2022年のWHOヨーロッパ地域における人口レベルの塩摂取量:
系統的レビュー
Population-Leve Salt Intake in the WHO European Region in 2022:
A Systematic Review
By Edwin Jit Leung Kwong, Stephen Whiting, Anne Charlotte Bunge, Yana Leven, Joao Breda, Ivo Rakovac, Francesco Paolo Cappuccio and Kremlin Wickramasinghe
https://www.cambridge.org/ 2022. 10.20
要約
目的:
WHOは心血管疾患のリスクを減らすために、成人は1日当たり5 g未満の塩を摂取することを推奨している。この研究は、WHOヨーロッパ地域の53加盟国における人口の1日当たり平均塩摂取量を調査することを目的としている。
設計:
2000年から2022年までに発表された成人の最新の塩摂取量データを調べるために、系統的レビューを実施した。データは、調査済み文献や研究、および国内外の専門家から入手した。
設定:
WHOヨーロッパ地域の53加盟国
参加者:
12歳以上の人々
結果:
2010年から2021年の間に発売された50件の研究を特定した。WHOヨーロッパ地域のほとんどの国(n=52、98%)は、WHOが推奨する最大レベルを超える塩摂取量を報告した。ほぼすべての国で男性は女性よりも多くの塩を摂取しており、男性は5.39~18.51 g、女性は4.27~16.14 gの範囲である。一般的に、西ヨーロッパと北ヨーロッパの国々の平均塩摂取量が最も低く、東ヨーロッパと中央アジアの国々の平均塩摂取量が最も高くなっている。53ヶ国のうち42%(n=22)は、ゴールドスタンダード法とされる24時間尿採取法を使用して塩摂取量を測定した。
結論:
この調査により、WHOヨーロッパ地域の塩摂取量はWHO推奨レベルを大幅に上回っていることが判明した。この地域の加盟国のほとんどが、何らかの形で国民の塩摂取量調査を実施している。しかし、塩摂取量を推定する方法論は大きく異なっており、過小評価される可能性が非常に高い。
塩の過剰摂取量は高血圧の主な原因であり、脳卒中、心筋梗塞、心臓病、腎臓病などの心血管疾患のリスクを高める。モデル化によると、世界中で300万人が死亡し、障害調整生存年が7000万年延びたのは、ナトリウムの過剰摂取量が原因であると考えられる。WHOヨーロッパ地域では、心血管疾患が死亡、早期死亡、障害の主な原因となっている。
塩摂取量と血圧および心血管疾患の間には用量反応関係がある。塩摂取量を減らすと、成人女性と男性、民族グループ全体、高血圧と正常血圧の両方の集団で収縮期血圧と拡張期血圧が低下する。したがって、集団レベルでの塩摂取量削減は、脳卒中を含む心血管疾患の発生率を下げることで非感染性疾患の負担を軽減し、集団の健康を改善するための最も費用対効果の高い対策の1つであるため、推奨される。これは心血管疾患などの基礎疾患のために、感染した場合、世界中で5人に1人が重度のCOVID-19のリスクが高まることが示唆されているためである。
塩摂取量は体格指数(BMI)や過体重や肥満の蔓延とも直接関連しており、非感染性疾患とCOVID-19パンデミックの両方に対処する手段として塩摂取量の削減を推進することの重要性がさらに高まる。したがって、社会がより健康で回復力があり、将来のパンデミックに備えるためには、非感染性疾患の予防、より具体的には人口全体の塩摂取量削減が都市や国のCOVID-19回復戦略の要素となるべきである。
