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次世代電池技術:電池のあらゆる側面を再考

より効率的な生産からまったく新しい化学反応までさまざまなことが起こっている

Next-Gen Battery Tech: Reimaging Every Aspect of Batteries

By Kat Friedrich

https://arstechnica.com/ より  2024.03.15

 

 電池業界が、再生可能エネルギーが普及する未来への移行に備えるために、新しい技術を生み出す競争が始まっている。この競争の激しい環境では、どの企業や解決策が勝利するかは分からない。

 企業や大學は、世界中で電池製造のコストを削減し、環境への影響を減らすために、新しい製造工程の開発を急いでいる。彼等は、電池の負と正に帯電する成分であるカソードとアノードの両方を製造するための新しいアプローチの開発に取り組んでおり、さらには電荷を保持するために異なるイオンを使用している。開発中のすべての技術を見ることはできないが、人々が解決しようとしている問題の概要を説明するために、いくつかの技術を見ることはできる

 

よりクリーンな製造

 カリフォルニアに拠点を置く企業Sylvatexは、カソード活性材料を製造するための水を使わない効率的な工程を開発した。「この工程革新により、カソード活性材料の総コストが25%削減され、エネルギー使用量が80%削減され、水の使用と硫酸ナトリウムの廃棄物がなくなる。」とSylvatexCEO兼創設者であるVirginia Klausmeierは語った。

 Klausmeierによると、Sylvatexの目標は、電池製造工程の二酸化炭素排出量に影響を及ぼすことである。同氏は、市場が急速に拡大するにつれ、他社は非効率的な工程を拡大してきたと主張した。「これらの工場は、年間2億ガロンの水を使用している。カソード材料は、電池パックのコストの5070%を占めている。」

 電池部品メーカーNatrionの共同創業者兼CEOAlex Kosyakovによると、リチウム・イオン・カソードと電池を製造するための通常の工程には多くのステップがある。メーカーはまず、コバルト、マンガン、アルミニウム、ニッケルなどの採掘された金属の初期濃度が低い鉱石を取り出し、回転するブレードやセラミック・ボールの入った巨大な容器でそれらを非常に小さな破片に砕く。

 企業は、大量の水を含む硫酸溶液で鉱石を処理する。このステップの後、硫酸塩が抽出される。この処理により、大気中に二酸化硫黄が放出され、酸性雨の原因となり、職場の安全上の問題を引き起こす。

 次に、製造業者は硫酸塩とリチウム塩を混ぜて組み合わせ、粉末に粉砕する。粉末を巨大な炉で高温に加熱して不純物を取り除き、再度加熱してリチウムを金属と酸素と融合させる。

 その後、カソードを作るために、通常は粉末を再度粉砕する。次に、得られた粉末を溶剤と結合剤をと混合してインクまたはスラリーを作る。コーティングされたホイルをサイズに合わせて切断し、他の電池材料と重ね、得られた層をローリングプレスでプレスし、スプールまたはコイルに巻き、電池缶に入れる。

 「我々が行なったのは、水を使わない「次世代」工程と呼んでいる工程の開発である。」とKlausmeierは語った。「硫酸分子を使わずに原料の汎用性や柔軟性を利用するので、廃棄物は一切なく、リサイクル材料         や採掘や精製の必要が少ない採掘・精錬された材料など、より幅広い入力材料を使用することができる。」

 Klausmeierによると、同社の原料には水酸化物や、金属酸化物が使われている。この工程では、これらの材料、彼女が「界面活性剤ではない」と表現する独自の添加剤と混ぜ合わせる。その後、焼成工程が続く。(焼成では、酸素が限られた環境で化合物の温度を上げるが、溶けるほど加熱しない。)

 工程から硫黄を除去すると、カソード活性材料を作成する際の製造上の危険性が軽減される。

 

