戻る

Salt

https://www.britannica.com/    

 

 塩(NaCl)は、人や動物の健康、そして産業にとって非常に重要な鉱物である。岩塩と呼ばれる鉱物は、塩と呼ばれる化合物群と区別するために「普通塩」と呼ばれることもある。

 普通塩の特性については表に示す。

塩の性質

化合物名

塩化ナトリウム

化学式

NaCl

分子量

58.443

純粋な物は無色または白色;不純物により色付きの斑点(例えば、青、紫)

光沢

ガラス質

物理的形態

半透明の立方晶結晶;粉末または粗粒

モース硬度

2 1/2

0℃の密度

2.17 g/cm3

融点

801

沸点

1,465

溶解性

水に可溶;グリセロールに可溶;アルコールにわずかに可溶;塩酸に不溶

 

塩は人間と動物の健康に不可欠である。調味料として広く使われる食卓塩は、きめが細かく、純度が高い。この吸湿性(つまり水を引き寄せる性質)の物質が空気に触れても流動性を保つように、少量のアルミノケイ酸ナトリウム、リン酸三カルシウム、またはケイ酸マグネシウムが添加される。ヨード添加塩、つまり少量のヨウ化カリウムが添加された塩は、食事からヨウ素が不足している地域で広く使用されている。ヨード欠乏症は、甲状腺腫と呼ばれる甲状腺の腫れを引き起こす可能性がある。家畜にも塩は必要であり、多くの場合、固形のブロック状で提供される。

 食肉加工、ソーセージ製造、魚の塩漬け、食品加工といった産業では、塩は保存料、調味料、あるいはその両方として使用されている。皮革の塩漬けや保存、そして冷蔵用の塩水としても用いられている。 

 化学産業では、重曹(ベーキングソーダ)、カ性ソーダ、塩酸、塩素、その他多くの化学物質の製造に塩が使用されている。また、石鹸、釉薬、ホーローの製造にも塩が使用され、冶金工程では融剤(金属の溶融を促進する物質)として使用される。

 雪や氷に塩を散布すると、混合物の融点が下がる。そのため、北部の気候の地域では、道路に積もった雪や氷を取り除くために大量の塩が使用される。また、水からカリウムやマグネシウムの化合物を除去する軟水化装置にも塩が使用されている。

 

使用の歴史

 西半球の一部の地域とインドでは、塩の使用はヨーロッパ人にとってもたらされたが、中央アフリカの一部では、塩は今でも富裕層だけが享受できる贅沢品である。人々が主に牛乳と生肉または焼肉(天然の塩分が失われないように)で生活している地域では、塩化ナトリウムの補給は不要である。例えば、羊や牛の群れを飼っている遊牧民は、食事に塩を加えることはない。一方、主に穀物、野菜、または茹でた肉を主食とする人々は、塩の補給を必要とする。

 塩の習慣的な使用は、遊牧生活から農耕生活への移行と密接に関係しており、この文明の発展は、ほぼすべての古代国家の儀式や信仰に深い影響を与えた。神々は大地の恵みを与える者として崇拝され、塩は通常、穀物を全部または一部含む供物に含まれていた。このような供物は、ギリシァ人、ローマ人、そして多くのセム系民族の間で広く行なわれてきた。

 契約は通常、犠牲の食事の席で交わされ、塩は欠かせない要素であった。塩の防腐作用は、永続的な契約の象徴として、忠誠の義務を伴って締結される。まさにふさわしい物であった。こうして「塩」という言葉は、古代および現代の言語において、高い評価と名誉の含意を獲得した。例えば、アラブ人の「我々の間には塩がある」という誓いの言葉、ヘブライ語の「宮殿の塩を食べる」という表現、そして現代ペルシャ語の「塩に不誠実な」(詰まり、不忠または恩知らず)を意味する「ナマク・ハラーム」などが挙げられる。英語では、「地の塩」という言葉は、高く評価されている人物を表す。

 塩は、」古代の商業街道に関する知識の大きく貢献している。イタリア最古の街道の1つは、オスティア産のローマ時代の塩がイタリア各地へ運ばれたサラリア街道(塩の道)である。ヘロドトスは、リビア砂漠の塩のオアシスを結ぶ隊商の道について記している。古代、ロシア南部のエーゲ海沿岸と黒海沿岸の間の交易は、ドニエプル川河口の塩田(海水を蒸発させて塩を得るための池)と、この地域から運ばれる塩漬けの魚に大きく依存していた。

 21世紀初頭、中国、アメリカ合衆国、インド、ドイツ、カナダ、オーストラリアは世界最大の塩生産国である。

 

