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ナトリウムの化学的性質

Chemical Properties in Sodium

By The Editors of Encyclopedia Britannica

https://www.britannica.com/     2025.03.29

 

空気、水、水素との反応

 ナトリウムは通常、空気と非常に反応性が高く、その反応性は相対湿度、つまり空気中に水蒸気量に依存する。固体ナトリウムの酸素による腐食は、ナトリウム中に微量の不純物が存在することでも促進される。通常の空気中では、金属ナトリウムが反応して水酸化ナトリウムの膜を形成し、この膜が空気中の二酸化炭素を急速に吸収して重炭酸ナトリウムを生成する。ナトリウムは窒素と反応しないため、通常は窒素雰囲気(または灯油やナフサなどの不活性液体)に浸漬して保管される。液体の状態では、空気中では固体の状態よりも反応性が大幅に高く、約125 ℃で発火する可能性がある。比較的乾燥した空気中では、ナトリウムは静に燃焼し、濃い白色の腐食性煙を放出する。この煙は窒息や咳を引き起こす可能性がある。ナトリウムの燃焼温度は急速に800 ℃以上に上昇し、このような状況下では消火は極めて困難である。ナトリウムは二酸化炭素(通常の消火器の噴射剤として広く使用されている)と反応するため、特殊な乾燥粉末消火器が必要である。

 一酸化ナトリウム(Na2O)は通常、乾燥空気中でナトリウムを酸化することで生成される。超酸化物(NaO2)は、高圧酸素を含むオートクレーブ(加熱圧力容器)内で金属ナトリウムを300 ℃まで加熱することで生成できる。超酸化物を生成する問題を浮き彫りにする一つの方法は、過酸化ナトリウム(Na2O2)を酸化処理し、大きな表面積を持つようにすることである。

 一酸化ナトリウムに高度に汚染されたナトリウムは、溶融ナトリウム中の一酸化炭素の溶解度が低いため、ろ過によって容易に精製できる。この低い溶解度は、大型液体金属反応器システムにおけるナトリウムの連続精製プロセスにおいて、かなりの程度利用されている。酸化物を除去する2つ目の方法はコールド・トラッピングと呼ばれ、溶融ナトリウムを冷却された物質の充填層に通すことで酸化物を沈殿させる。ろ過とコールド・トラッピングは、大量の炭酸塩、水酸化物、および水素化物を除去するのにも効果的である。

 表面積の大きい塩化ナトリウムと水との反応は爆発性がある。ナトリウムと水の反応は非常に発熱的である(つまり、熱が発生する)

  Na H2O → NaOH + 1/2H2 + 33.67 Kcal/mol 25 ℃で

 しかしながら、実験ではナトリウムと水を高性能爆薬特有の衝撃波を発生させるほど速く混合することはできないことが示されている。この反応の爆発性危険性は、主に発生する水素ガスに起因する。

 純粋なナトリウムは、約100 ℃で水素を顕著に吸収し始め、吸収速度は温度とともに増加する。純粋な水酸化ナトリウムは、ナトリウムを高流量の水素ガスにさらすことで、350 ℃以上の温度を生成できる。高温では、水酸化ナトリウムから水素と溶融ナトリウムを生成する解離速度は、水素化リチウムよりもかなり速くなるが、水素化カリウムよりもわずかに遅くなる。

 

非金属との反応

 一般的にアルカリ金属はハロゲンガスと反応し、ハロゲンの原子量が増加するにつれて反応性が低下する。ナトリウムの例外ではない。特定の反応条件下では、ナトリウムとハロゲン蒸気が反応して光(化学発光)を発生する。塩酸などのハロゲン酸はナトリウムと激しく反応し、ハロゲン化ナトリウムを生成する。反応は非常に発熱性で、フッ化水素酸および塩酸との反応では、それぞれ-71.8 kcalおよび-76.2 kcalの反応熱(エネルギー放出量)を発生する。ナトリウムは他の強鉱酸によって攻撃され、対応する塩を生成する。15 ℃で硝酸の蒸気と反応して硝酸ナトリウムを、酢酸および硫酸と反応して酢酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムを生成する。溶融硫黄とは激しく反応して多硫化物を生成するが、より制御された条件下では硫黄の有機溶液と反応する。液体セレンとテルルはどちらも固体ナトリウムと激しく反応し、セレン化物とテルル化物を生成する。

