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ナトリウム・イオン電池: 正極材料の新しい貯蔵機構

Sodium-Ion Batteries: New Storage Mechanism for Cathode Materials

https://batteriesnews.com/    2025.08.28

 

 ナトリウム・イオン電池とリチウム・イオン電池は、化学的に異なる2つの電極間でイオンが貯蔵・交換されるインターカレーションと呼ばれるプロセスによって動作する。一方、イオンと溶媒分子が同時に貯蔵される共インターカレーションは、急速な電池劣化を引き起こす傾向があるため、従来は望ましくないと考えられてきた。この従来の見解に反して、Philipp Adelhelmが率いる国際研究チームは、ナトリウム・イオン電池の正極材料において、共インターカレーションが可逆的かつ高速なプロセスとなり得ることを実証した。正極材料にイオンと溶媒を同時に貯蔵するというこのアプローチは、高効率で急速充電可能な電池設計のための新たな可能性を提供する。この研究成果は、Nature Materials誌に掲載されている。

 

 電池性能は多くの要因に左右される。特に、イオンが電極材料にどのように蓄えられ、再び放出されるかが重要である。電荷キャリア(イオン)が比較的大きく、電極に侵入すると望ましくない体積変化を引き起こす可能性があるためである。「ブリージング」と呼ばれるこの現象は、電池の寿命を縮める。特に、ナトリウム・イオンが有機電解液の分子と共に侵入すると、体積変化が顕著になる。このいわゆる「共インターカレーション」は、一般的に電池寿命に悪影響を与えると考えられてきた。しかし、Philipp Adelhelmが率いる国際研究チームは、イオンと溶媒分子の共インターカレーションを可能にし、充放電プロセスを高速化する正極材料を研究した。

 

アノードにおける共インターカレーション

 以前の研究で、研究チームはグラファイト負極における共インターカレーションを調査し、グライム分子と結合したナトリウムが、多くのサイクルを経て電解質中に迅速かつ可逆的に出入りできることを実証した。しかしながら、正極材料においても同じ概念を実証することは依然として困難であった。この課題に取り組むため、研究チームは様々な層状遷移金属酸化物を調査し、正極材料における溶媒共インターカレーション・プロセスを特定した。

 Philipp Adelhelm教授は次のように述べている:

 共インターカレーションのプロセスは、非常に効率的で急速充電可能な電池の開発に利用できる可能性がある。そのため、我々はこのテーマをより詳細に調査したいと考えた。

 

正極における共インターカレーション:異なるプロセス

 本研究は、過去3年間の詳細な調査結果を統合している:Yanan Sun博士は、正極材料の体積変化測定、DESYPETRAⅢにおけるシンクロトロン放射光を用いた構造解析、そして様々な電極と溶媒の組み合わせにおける電気化学的特性の調査を行なった。Gustav Åvall博士との共同研究による理論的な裏付けにより、将来の共インターカレーション反応の予測に役立つ重要なパラメータを特定することができた。

 

利点:超高速反応速度

 Yanan Sunは次のように説明している:

 正極材料における共インターカレーション過程は、グラファイト負極におけるものとは大きく異なる。

 グラファイト負極における共インターカレーション反応は、一般的に低容量の電極をもたらすが、今回調査した正極材料においては、共インターカレーションによる容量損失は非常に小さいものである。「とりわけ、特定の正極材料には大きな利点がある。反応速度は超高速で、まるでスーパー・キャパシタのようである!」とSunは強調している。

 

新材料のための広大な化学的ランドスケープ

 Adelhelmは次のように述べている:

 共インターカレーション反応の真の魅力は、多様な用途に向けた新しい層状材料を設計するための広大な化学的ランドスケープを提供できることにある。

 彼はさらにこう付け加える:

 共インターカレーションの概念を探求することは、従来の電池に関する知識に反するため、極めてリスクの高かいものであった。

 「そのため、ERCコンソリデーター・グラントを通じて欧州研究会議から資金援助を受けたことに、大変感謝している。この研究成果は、多くの才能のある人々の共同研究の成果であり、Helmholtz-Zentrum Berlinとフンボルト大学が資金提供したオペランド電池分析に関する共同研究グループが提供してくれた機会なしには実現できなかったであろう。」

 「最近、発表されたHZBHUBAMによるベルリン・バッテリー・ラボは、ベルリンにおける共同研究プロジェクトの機会をさらに増やしてくれるであろう。」