起源

海水

 海水の塩味の素は多くの物質から構成されているが、塩化ナトリウム、つまり食塩が圧倒的に主要な化合物である。1ガロン(4リットル)の海水には約105 gの塩が含まれており、岩塩の平均密度は水の2.17倍であると仮定すると、世界の海が完全に干上がった場合、少なくとも450万立方マイル(1140万立方キロメートル)の岩塩が生成されると推定される。これは、満潮線より上のヨーロッパ大陸全体の面積の約14.5倍に相当する。

 海水には平均約3%の塩分が含くまれているが、実際の濃度は約1(極地の海)から5%まで変化する。地中海や紅海などの閉鎖海域では、同緯度の外洋よりも塩分濃度が高くなる。海水の供給源に関わらず、海水を蒸発させて得られる塩の組成は、塩化ナトリウム77.76%、塩化マグネシウム10.88%、硫酸マグネシウム4.74%、硫酸カルシウム3.60%、塩化カリウム2.46%、臭化マグネシウム0.22%、炭酸カルシウム0.34%である。

天然かん水

 かん水とは、高濃度の塩分を含む水である。商業的に重要な天然かん水は、死海のほか、オーストラリア、フランス、ドイツ、インド、アメリカ合衆国、イギリスにも存在する。かん水に含まれる塩分には、ほぼ常にカリウム、カルシウム、マグネシウムの塩化物や硫酸塩が含まれており、炭酸塩や臭素元素もしばしば含まれている。

 1,020平方キロメーターの面積を持つ死海には、約1265千万トンの塩が含まれている。ヨルダン川は、水10万部に対してわずか35部の塩しか含まれないため、毎年85万トンの塩が高齢者に加わる。

 死海の塩分濃度は、水深40 mまでは270300 ppm(100万分の1)の範囲で変動し、40100 mにかけて徐々に増加し、100 m以下では332 ppmとほぼ一定である。死海の水は硫酸塩が比較的少なく、カリウムと臭素の含有量が多い。大気条件が年間約8ヶ月間太陽光による蒸発(天日蒸発)に有利なため、死海地域では塩、カリウム、臭素の生産が可能である。塩とカリウムの回収方法は、後述の「塩の製造」で説明する方法と同様である。カラゴダのインド海水は、溶存塩の性質において海水に似ているが、あるかに濃縮されており、場合によってはほぼ飽和状態、つまり溶解可能なすべての塩が溶解している状態である。

 イギリスとアメリカで発生する特定の天然かん水は、バリウムやストロンチウムの塩化物など、通常のかん水には含まれない塩分を含んでいるため、特に注目されている。このようなかん水から塩を生産するには、特別な処理方法が必要である。イギリスでは、このような珍しいかん水は石油掘削の試掘中に深海で発見されるが、イギリスではこのようなかん水は複数の深井戸で発見される。

岩塩

 岩塩は結晶性の塩化ナトリウムで、鉱物学者は岩塩(halite)と呼ぶ。岩塊や岩層の形で広く存在し、あらゆる地質時代の岩石に豊富に含まれている。水への溶解度が高いため、湿潤地域では非常に厚い層の下に、乾燥地域では地表近くに存在する。

 主要な岩塩鉱床はすべて地質学的過去のある時期における海水の蒸発によって形成された。通常の海水中の鉱物質の約78%は塩化ナトリウムである。海水の体積の約9分の1が蒸発すると、塩が沈殿する。硫酸カルシウム(石膏や無水石膏)、カリウム塩、マグネシウム塩も沈殿する。鉱床は数フィートから数百フィートの厚さの層に見られる。これらの層の年代は地質学的時間の大部分にわたる。大量の海水が蒸発しても少量の塩しか残らないため、非常に厚い岩塩層の多くは、蒸発量が流入するかん水よりも多かった、部分的に閉じ込められた海域に堆積したと考えられている。盆地の入口にある海底の障壁が、高濃度のかん水の流失を防いでいた。

 このような層状の岩塩鉱床は、パキスタンのパンジャブ岩塩地帯とイランに存在するが、ほとんど採掘されていない。アメリカとカナダの同様の鉱床は、工業用と家庭用の両方で広く採掘されている。その他の重要な塩鉱床は、通常、周囲の岩石の年代によって分類されるが、ドイツ、ノバスコシア州、ポーランドからハンガリー、ルーマニアにかけて広がるカルパチア山脈以南の地域、そして2000年以上前から塩井が存在する中国の四川省にも存在する。