ナトリウム・イオン電池の開発

 Northvoltは、電気自動車市場へのリチウム・イオン電池の供給に成功した後、秘密裏にナトリウム・イオン電池技術に取り組んでおり、今や技術について発表する準備が整ったと、同社のナトリウム・イオン・プログラムのシニア・マネージャーであるAndreas Haasは語る。「2年後、当社のナトリウム・イオン技術は、我々の知る限り、市場で最も優れた性能を発揮するところまで到達した。1 kg当たり160ワット時を目指しており、これは既存のリン酸鉄リチウム電池と同等である。」

 Haasによると、ナトリウム・イオン電池はエネルギー貯蔵用途向けに設計されており、持続可能性、安定性、コスト面でのメリットがある。「当社が事業を展開している定置型エネルギー貯蔵では、エネルギー密度は低いが安価な代替品への需要が高まっている。」つまり、リチウム・イオン電池の一種であるリン酸鉄リチウム電池よりも安価な電池のことである。

 「ここ数年、我々はリン酸鉄リチウム電池のニーズに目を向けてきた。」とHaasは言う。「リン酸鉄リチウム電池の正極材料の99%は中国製なので、他の場所でそれを現地調達する競争力のある方法は実際には存在しない。我々は実際にリン酸鉄リチウム電池を凌駕する技術を見付けようとしたが、我々に取ってはそこにナトリウム・イオンが適している。」

 Northvoltはナトリウム・イオン電池のカソードにプルシアン・ホワイトを使用しているとHaasは述べた。プルシアン・ホワイトは鉄をベースとした顔料で、1704年にベルチンの画家によって初めて合成された。2012年、リチウム・イオン電池でノーベル化学賞を受賞したJohn Goodenoughは、その構造にナトリウム・イオンを組み込むことができるため、有望なカソード材料であることを発見した。プルシアン・ホワイトは炭素、窒素、鉄のみで構成されているため、比較的安価である。陽極材料は貝殻や木材などのバイオ廃棄物から作られた硬質炭素である。新しい製造工程により、製品の二酸化炭素排出量が削減され、使用中の火災の危険性も軽減される。

 地理的に限られたリチウムとは対照的に、塩水から得られるナトリウムは世界中に多くの場所で入手可能なであるとHaasは言う。「それに加えて、ニッケル、コバルト、銅、グラファイトなど、通常は非常に高価で価格もかなり変動する他の重要な原材料も避けている。したがって、セルは価格の上昇につながるようなものは実際には何も入っていない。」

 

代替材料

 商業開発に加えて、ナトリウム・イオン技術は学術界でも研究されているカリフォルニア大学ロサンゼルス校は、ナトリウム・イオン研究を進めるため、今年、再生可能エネルギーのためのひずみ最適化センターという新しいセンターを開設すると発表している。このセンターは、充電式電池の進歩のための長さスケール全体にわたる合成制御(SCALAR)という以前のセンターの代わるものである。両センターはアメリカエネルギー省の資金提供を受けており、カリフォルニアに地域の学術パートナーがいる。

 「この新しいセンターは、ナトリウムがかなり大きいという考えに焦点を当てている。結晶構造に出し入れするのははるかに困難である。」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の化学および生化学の著名な教授であるSarah Tolbertは述べている。「その結果、ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池よりも寿命がはるかに短くなる。この新しいセンターがやろうとしているのは、低コストのナトリウム・システムからリチウム・イオン電池に近い性能が得られるように、ナトリウムを何度も可逆的に出し入れできる結晶構造とアノードとカソードを考案することである。」

 Tolbertによると、フッ化物イオンを電荷キャリアとしてリチウム・イオン電池に挿入することは、SCALARの成果の1つであった。「2倍のエネルギーを蓄えることができる。」しかし、フッ化物は化学的に非常に反応性が高い。「フッ化物イオン電池が商業化されるかどうかは分からないが、可能性はある。」

 リチウムまたはナトリウムは金属合金に入れることができるとTolbertは言う。これにより、材料全体に延性があり、非結晶になる。割れることなく膨張することができる。通常、電池の部品は脆く、破損すると電気回路が損傷する可能性がある。