 ナトリウムは炭素との反応性が比較的低いものの、グラファイト層間にナトリウムが存在する層状の物質を合成することができる。625 ℃で一酸化炭素はナトリウムと反応し、炭化ナトリウムと炭酸ナトリウムを生成する。

 第4族(IVb)金属(チタン、ジルコニウム。ハフニウム)の酸化物を除き、遷移金属の酸化物はすべて元素ナトリウムによってそれぞれの金属に還元される。ナトリウムは多くの金属ハロゲン化物とも反応し、塩から金属を置換してハロゲン化ナトリウムを生成する。この反応は、チタンやタンタルを含むいくつかの遷移金属自体の製造にも利用されている。

 ナトリウムを始めとするアルカリ金属は液体アンモニアに溶解し、濃い青色の溶液となる。常温では、ナトリウムとアンモニアの間でゆっくりと反応が起こり、ナトリウムアミド、NaNH2、水素が生成される。これは、ナトリウムと水が反応してNaOHと水素が生成されるのと似ている。反応式は以下の通りである:

  Na NH2 → NaNH2 1/2H2

    Na H2O    NaOH 1/2H2

 アルカリ金属とアンモニア水が反応してアミドと水素を生成する反応は、多くの金属酸化物を添加することで触媒作用を発揮する。

 液体アンモニアはナトリウムの溶媒としてよく使用され、通常は加熱を必要とする多くの反応を常温で進行させる。例えば、超酸化ナトリウム(NaO2)は、-77 ℃のナトリウムアンモニア溶液に酸素を通すことで生成できる。また、アンモニアは、ヒ素、テルル、アンチモン、ビスマス、その他の低融点金属とナトリウムの反応における溶媒としても使用される。ナトリウムアンモニア溶液は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)の表面を黒く変色させ、他の材料との接着性を高めるために使用される。ナトリウムアンモニア溶液は高い還元力を持つため、バーチ還元と呼ばれる多くの有機反応に有用である。

 

有機反応

 ナトリウムの有機反応は、他のアルカリ金属の反応よりも広く研究されてきた。ナトリウムは無水アルコールと反応し、以下の式に従ってそれぞれのアルコラート(またはアルコキシド)を生成する。

  Na ROH RONa 1/2H2

ここで、Rはアルコールの有機基である(メタノールの場合はR=CH3、エタノールの場合はCH3CH2など)。この反応はメタノールで最も激しく、アルコールの分子量が増加するにつれて弱くなる。ナトリウムメトキシドは、ナトリウムと過剰のメタノールとの反応によって工業的に製造されている。有機酸はナトリウムと反応してナトリウム塩を生成する。

 ハロゲン化ナトリウムの生成自由エネルギーは大きく負であるため、多くの有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化が可能であり、エネルギー的にハロゲン化ナトリウムの生成が有利である。この原理に基づく、いわゆるウルツ反応は、有機合成において広く利用されている。

  2RCl 2Na R-R 2NaCl

この反応により、臭化ブタンとナトリウムからオクタンが生成する。有機ナトリウム化合物には、ナトリウム原子が炭素原子に直接結合しているものが多く、例えばメチルナトリウム(Na-CH3)が挙げられる。このような化合物は、次式のように水銀ジアルキルまたはジアリールにナトリウムを作用させることで生成できる。

  Hg(CH3)2 2Na 2NaCH3 Hg

ナトリウムは多くのハロゲン化炭化水素と激しく反応する。例えば、四塩化炭素とナトリウムの混合物に衝撃を与えると、激しい爆発が起こる。ナトリウムがかなり希釈されている場合でも(ナトリウムアマルガムのように)、四塩化炭素との反応は活発である。

 

