塩が食物を変え、体に与える影響
How Salt Transforms Our Food and Impacts Bodies
By Leslie Nemo
https://www.discovermagazine.com/ 2020.12.19
この愛すべきミネラルは、神秘的で強力な方法で食物に風味、粘り、化学反応を加える。そして塩が台所に欠かせないのと同じように、塩の摂取は人間の健康にとっても不可欠である。
人間は塩を集めるためにあらゆる手段を講じる。地下の鉱床から塩を掘り出したり、海水が蒸発して残るのを辛抱強く待ったりして、そのミネラルをかき混ぜたり、振り掛けたり、食物にすくったりする。
我々の欲求は、生物学的な必要性から生じている可能性が高い。「我々は、進化の観点から見て生理学的に重要なこれらのナトリウム濃度に対して、生まれつき備わった快楽反応を持っている。」とオーストラリアのディーキン大学の食品科学者Russell Keastは言う。塩分子の半分を構成するナトリウムは、神経と筋繊維を正常に機能させている。初期の人類がこの化合物に遭遇することは比較的希であったため、我々がこの味を非常に好む理由を説明できるかもしれない、とKeastは言う。刺激的な味を楽しむために、初期の祖先は、この物質を見付けたときに十分に食べたはずである。
しかし、ほとんどの食事に含まれる塩分は、新たな領域に踏み込んでいる。我々の身体が機能するために必要な量を摂取する代わりに、ほとんどの人は、商業的な食品生産者が料理を美味しくし、生産をスムーズに進めるために塩に頼っているため、塩を摂り過ぎている。塩の多い食事を止めさせることは、我々の本能としてミネラルをもっと欲しがるからという理由もあると、Keastは言う。「それは我々が抱えている進化の遺産である。」
塩の干渉
塩は、我々の体が機能するために必要なだけでなく、食物の味を良くする。料理に混ぜると、塩は苦味を和らげ、他の材料の甘味を高める。これは、塩が口で感知する5通常の味の内、甘味、苦味、塩味、酸味、うま味の3つに直接影響を与えることを意味する。塩が食物の味をどのように作り直すかはまだ明らかではないとKeastは言う。おそらく、味蕾が一口ごとにすべての化合物を感知し、知覚信号を脳に伝えた後、神経レベルで変化が起こる。
さらに驚くべきことに、塩は、検知可能な風味として現われることなく、食品にこうした変化をもたらすことができる。例えば、被験者がさまざまなスープを試食する研究では、普通の野菜水は魅力に欠けている。スープに塩を加えると、受け手は変化した風味を認識して楽しみものの、何が違うのかを特定することはできない。塩の量が科学者が「認識閾値」と呼ぶ値に達したときのみ、人々はいわゆる塩味を味わうことができる。その時点で、スープの魅力は低下し始めるとKeastは言う。料理の塩がちょうど良いレベル、つまり多すぎず少なすぎずのときが、全体的な味が最高になる。
塩の化学
塩の味が明らかになる(そして魅力がなくなる)閾値は食品ごとに異なる。これが、一部の製品でナトリウム含有量が驚くほどに高くなる理由である。例えば、穀物ベースの食品は、食品の味を損なうことなく、簡単に高濃度の塩分を組み込むことができる。また、アメリカとイギリスでは、パン、シリアル、クッキー、ケーキが、人が毎日摂取するナトリウムの約30~50%を占めている。
サスカッチワン大学の食品科学者Michael Nickersonによると、これらの食品の場合、塩濃度が高いことは風味より製品の粘稠度に関係していると言う。基本的に小麦粉、水、酵母、塩でできたパンは、最後の成分のおかげで均一に膨らむ。
酵母が生地の中で二酸化炭素を放出する間、塩は各微生物が生成するガスの量を調整し、最終製品に生じる空気ポケットが大きくなりすぎないようにする。そもそもパンガ膨らむためには、穀物中のグルテン・タンパク質が、酵母菌が生成するガスに反応して伸びるネットワークを形成する必要がある。ここでも塩が役立つ。ミネラルは各グルテン・タンパク質の正電荷と負電荷の一部を覆い、ストランドが凝集してより強力なネットワークを構築するのを助ける。
同時に、加えられた塩はグルテンのネットワークが水分を保持するのを助け、生地の粘着性を抑え、商業用パン屋を悪夢のような状況から救う。「これは大規模な加工工場にとって大きな意味を持つ。そこでは、機械全体をシャットダウンしてすべてを洗浄し、最初からやり直す必要がなくなるのである。」とNickersonは言う。
家庭でパンを焼く人は、一般的に生地が湿りすぎて機械が詰まる雇用開発投資助成金を心配していない。Nickersonによると、台所でパンを焼くときに塩が足りないと、グルテンのネットワークが弱くなり、酵母が制御不能になったときに崩れた部分が出てくる可能性が高いそうである。商業パン屋では、パンからパンへの一貫性が重要なので、塩の量ははるかに多くなる。
ナトリウムの過剰
塩分濃度を以下に下げるかが、KeastとNickersonの研究の原動力となっている。塩は有益で美味しいが、食事中のナトリウムを摂り過ぎは血圧を上昇させ、心臓病や脳卒中のリスクを高める。市販の食品から単にこの成分をカットするだけでは、気付かれないことはない。例えば、顧客は「減塩」スープは味が悪くなると考え、ブランドはクラッカーの箱ごとに味が変わることを望んでいない。
解決策が模索されている一方で、塩(およびその代替品)の科学にはまだまだ発展の余地があるとKeastは言う。「我々は理論を立てて研究しているが、まだ分からないことがたくさんある。」