塩摂取量削減は、持続可能な開発目標の3.4「非感染性疾患による早期死亡率を3分の1削減する」を達成するための非感染性疾患の制御と予防のためのWHOベストバイとして認識されている。したがって、WHOは、心血管疾患のリスクを減らすために、成人が1日当たり5 gを超える塩を摂取しないように推奨している。さらに、非感染性疾患の負担を軽減するためのWHO世界行動計画の一環として、2013年の世界保健総会は、包括的な減塩戦略の実施と拡大を通じて、2015年までに人口の塩摂取量を30%削減するという世界目標に同意した。
これまでの推定では、世界中の塩摂取量はWHOが推奨する制限値のほぼ2倍であり、WHOヨーロッパ地域の加盟国は塩摂取量削減能の取り組みで大きなリーダーシップと進歩を示しているものの、地域全体の塩摂取量は推奨レベルをはるかに上回っているようである。地域内のすべての国の人口の塩摂取量に関する統一されたデータソースは、減塩政策の策定と監視を導く確かな証拠を提供することができる。この研究は、WHOヨーロッパ地域の53の加盟国における最新の人口の塩摂取量データを調査し、既存のデータの包括的な概要を提供し、使用された証拠の基盤と方法論のキャップと問題を浮き彫りにすることを目的としている。
方法
検索戦略
採用/除外基準
データ抽出
統計解析
以上の章は省略。
結果
WHOヨーロッパ地域の53加盟国のうち50ヶ国について、人口の平均1日塩摂取量のデータを入手した。調査済み文献データベースの初期検索から合計3,235件の記録が取得され、そのうち119件が全文スクリーニング段階で適格基準に照らして評価された。これにより、査読済み文献から適格な研究15件が明らかになり、その後、国家代表者および専門家から得た未発表データ(n=8)とWHOおよび国家報告書の両方からのデータ(n=27)からなる灰色文献(n=35)で補完された。PRISMAフロー図(図1省略)は、このレビューで実施された研究およびデータ選択の詳細な概要を示している。データが入手できなかった3つの加盟国(キルギスタン、モナコ、サンマリノ)については、民族および料理が類似する最も近い隣国からの代理データが補完された。
研究の特徴 省略
WHOヨーロッパ地域全体の平均塩摂取量
WHOヨーロッパ地域の53ヶ国のうち50ヶ国では、平均塩摂取量のデータが利用可能であった。近隣諸国(カザフスタン、フランス、イタリア)の代理データは、独自のデータを持たない3ヶ国(キルギスタン、モナコ、サンマリノ)のデータを近似するために使用された。したがって、WHOヨーロッパ地域の53ヶ国のうち52ヶ国では、成人の1日当たり平均塩摂取量がWHO推奨レベルの5 g/dを超えていると推定された(表1、省略)。塩摂取量は男性で5.39~18.51 g、女性で4.27~16.14 gの範囲である。46ヶ国では人口の塩摂取量が少なくとも7.5 g/dで、推奨レベルを少なくとも50%超えており、23ヶ国では、人口の塩摂取量が少なくとも10 g/dで、推奨レベルの2倍である。53ヶ国中47ヶ国が成人の平均塩摂取量について性別別のデータを報告した。ほぼすべての国で男性の塩摂取量は女性の塩摂取量より高く、半数以上の国(n=34)が少なくとも1日2 gの差があると報告した。図2(省略)はこの地域の人口の平均塩摂取量を5分位に分けたものであり、オンライン補足資料の補足付録3にさらに詳細が示されている。
人口の平均塩摂取量を測定する推定方法 省略
考察
本レビューにはWHOヨーロッパ地域で成人のナトリウムまたは塩摂取量を報告した50件の研究が含まれている。全体として、WHOヨーロッパ地域全体の人口の平均塩摂取量は、ほぼ例外なくWHO推奨レベルである1日5 gを大幅に上回っていることが分った。53ヶ国の塩摂取量は大きく異なり、この地域では東西の勾配が顕著で、東ヨーロッパおよび中央アジア諸国の塩摂取量は西ヨーロッパおよび北ヨーロッパ諸国よりも高く、特にこれらの加盟国では減塩の取り組みを強化する必要があることが浮き彫りになった。男女間には大きな違いが見られ、34ヶ国では男性の塩摂取量が女性よりも2 g以上高く、11ヶ国ではその差が3 g以上であった。ただし、塩摂取量は総摂取量として測定され、エネルギー摂取量や体重で調整されていないため、この性差は予想通りである。