 経済的に重要な別の種類の岩塩鉱床は、岩塩ドームである。これは直径約1マイルの岩塩の塊が地圧によって押し上げられて形成された。ドームは50,000フィート(15,000 m)物深さから岩層を通して押し上げる圧力によって形成されたようである。多くのドームは浅い深さに存在し、広く採掘されている。ヨーロッパのカルパチア山脈以南の地域のドームは、古代から採掘されてきた。北ドイツ平原には、広く採掘されているドームが数多くあり、それらは深さ6,000フィートより下で発生したと考えられている。また、アメリカのメキシコ湾岸沿いにもドームが豊富にある。ドームから岩塩を採取するには、通常の採掘方法を使用するか、または岩塩層に井戸を掘り、水を押し込んで塩を溶かす。その後、かん水を地表に戻して、天然のかん水のように処理する。

 

塩の製造

 かつては、商業的に使用される塩のほぼ全てが海水の蒸発によって生産されていた。そして海塩は今でも多くの海洋国、特に乾燥した夏が長い地域では主要な商品となっている。商業用の塩は、岩塩、海水、その他の天然および人工のかん水から製造される。人工かん水のほとんどは、地下の塩層に水を押し込み汲み上げることで得られる。工業国では、かなりの量のかん水が直接使用されている。

岩塩からの製造

 岩塩層は鉱床の深さや厚さ、そして地域の状況に応じて、通常の掘削方法によって採掘または採石される。採掘された岩塩は熔解され、後述するように、かん水を処理することで製造される場合もある。この方法は、塩の精製を可能にする。ポーランドやアメリカ合衆国のように、岩塩の純度が高い場合は、粉砕、篩い分けを行い、それ以上の加工をせずにそのまま販売することができる。塩は大きな塊で採掘され、まず粉砕され、さらに細かく粉砕され、さまざまな等級に篩い分けされる。その後、塩はトラック、ホッパー、はしけにバラ積みされるか、袋詰めされてさらに処理される。固結防止剤の使用により、塩は屋外で蓋をせずに保管することができ、再び固まることはない。

海水とかん水からの製造

 特定の温度において、水に溶ける塩の量は限られている。水溶液が保持できる量の塩を全て含む状態を飽和状態と呼ぶ。それ以上塩を加えても溶けない。

 蒸発はこのプロセスの逆である。複数の塩を含む水溶液(例えば、海水)を蒸発させると、それぞれの塩が溶液中で飽和点に達すると沈殿する。そのため、海水中の異なる塩はそれぞれ異なるタイミングで沈殿し、蒸発池の底に層を形成する。海水や多くのかん水の場合、沈殿に順序は炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム・マグネシウム、塩化マグネシウムの順である。

天日蒸発

 蒸発率がマイナス(つまり、蒸発する水の量が降水量を75 cm以上上回る海洋国では、海水からの天日蒸発によって塩が生産される。使用されるプロセスは国によって原理的には似ているが、設備の詳細は、アメリカの高度なものから発展途上国の非常に原始的なものまでさまざまである。

 通常、海水を木製または木とコンクリートを組み合わせた一連の水門から、堤防で区切られた一連の浅い池に流し込むことで、予備濃縮が行なわれる。これらの池で溶液は比重約1.22まで濃縮される。これは、一定量の塩水が一定量の純水の1.22倍の密度になることを意味する。この段階で、砂、粘土、そして炭酸カルシウム、白亜、硫酸カルシウムといった溶解度の低い塩分などの浮遊不純物が除去される。死海の水は、染料を添加することで太陽熱による蒸発を促進する。染料を加えることで、薄い塩水層で太陽光からより多くの熱を吸収できるため、浅い池でも利用でき、塩水の地中への浸透を抑えることができる。

 濃縮された塩水は、通常4つある一連の結晶池に送られ、蒸発が進むにつれて塩が沈殿する。最初の結晶池では、塩水は比重1.23まで濃縮されるが、一部は硫酸カルシウムの混入が残る。結晶化が進むにつれて、結晶池内の溶液の比重はゆっくりと増加し、2番目の結晶池では1.24に達する。3番目の結晶池では、溶液の比重は1.25に達し、そこに沈殿した塩には不純物として少量の硫酸マグネシウムが含まれる。最終的な溶液は「ニガリ」と呼ばれ、比重は1.251.26で、一部の国(アメリカおよびイスラエル)では、カリウム、臭素、エプソム塩(硫酸マグネシウム)、塩化マグネシウムの製造に使用されている。

 発展途上国では、各結晶池内の塩は列状に掻き集められ、数日間水切りされる。その後、塩は山積みされ、再び水切りされ、結晶池から引き上げられ、最終的に乾燥される。生産国では、さらなる加工または塩は機械で収穫され、飽和塩水で洗浄される。その後、脱水され、真水で洗浄された後、さらなる加工または直接販売のために貯蔵される。