 Tolbertのチームは、リチウム・イオン電池の充電を高速化する実験も行なっている。同氏はこれを「電池のスイス・チーズ」と表現している。多孔質の電極材料を作製し、液体電解質材料が細孔に浸透できるようにして、リチウム・イオンが短い距離を移動するだけになるようにした。これにより、自動車用電池の充電が数時間ではなく10分未満で完了する。

 SCALARの研究者達は、電池にも導電性ポリマーを使用しているとTolbertは言う。「我々は、物事のサイクルをはるかに速く出来ることを発見した。」これにより、充電と放電のプロセスが高速化される。

 

超薄型アノードの作成

 Li-Metal Corp.CEOSrini Godavarthyによると、電池用のリチウム金属アノードはもっと薄くできる可能性がある。同社は220ミクロンの厚さのアノードの開発に取り組んでいる。(一般的なリチウム・イオン電池では、リチウムはアノードではなくカソードにある。)

 リチウム金属の製造工程も大幅に簡素化できる。通常は塩化リチウムの電気分解工程で作られるとGodavarthyは言う。同社の製造工程は多くの工程を省略し、炭酸リチウムから電池グレードのリチウム金属に直接加工している。

 「従来の工程では、炭酸リチウムから塩化物、塩化物から工業グレードのリチウム金属を蒸留して電池グレードのリチウム金属にする。」とGodavarthyは言う。

 Godavarthyの顧客は、より高いエネルギー密度とより速い充電を求めている、と同氏は語った。また、比較的燃えにくい電池も求めている。この新しいプロセスにより、電池のエネルギー密度は重量ベースで2倍、体積ベースで3倍に増加する。

 Godavarthyによると、今日のアノードには銅の集電装置が使われている。リチウムを蓄えることができるグラファイトが銅の上に堆積される。顧客は銅の上にリチウムを使って材料を減らそうとしていたが、銅は非常に高価であった。Li-Metal Corp.は基板として金属化ポリマーを使用した。銅で金属化されているが、金属の使用量ははるかに少なく、基板のコストは100分の1に削減された。この代替により、電池の重量も減り、エネルギー密度も増加した。

 Godavarthyによると、Li-Metal社は金属生産に溶融電解法を採用しており、炭酸リチウム塩を溶かして使用する。電解法では、残念ながら二酸化炭素を排出するプロセスを経て純粋なリチウム金属に変化する。得られた金属は、さまざまな形状の鋳造インゴットに成形される。その一部はアノード製造機で使用でき、他のものは小さなペレットや長い円筒に鋳造できる。リチウムは加熱され、その蒸気が物理蒸着法と呼ばれるプロセスを使用してポリマー基板上に堆積され、非常に薄いフィルムが形成される。

 「リチウムのコストを考えると、業界はますます薄いリチウム・アノードへと向かっており、だからこそ当社のPVD技術は業界にとってますます重要になっている。」とGodavarthyは語った。

 同社は現在、プロセスの規模を拡大しており、エンジニアリング会社が25トンのセルの設計を完了している。これは、同社が現在パイロットを使用している2.5トンのセルよりもはるかに大きいとGodavarthyは述べた。リチウム金属製造機械は、おそらくこの10年後半に規模拡大されるであろう。

 電気自動車やエネルギー貯蔵に使用される電池技術のパイオニアになるために、さまざまな企業が競い合っている。ここにいる企業や研究者の誰かが、流行する技術を開発しているという保証はない。しかし、この分野に多くのプレーヤーがいるということは、市場が舞台裏で、いかにダイナミックで競争が激しいかを示している。

 Kat Friedrichは元機械エンジニアで、ウィスコンシン大学マディソン校で応用数学、工学、物理学を専攻していた。彼女は科学と環境ジャーナリズムを専門とする大学院の学位を取得しており、7つのニュース出版物を編集しており、そのうち2つは共同設立者である。彼女はエネルギー雑誌Solar Todayの編集長である。