戻る

ナトリウム・イオン電池:エネルギー貯蔵における次の革命?

Sodium -Ion Batteries: The Next Revolution in Energy Storage?

By Liam Critchey

https://www.electropages.com/    2023.05.02

 

 ナトリウム・イオン電池には多くの将来性があり、リチウム・イオン電池の商業的高みにはまだ達していない他の金属イオン電池のリストに加わる。しかし、リチウムを使用する人が増えるにつれて、資源が不足する時期が来る可能性があり、代替技術として他の技術を利用する必要がある。ナトリウム・ベースの電池には、ナトリウムの低コスト、豊富なナトリウム資源、および現在の問題のいくつかが解決されれば高エネルギー密度の電池を制作できる能力があるため、多くの可能性がある。

 

ナトリウム・イオン電池の可能性

 ナトリウム・イオン電池の高いエネルギー貯蔵密度の可能性にもかかわらず、レート性能、クーロン効率(充電および放電中に電池がどれだけ効果的に電気エネルギーを変換できるかの尺度)、およびサイクル安定性に関しては依然として多くの問題があり、それらの商業化を妨げてきた。主な理由は、ナトリウムの原子半径がリチウムよりも大きいため、ナトリウム・イオン間のナトリウム化(ナトリウム・イオンがアノードに入るプロセス)および脱ナトリウム(ナトリウム・イオンがアノードから出るプロセス)メカニズム中の反応速度が遅くなると言うことである。これは、ナトリウム・イオン電池には現在使用されている電解質との互換性を維持しながら、充電および放電プロセス中にナトリウム・イオンを収容するための微細スケールの内部構造を備えたアノードが必要であることを意味している。選択肢の1つは酸化マンガン陽極を使用することであるが、これには独自の一連の課題があるため、研究者達は現在、これらの課題を解決するために酸化マグネシウム-グラフェン・エアロゲルのハイブリッド陽極材料を作成することに着手している。

 

酸化マンガン:陽極の選択肢の可能性

 遷移金属酸化物は一般に高いエネルギー密度を提供し、通常は豊富に存在するため、潜在的なナトリウム・イオン・アノードとして頻繁に示唆されている。注目されている主なアノード材料の1つは、理論容量が高く、コストが低いため、酸化マンガンであるが、他の多くの遷移金属アノードと同様に、導電率が低く、充放電プロセス中に堆積が大幅に膨張する傾向があるため、これまでのところ、電気化学的性能が低下する。

 これらの課題を克服することが現実世界に与える影響は重要である。効率的なナトリウム・イオン電池の開発は、より手頃な価格で持続可能なエネルギー貯蔵解決策につながり、電気自動車、再生可能エネルギー、家庭用電化製品などの様々な業界に影響を与える可能性がある。エネルギー貯蔵の需要が増大し続ける中、ナトリウム・イオン電池の商業化の成功は、リチウム・イオン電池への依存とそれに伴う環境問題を軽減しながら、世界のエネルギー需要を満たす上で重要な役割を果たすことになる。

 これまでのところ、様々なアノード戦略は成功していないが、酸化マンガンの高い理論的特異性(1018 mAh/g)は有望であるが、時間の経過と共にアノードの崩壊による充電/放電中のサイクル安定性とクーロン効率の低下を克服するには課題が残っている。これらの課題を克服するために多大の努力が払われ、酸化マンガン陽極内でのナノ粒子が利用され、電極と電解質の接触面積が大きくなり、イオンと電子の輸送距離が短くなった。ナノコンポジットは、これらのアノードの全体的な電気伝導率を向上させるためにも利用されており、ナノフィラー材料はアノード内の体積変化に適応するための緩衝剤として機能する。これらのアノードにおける様々なナノ材料の成功に続き、研究者達は現在、グラフェン・ベースのエアロゲルに目を向けている。

 