最下位5分位のデータは過小評価によって混乱している可能性が高い。これらの研究(n=12)のいずれも24時間尿採取による塩摂取量を推定しておらず、特に食事評価では実際の塩摂取量を過小評価する可能性が高い。例えば、食事の回想を使用して塩摂取量を推定したマルタの場合がこれに該当する可能性が高い。しかし、食事の回想では、調理や食卓で任意に加えられる塩の量を評価することはできない。したがって、WHOヨーロッパ地域の53加盟国のうち、WHOが推奨する平均人口塩摂取量5 g/dを満たしている国は1ヶ国もない可能性が高い。推奨レベルを下回る数値を報告した1つの調査では、実際の塩摂取量を過小評価している可能性が高いためである。
この研究には、発表済みの文献だけでなく、グレー文献や未発表の国別報告書、WHO報告書も含まれており、研究の種類や研究方法に柔軟性を持たせることで、幅広いエビデンス・ベースが組み込まれた。そのため、可能な限り完全なデータ・セットを提供し、53の加盟国で使用されているさまざまな方法論を強調することで、WHOヨーロッパ地域全体の塩摂取量の人口モニタリングの状態を示すことができた。
WHOヨーロッパ地域の加盟国で、WHOが推奨する人口の塩摂取量レベルを満たした国は1つもないと思われるにもかかわらず、53ヶ国中50ヶ国が何らかの形で人口の塩摂取量を報告できたことは心強いことであり、これは主にWHOヨーロッパ地域、その加盟国、およびESAN間の協調行動によって推進された。測定努力の拡大の進歩と成功の兆候である。性別に細分化したサンプルサイズが小さかったのは4ヶ国のみ(n<100)であり、これは含まれる研究の全体的な統計的精度と信頼性の点で安心できる。最後に、WHOヨーロッパ地域では24時間尿収集のゴールドスタンダード法が一般的に使用されており、53ヶ国中22ヶ国が信頼性を評価するためにこの方法を使用していることは有望である。他の方法は、人口の平均塩摂取量を過小評価する傾向があるだけでなく、政策措置の結果として人口の平均塩摂取量に生じる小さいながらも意味のある変化を検出する可能性が低くなる。また、WHOの目標である1日5 gの塩摂取量を達成するためのさらなる措置を沮止するリスクもある。
この研究の大きな強みは、さまざまな方法論を用いた幅広く研究が組み込まれたことであるが、含まれている研究の大半(n=28)が、スポット尿採取、食事回想、食品食物摂取頻度調査票、食事記録、家計調査、およびこれらの方法のいくつかを組み合わせたものなど、24時間尿採取以外の採取方法を使用しているという大きな限界がある。これらの方法は、集団レベルの塩摂取量を過小評価する。例えば、Freemanらは24時間食事回想ではナトリウム摂取量が約5~10%過小評価され、食物摂取頻度調査票では約30%過小評価されることを発見した。そのため24時間尿収集を行なわないこれらの研究の多くから報告された値は、それらの国の人々の実際の塩摂取量を正確に反映していない可能性がある。ある研究では、スポット尿データを24時間尿中ナトリウム排泄量の推定値に変換するために川崎式も使用した。しかし、この方法は不正確で体系的に偏っており、ナトリウム・レベルが低い場合は過大評価され、ナトリウム・レベルが高い場合は過小評価され、ナトリウム摂取量と死亡率の間に実証された線形関係を歪める可能性があることが証明されている。さらに、Luckoらが実施したメタ分析によると、食事中のナトリウムの約93%は尿中に排泄されるため、24時間尿収集で推定されるナトリウム摂取量は、理想的には実際のナトリウム摂取量を最も正確に反映するように調整する必要がある。さらに、尿試料収集の完全性は保証されていないため、クレアチニン比/尿中総クレアチニンなどの検証マーカーは、収集されたデータの品質を確認するのに役立つ。また、現場作業員のトレーニングや品質管理のための厳格な標準操作手順も役立つ。
