆容量、超高サイクル安定性、80%と言う高い初期クーロン効率、そして驚くべきレート能力が実現する。」とKang博士は言う。「つまり、電池を激しく使用しても、長時間使用できるということである。」
このアプローチにより、101 mAh/gのエネルギー密度が得られ、100 A/gの電流で11,000サイクルという非常に高いサイクル安定性が得られる。
他の研究者は、ナトリウム・イオン電池の炭素マイクロ格子アノード用の3Dプリンティング・プロセスを開発した。
電池セルは材料の層を使用して構築される傾向があり、通常はスラリーとして配置され、乾燥されるか、金属箔として使用される。層はパウチまたは角形セルに積み重ねられるか、円筒形セルの場合は丸められる。これらの形式はすべて、e-モビリティ設計のナトリウム・セルに適している。しかし、炭素アノードのスラリー・アプローチは、性能を向上させるために使用できる電極内の構造を開発する機会が限られていることを意味する。
そこで日本の東北大学の研究者達は単一セル内の電池を作るために使用する活物質の充填量を増やすことで、高性能で低コストの電池を実現する方法を検討している。これにより、複数のセルを結合するために使用される不活性材料が削減されるが、より厚い電極の製造が必要となり、電池内のイオンの移動が制限される。
このアプローチには、3Dステレオ・リソグラフィーを使用して、樹脂で作られたマイクロ格子構造を印刷することが含まれている。次に、熱分解と呼ばれるプロセスを使用してマイクロ格子を炭化することで、マイクロ格子を収縮させる。得られた硬質炭素アノードは、エネルギーを生成するイオンの高速輸送を可能にすることが判明した。
マイクロ格子の幅は32.8μmで、98 mg/cm2の負荷で性能を低下させることなく21.3 mAh/cm2の面積容量に達する。これは92 mg/cm2で5.2 mAh/cm2の従来のモノリシック電極よりもはるかに高い。
結合材の使用を避けることにより、硬質炭素の構造変化を追跡することも可能になり、硬質炭素へのイオン侵入のメカニズムを理解するのに役立つ。
ナトリウム電池
CATLはまたは陰極にプルシアン・ホワイトを使用し、電子を再配置することによって材料のバルク構造を再設計した。これにより、材料サイクルによる急速な容量低下という世界的な問題が解決されたとしている。
アノード材料に関して、CALTはナトリウム・イオンの貯蔵と高速移動を可能にする独自の多孔質構造を特徴とする硬質炭素材料を開発した。カソード構造の変更によりサイクル性能は最大3000サイクルと報告されているが、現時点ではその詳細は不明である。
第一世代のナトリウム・イオン電池セルのエネルギー密度は最大160 Wh/kgで、室温で15分で80%の充電状態まで充電できる。さらに重要なのは、-20℃での容量維持率が90%以上であり、システム統合効率が80%以上に達する可能性があることである。
CALTはこれらの電池をさまざまな交通機関の電化用途、特に極度に気温が低い地域での用途に向けており、エネルギー密度が200 Wh/kgを超える次世代電池の開発に取り組んでいる。
ナトリウム電池を使用すると、電池パックの設計も変わる。CATLはナトリウム・イオン電池セルとリチウム・イオン電池セルを特定の割合で混合し、1つの電池システムに統合し、BMSアルゴリズムを使用して異なる電池システムを制御する「AB」電池システムを開発した。
AB設計はナトリウム・イオン電池のエネルギー密度不足を補い、低温での高出力と性能を利用して、リチウム・イオン電池を加熱して使用できる状態にするための電力を供給する。
結論
ナトリウム電池は寿命の問題を克服できれば、e-モビリティ用途にとって重要な利点がある。低温での動作はリチウム・イオン電池では動作しないような過酷な用途に特に適している。固体電池とリチウム・イオン電池を混合するハイブリッド・アプローチを使用すると、ナトリウム電池があまり使用されないため、サイクル寿命はそれほど問題にならない。
一方でセルの新しい材料の研究も続けられている。カソード用のプルシアン・ブルーの一種と新しいアノード材料によりセルのエネルギー密度が増加する一方、電解質と溶媒を注意深く最適化することでサイクル寿命を延してより有用な物にすることができる。
これらすべてがリチウム電池を備えたハイブリッド電池パックから燃料電池で駆動される車両の回生エネルギー回収のサポートに至るまで、さまざまな方法でe-モビリティ用途で商用利用されるナトリウム・イオン電池の開発を推進している。