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低コストのナトリウム・イオン電池がついに注目を集める

Lower-Cost Sodium-Ion Batteries Are Finally Having Their Moment

By Dan Gearino

https://arstechnica.com/ より  2024.12.07

 

 電気自動車やエネルギー貯蔵用のナトリウム・イオン電池は主流になりつつある。こうした電池の普及は、コストの削減、火災リスクの低減、リチウム、コバルト、ニッケルの必要性の低減につながる可能性がある。

 1118日、世界最大の電池メーカーであるCATLは、2027年に量産を開始する第二世代のナトリウム・イオン電池を発表した。中国に拠点を置く同社は、この新しい電池のエネルギー密度は1 kg当たり200ワット時で、2021年に発売された前世代の1 kg当たり160ワット時よりも高いと述べた。電気自動車のエネルギー密度が高いと言うことは、走行距離が長くなることを意味する。

 1121日、アメリカの国立研究所7ヶ所からなるコンソーシアムが、ナトリウム・イオン電池の開発を加速するための協力を促進するために5000万ドルを費やすという新たな取り組みを発表した。このパートナーシップはシカゴ地域のアルゴンヌ国立研究所が主導している。

 この2つの発表は、政府、研究者、企業が電気自転車やエネルギー貯蔵の主流技術であるリチウム・イオン電池の代替品を模索する中でのより大きな変化の一部である。

 今のところアメリカで販売されている乗用車やトラックには、ナトリウム・イオン電池を使用しているものはない。一部のナトリウム・イオン・モデルは、中国や中国から車両を輸入している国で販売されている。

 「我々がこれを追求している理由は非常に単純である。」とアルゴンヌ国立研究所の電池科学者で、新しい共同研究の責任者であるVenkat Srinivasanは語った。「リチウム・イオン電池の需要が非常に高いため、サプライチェーンに制約があるからである。

 「コバルトの問題がある。ニッケルの問題もある。」とリチウム・イオン電池でよく使用される2つの金属を挙げて語った。

 コバルト、ニッケル、リチウムには採掘による環境破壊など、さまざまな懸念がある。また、供給の多くは中国などのアメリカの地政学的ライバルによって管理されており、採掘の一部は労働基準が不十分な国で行なわれている。対照的にナトリウム・イオン電池は食塩や海水に含まれる元素、ナトリウムに依存している。

 その他の利点の中でも、ナトリウム・イオン電池は極寒でもリチウム・イオン電池より性能が良いことが挙げられる。CATLは同社の新型電池は華氏マイナス40度という低温でも機能すると発表している。また、ナトリウム・イオン電池は火災のリスクがはるかに低い。リチウム・イオン電池が損傷を受けると、「熱暴走」につながり、危険で有毒な火災を引き起こす可能性がある。

 しかし、ナトリウム・イオン電池には欠点もある。大きな欠点は、リチウム・イオン電池に比べてエネルギー密度が低いことである。その結果、ナトリウム・イオン電池で動く電気自動車は、同じサイズのリチウム・イオン電池よりも1回の充電あたりの走行距離が短くなる。

 「それは自然が与えてくれたものである。」とSrinivasanは言う。「物理学の観点から言えば、ナトリウム電池はリチウム電池よりも本質的にエネルギー密度が低いものである。」

 一般的なナトリウム・イオン電池のエネルギー密度はセルレベルで1 kg当たり約150ワット時であると同氏は言う。リチウム・イオン電池は1 kg当たり約180ワット時から約300ワット時の範囲である。

 私はSrinivasanに、CATL1 kg当たり200ワット時のナトリウム・イオン電池を主張していることについて銅思うか尋ねた。「我々は企業からのユニット・リリースに懐疑的になる傾向がある。」と彼は述べた。彼は、自分のコメントはすべての電池企業に当てはまると明言した。

 国立研究所の取り組みは5年間のタイムラインで、現在のリン酸鉄リチウム電池ベースのリチウム・イオン電池と同等かそれ以上のエネルギー密度を持つナトリウム・イオン電池の開発を目標としている。研究者は、設計と材料のさまざまな効率性を見付けることでこれを実現する。

 このプロジェクトは、研究所が他の種類の電池の開発と改良を進めている作業と並行して行なわれている。

 今日の市場はリチウム・イオン電池が主流である。Benchmark Mineral Intelligenceによると、今年の世界のリチウム・イオン電池の生産量は約1,500ギガワット時、ナトリウム・イオン電池の生産量は11ギガワット時で、1%未満であった。

 しかし、ベンチマークによると、ナトリウム・イオン電池の生産量は増加しており、2030年までに現在の約13倍の140ギガワット時に達すると予測されている。リチウム・イオンの生産量も2030年までにほぼ3倍になると予測されている。

 「ナトリウム・イオン電池の市場を牽引する主な要因は、リチウム・イオン電池とコスト競争力を持つ可能性があることである。」と、ベンチマークのアナリストCatherine Peakeは述べた。

 しかし、リチウム価格が異常に低いため、コスト競争力は現時点で課題となっている。2022年以降、リチウムの世界供給は需要よりも急速に増加しており、価格低下につながっている。

 研究者やアナリストは、長期的にはナトリウム・イオン電池がリチウム・イオン電池よりもコスト面で有利になると予想している。McKinsey and Co.は昨年、ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池よりも20%コストが下がる可能性があると述べた。

 電池会社によるナトリウム・イオン・システム構築への取り組みのほとんどは中国で行なわれているが、一部は他の市場でも行なわれている。カリフォルニア州に拠点を置くナトロン・エナジーがノースカロライナ州ロッキーマウントに初の大規模工場を開設する計画もその1つである。ナトロン社は8月に14億ドル規模のプロジェクトを発表したが、工場が何時稼動するかのタイムラインは明らかにしていない。一方、研究者や企業は他の電池技術の開発を続けている。

 私はSrinivasanに、ナトリウム・イオン電池がこの大きな絵にどのように当てはまるのか尋ねた。同氏は、ナトリウム・イオンは今後数年間でリチウム・イオン電池の代替として市場シェアを獲得する可能性が高いと述べた。

 10年の終わり頃には、固体電池が利用可能となり、エネルギー密度を高め、走行距離を延ばすことができるようになる。固体電池は液体やゲルではなく固体電解質を使用する。電解質は、充電と放電中にイオンが左右に移動する物質である。

 Srinivasanは、これらの技術は市場で共存できると述べた。同氏は、固体電池は当初は高級モデルで最も一般的になり、出来るだけ長い走行距離を求める人々に人気が出ると考えている。

 同氏は、都市や郊外に住み、走行距離を余り重視しない人々向けの低価格電気自動車では、ナトリウム・イオン電池がより一般的になるであろうと予想している。

 「ナトリウム・イオンはマイナー・プレーヤーにはならないであろう。」と同氏は語る。「実際、急成長分野になるであろう。」