全体として、この記事で特定された成人の塩摂取量に関する50件の研究のうち、測定品質評価スコアが最高の8または9であったのは18件のみであった。これは、WHOヨーロッパ地域では塩摂取量の高品質な測定を適用した研究がまだ不足していることを示している。
対象となった研究間ではナトリウムまたは塩摂取量を推定する標準化された方法が使用されていないため、WHOヨーロッパ地域全体で報告された人口の塩摂取量は、完全には比較できない。この不一致を解消するために、必要に応じて対象となった研究全体でナトリウムを塩に変換する同じ変換係数が使用されるようにした。さらに、対象となった研究で報告されたすべてのデータが国を代表するものではなく、38%の国(n=20)が研究の代表性に関する情報を提供していないか、国を代表する研究を行なっていなかった。一部の国では、塩摂取量の最新のモニタリングを行なっておらず、一部のデータは10年以上前に収集されているため、WHOヨーロッパ地域の一部の加盟国では、人口の塩摂取量に関する適切な監視メカニズムをより定期的に実装する必要があることが示唆されている。
全体として、この研究結果は、WHOヨーロッパ地域の加盟国が人口の塩摂取量を定期的に監視し、モニタリングして、より最新のデータを提供する必要があることを示している。また、塩摂取量を推定するために、24時間食事回想や食物摂取頻度調査票などの従来の栄養調査に依然として適度に依存している。加盟国の監視とモニタリングの取り組みを支援するために、例えば、24時間尿データ収集を使用した人口の塩摂取量を測定するためのモデル・プロトコルやSTEPS調査の実施など、WHOツールの使用に関するトレーニングを提供するなどのさらなる支援を優先する必要がある。人口レベルの塩摂取量を正確に測定し、24時間尿収集のゴールドスタンダード法の使用を強く推奨する必要がある。
WHOヨーロッパ地域およびそれ以外の地域の政策立案者が、この研究結果を利用して、比較可能な設定からの塩摂取量に関する情報を入手し、集団の塩摂取量のモニタリングと将来の減塩戦略の計画における次のステップを決定できることが期待される。現在、食事中の塩分を減らすと、正常血圧者と高血圧者の両方で血圧が直線関係で低下し、心血管疾患の発生率も低下することがエビデンスによって実証されている。これは、集団レベルで塩摂取量を減らすことが、死亡率を低下させ、集団の健康を改善するための重要なステップであることを意味する。したがって、この研究は、Santosらによる世界各地の減塩活動に関する最近の体系的レビューと併せて使用することで、2025年までに塩摂取量を相対的に30%削減するという目標に向けて各国が前進するのに役立つ有用な情報を提供することができる。
結論
WHOヨーロッパ地域の人口の平均塩摂取量はWHO推奨レベルをはるかに上回っており、加盟国53ヶ国のうち52ヶ国が推奨レベルを超えており、含まれている研究の大半は過小評価されている可能性が高い。しかし、WHOヨーロッパ地域のほとんどの加盟国が何らかの形で人口の塩摂取量調査を実施していることは心強い。WHOが推奨する目標塩摂取量を達成するには、WHOヨーロッパ地域のすべての加盟国が、WHOベストバイの推奨介入にしたがって、減塩戦略を拡大するか、より効果的に実施する必要がある。これを達成するには、監視システムを強化し、人口の塩摂取量に影響を与える可能性のあるすべてのセクターで政策措置を実施する必要がある。今後の研究では、可能であれば、人口の塩摂取量データを収集する際に厳格なゴールドスタンダード法を使用し、最高レベルの精度、比較可能性、妥当性を確保する必要がある。