金属との反応

 ナトリウムは周期表でその下位に位置するアルカリ金属(カリウム、ルビジウム、セシウム)と完全に混和する。ナトリウム-カリウム系では、共晶(つまり、その成分よりも低い融点を持つ合金)が形成され、その融点は-10 ℃で、商業的にはNaKとして知られている。その組成は約78%がカリウムで、伝熱流体や有機反応物として用いられる。ナトリウム-ルビジウム系とナトリウム-セシウム系の二元系で生成される共晶は、それぞれ-4.5 ℃と-30 ℃で融解する。ナトリウムは、カリウムおよびセシウムとともに三元合金NaKCsの微量成分であり、融点は-78 ℃である。この液体は、これまで単離された液体合金の中で最も融点が低いものである。

 ナトリウムはアルカリ土類金属とも合金を形成する。ベリリウムは約800 ℃でナトリウムに数原子%しか溶解しない。アルカリ土類金属のナトリウムへの溶解度は原子量が増加するにつれて増加し、その結果、カルシウムの溶解度は700 ℃で重量比10%になる。ナトリウム-ストロンチウム系では、かなり混和性がある。ナトリウムはバリウムと多くの化合物を形成し、系内にはいくつかの共晶が存在している。

 銀、金、白金、パラジウム、イリジウムなどの貴金属、および鉛、スズ、ビスマス、アンチモンなどの白色金属は、液体ナトリウムとかなりの程度合金になる。カドミウムと水銀もナトリウムと反応し、両方の二元系に多数の化合物が存在する。7種類のナトリウム-水銀化合物、つまりアマルガムが存在し、Hg2Naの融点が最も高くなる(354 )。ナトリウムアマルガムは主に、純粋な元素ナトリウムでは反応性が激しく制御が難しい状況で反応を実行するために使用される。アルカリ金属への遷移金属の溶解度は一般に非常に低く、500 ℃を超える温度でも110 ppmの範囲であることがよくある。

 

核特性

 天然ナトリウムは質量数23の安定同位体である。放射性人工同位体のうち、ナトリウム22(半減期は2.6年で、ナトリウム同位体の中で)最も長い半減期)は、天然ナトリウムの放射性トレーサーとして用いられる。ナトリウム24(半減期は15時間)は半減期が短いため、用途が限られており、原子炉内での照射によって生成される。この反応のため、ナトリウム冷却原子炉には放射性ナトリウムが環境と接触しないように、2つ目の熱伝達ループが必要である。他の同位体の半減期は1分以下である。

 

生物学的特性

 ナトリウム塩、特に塩化ナトリウムは生物材料のほぼあらゆる場所に存在する。ナトリウムはカリウムと同様に生命維持に不可欠な元素であり、この2つの元素は細胞構造内で一定のバランスを維持している。細胞内と細胞外の電解質バランスは、カリウム・イオンの細胞内への、そしてナトリウム・イオンの細胞外への「能動輸送」によって維持されている。ナトリウム塩の生物学的作用のほとんどは陽イオン(Na+)によるものであり、対応する陰イオンは支配的な役割を果たしていないようである。

 土壌中の塩分は、植物の生育にしばしば悪影響を及ぼす。粘土複合体中のカルシウム・イオンやその他のイオンがナトリウム・イオンに置き換わり、粘土は粘着性のある塊へと変化する。その結果、水の浸透が劇的に減少し、土壌の塩基度が著しく上昇する。

 魚類の塩分変化に対する耐性は、しばしば極めて顕著である。多くの海洋細菌や珪藻類は25%もの塩分濃度に耐えることができる。哺乳類の最小ナトリウム必要量は食事の0.05%と見られ、これは通常の成人の場合、1日当たり12 gの塩の必要量に相当し、体組織の平均ナトリウム含有量は0.24%となる。組織によってナトリウム含有量には大きなバラツキがあり、全血には約0.62%の塩化ナトリウムが含くまれているのに対し、皮膚のナトリウム含有量は0.1%未満である。塩分含有量と体の水分バランスには関係があり、塩摂取量が少ないと水分が失われる。かなりの量のナトリウムが発汗により皮膚から失われ、またかなりの量が尿中に排泄される。