グラフェン・エアロゲルを酸化マンガン・アノードに統合

 酸化グラフェン・エアロゲル(「ゲル」内ンの液体が空気に置き換わったゲル状の材料)は、その高い表面積、電気特性、軽量な性質により、様々な用途で多くの関心を集めている。研究者達はナトリウム・イオン電池の電気化学的性能を改善するために、還元酸化グラフェン(rGO)・エアロゲルに注目した。

 rGOエアロゲルが複合アノード材料として選択された理由は、rGOエアロゲルがその多孔質構造を介してナトリウム・イオンの輸送経路を短縮する方法を提供するためである。また、細孔サイズを簡単に調整して、マイクロポーラス、メソポーラス、マイクロポーラス・サイズなどの様々なサイズを作成できるためである。多孔質ネットワークは、堆積の膨張がエアポケットに移動し、固体アノード材料の劣化や崩壊を防ぐため、体積の変化に対抗する方法も提供する。

 酸化グラフェンの使用には1つの問題があり、電気化学的性能が元のグラフェンほど効率的ではないことである。しかし、この問題は窒素や硫黄などのヘテロ原子(炭素または水素以外の原子)をドーピングすることで簡単に修正でき、これらのエアロゲルの比容量(単位質量当りに電池が蓄えることができる電荷量)と電子伝導性を向上させることができる。

 

グラフェン・エアロゲルを統合して性能を向上

 研究者達はイオウ原子と窒素原子がドープされた酸化グラフェンの層を備えた酸化マンガン(Mn2O3構造)で構成されるハイブリッド・アノードを作成した。ドープされたrGO層は、アンモニア、L-システイン、酸化マンガン粒子の存在下で酸化グラファイトを加熱することによって作成された。この製品は、水素結合、配位、静電相互作用を特徴とする非常に安定した3Dネットワークに自己組織化される。酸化マンガン粒子はエアロゲル層の両側に分布していた。

 酸化マンガン/rGOエアロゲルの多孔質の性質が利用され、ナトリウム・イオンがカソードに出入りする際に支援され、ドープされたrGO層は、イオンがアノードに吸収されると、電子輸送に有利な伝導ネットワークを提供した。

 

デバイスの性能と将来性

 デバイスの性能に関しては、このデバイスはドープされていないrGOと比較して、最大99%のクーロン効率で最大100サイクルの放電容量を示した。多数のドープ・シート・エアロゲル・アノードの組み合わせが試行され、100サイクル後、電極はMn2O3/rGOエアロゲルの場合は242 mAh/gMn2O3/窒素-rGOエアロゲルの場合は325mAh/g、およびMn2O3/窒素、硫黄-rGOエアロゲルの場合は277 mAh/gの容量を維持した。

 ヘテロ原子ドープrGOを酸化マンガン材料に統合すると、電極の導電率と電極内のイオン輸送速度が向上し、動作中に誘発される体積変化の緩衝剤として機能する。その結果、高容量と安定したサイクル性能が得られた。これは、ヘテロ原子ドーピングと3D多孔質ネットワークの間の相乗効果によるもので、これら2つの側面がアノードに様々なメリットをもたらした。

 このデバイスは性能と拡張性の点でまだ商品化の準備ができていないが、この研究は、ナトリウム・イオン電池の性能と安定性に対するナノコンポジットとナノマテリアルの影響を実証し、この分野の2つの主要な課題に対処する。」商用電池のレベルに近づくまでにはしばらく時間がかかるが、新しいナノ材料添加剤のルートを見つけることが、最終的にナトリウム・イオン電池をより安定させ、性能を向上させ、いつか使用できるようにするための鍵となるかもしれない。現在見られる従来の電池技術と並行して商業的に利用されている。

 その一方で、この研究で得られた進歩は、ヘテロ原子ドープ還元酸化グラフェン・エアロゲルや同様のナノ材料の他の潜在的な応用に関するさらなる研究を刺激する可能性がある。例えば、そのユニークな特性は、スーパーキャパシタ、燃料電池、さらには環境修復技術での使用に利用される可能がある。サイエンス・ライターのLiam Critchleyが頻繁に強調しているように、化学とナノテクノロジーの学際的な性質は、産業に革命を起こし、我々の日常生活を改善する可能性を秘めた無数の可能性をもたらす。