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食塩は抗腫瘍細胞を活性化する

Common Salt Activates Anti-Tumor Cells

https://www.bionity.com/   2024.08.30

 

塩化ナトリウムがガンに対する特定の免疫細胞の活性を高める可能性があることを示す証拠が発見された。

 

 塩はガンに対する免疫防御力を高めるのに役立つ可能性がある。これは、イエナのフリードリッヒ・シラー大学で感染免疫学の教授を務めるChristina Zielinski博士が率いるチームの研究結果によって示唆されている。同グループはその研究結果をNature Immunology誌に発表した。

 塩化ナトリウムは、一般的に「食卓塩」として知られ、歴史上貴重な商品であった。今

日、食卓塩は安価で、台所に欠かせないものである。そのため、食卓塩がずっと以前から

我々の日常会話に浸透してきたのも不思議ではない。しかし、すべての表現が常に良い意

味を持つわけではない。しかし、「傷口に塩を塗る」というフレーズは、間もなく、つまり

ガン治療において、良い意味に解釈される可能性がある。

 かつては、ガンは死を意味する場合が多かったが、ここ数十年で研究が著しく進歩し、

多くの種類のガンにおいて、生存期間が大幅に延び、生活の質も向上した。最近では、特

に養子T細胞療法が効果的な治療ツールとして発展した。この療法では、体内の白血球の

一部であるT細胞を改変し、腫瘍細胞を特異的に認識して攻撃できるようにする。この方

法の有効性は、腫瘍の免疫抑制環境では通常抑制されるT細胞の代謝活動に左右される。

そのため、この抑制を克服する因子を特定することが重要である。

 イエナのライプニッツ天然物研究・感染生物学研究所-ハンス・クネル研究所のChristina Zielinskiが率いる研究チームは、これらの要因の1つを発見した。塩化ナトリウムの成分であるナトリウム・イオンは、抗腫瘍T細胞の効率を高める。研究者達は、乳ガンの腫瘍は健康な組織よりもナトリウム濃度が高く、周囲のナトリウム濃度が高い場合、T細胞が腫瘍に対して特に強力に作用することを実証することができた。その結果、これらの患者の生存期間がさらに長くなる。

 「ナトリウムがCD8+T細胞の免疫反応を高めることを証明できた。」と、この研究の筆頭著者であるChang-Feng Chuは言う。CD8+T細胞は、体内の腫瘍細胞やウイルスに感染した細胞を認識して殺すことができる免疫細胞である。「これまでの研究で、ナトリウムが自己免疫疾患やアレルギーに関与する他の種類T細胞を制御することは既に示されている。我々は、ナトリウムがヒトCD8+T細胞の活動に具体的にどのような影響を与えるかを調べたかった。」と、もう1人の筆頭著者であるShan Sunは説明する。

 そこで研究者達は、さまざまな技術を使用って、ナトリウム・イオンが遺伝子調節とCD8+T細胞の代謝プロセスに与える影響を調査した。「ヒトT細胞を塩で前処理し、腫瘍とともに培養した。また、T細胞を使ったマウス実験も行なった。」と、Chuは重要な実験について説明している。

 

免疫細胞がより健康になる

 研究者達は、塩が糖とアミノ酸の取り込みを増やし、細胞内のエネルギー生産を増加させることでCD8+T細胞の代謝健康度を向上させることを発見した。その結果、培養細胞とマウスの実験で示されているように、免疫細胞は腫瘍細胞をよりよく排除できるようになった。「塩で前処理したT細胞をマウスに注入した後、膵臓腫瘍が縮小した。」とChuは言う。

 しかし、ナトリウムは細胞内でどのように作用するか?「ナトリウム・イオンは、T細胞の細胞膜にあるナトリウム-カリウム・ポンプの働きを強める。これにより膜電位が変化し、T細胞受容体の活性化が促進される。」とSunは報告している。「このシグナル増幅により、免疫細胞は腫瘍細胞をより効率的に殺すことができる。」同僚のChuは次のように付け加えている。「塩はT細胞が急速に消耗するのを防ぐ。消耗したT細胞は徐々にガン細胞と戦う能力を失うため、これは重要である。」

 研究チームは、将来、T細胞の「キラー」機能の正の調節剤として塩化ナトリウムを使用することを推奨している。もちろん、これは、患者が食事でより多くの塩を摂取するという意味ではない。むしろ、免疫細胞が体外で高濃度の塩にさらされ、患者に投与された後に腫瘍細胞に対して非常に活発になると考えられる。したがって、通常の塩はガンと闘う養子移植されたT細胞をサポートし、感染細胞に対する防御を必要とする感染症にも役立つ可能性がある。したがって、「傷口に塩を塗る」という表現は、必ずしも否定的な意味合いを持ち続けるわけではない。