戻る

リチウム代替競争:ナトリウムは電池の未来か?

The Race to Replace Lithium: Is Sodium the Future of Batteries?

By Stanford University

https://scitechdaily.com/     2025.01.18

 

スタンフォード大学が主導する新しい研究によると、ナトリウム電池はリチウム電池のより安価で耐久性に優れた代替品として有望であるが、市場での競争力を獲得するには、大きな技術的進歩と支援的な市場条件が必要になる。

 

 多数の電池エンジニアとその支援者は年間500億ドルの規模で成長を続けるリチウム・イオン市場の一部を獲得したいと願って、支配的なリチウム・イオン技術よりも安価な電池の開発を何年も模索してきた。

 研究者、スタートアップ企業、ベンチャー・キャピタリストの間で最近注目されている候補であるナトリウム・イオン電池は、COVID-19による鉱物サプライチェーンの課題でリチウム価格が急騰したことを受けて、大きな注目を集めている。しかし、Nature Energy誌に掲載された新しい研究によると、ナトリウム・イオン電池が低コストの候補を実現するには数年かかる可能性があり、一連の技術進歩と好ましい市場条件が必要になると言う。

 ナトリウム・イオン電池は、リチウム・イオン電池に比べてコストが低く、サプライチェーンの回復力が高いとよく考えられている。大きな可能性を秘めているにもかかわらず、ナトリウム・イオン電池は依然として苦戦を強いられている。1ポンド当たりのエネルギー貯蔵量は、リチウム・イオン電池容量も低い傾向にある。そのため、材料価格が下がる可能性は別として、貯蔵エネルギー単位当りのコストはナトリウム・イオン電池の方が高いままである。このため、研究で画期的な成果が最初に得られない限り商業的な普及は制限される可能性が高いであろう。

 この研究では、進歩の最も豊かな分野が強調されている。これは、スタンフォード大学ドアー・サステナビリティ・スクールのプレコート・エネルギー研究所とSLAC-スタンフォード電池センターの新しいパートナーシップによる最初の研究である。新しいプログラムであるSTEERは、新興エネルギー技術の技術的および経済的可能性を評価し、エネルギー転換に向けて「何を構築し、どこで革新し、どのように投資するか」をアドバイスしている。新しい研究では、ナトリウム・イオン電池の競争力に関するロードマップの堅牢性をテストするために、6,000を超えるシナリオを評価した。

 

ナトリウム・イオンの市場実現可能性の評価

 「2022年に初めてリチウム・イオン電池の価格が上昇し、代替品が必要になる可能性があるという警告が出された。ナトリウム・イオンはおそらくリチウム・イオンの最も魅力的な短期的挑戦者であり、多くの電池企業がナトリウム・イオン製造の大規模な増強計画を発表し、現行の電池よりも低価格化への道筋を約束している。」と、この研究の主執筆者であり、アメリカエネルギー省内の3つのオフィスの支援を受けて202310月に開始されたSTEERの創設者兼チームリーダーでもあるAdrian Yaoは述べている。

 「特にリチウム・イオンの価格が下がり続けていることを考えると、ナトリウム・イオン電池がリチウム・イオン電池の価格を下回るかどうか、また何時、どのように下回るかは、ほとんど推測の域を出ないことは分かっていた。」と現在は大規模な商業規模で電池を生産しているリチウム・イオン電池の新興企業の創設者兼最高技術責任者を8年間務めた後、学界に戻った博士課程の学生Yaoは語った、

 Yaoの博士課程の共同指導教員は、この新しい研究の主任著者であり、STEERの共同ディレクターである、ドーア持続可能性学部のエネルギー科学工学科のプレコート・ファミリー教授であるSally Bensonと、工学部の材料科学、SLACの光子科学、ドーア学部のエネルギー科学工学の准教授であるWilliam Chuehである。

 「このナトリウム・イオン研究は、研究と投資を最も追求する価値のある技術ロードマップに導き、おそらく最も重要なことに、成功しそうにないロードマップから遠ざけるための新しい方法としてSTEERを立ち上げるのに最適な取り組みであった。」とBensonは語った。

 

ナトリウム・イオンのすべきこととすべきでないこと 

 特に、リン酸鉄リチウム電池と呼ばれる低コストのリチウム・イオン電池と価格競争するために、この調査ではナトリウム・イオン電池開発者にとっていくつかの重要な方法を強調している。最も重要なのは、重要な鉱物を使用せずにエネルギー密度を高めることである。具体的には、開発者はニッケルから離れながらリン酸鉄リチウム電池のエネルギー密度を目標にする必要がある。現在、主要なナトリウム・イオン設計のほとんどは、比較的高価な金属に依存している。

 「しかし、我々の主な目的は、価格が均衡すると予想される特定の年を予測くすることではなく、さまざまな市場シナリオが競合技術の実現可能性に与える影響を明らかにすることであった。」とChuehは述べた。

 「技術者や投資家としてデバイスが商業生産段階に達したら規模の経済によって価格が急落するとは必ずしも想定できない。確かに学習曲線は存在するが、ここでは曲線を定量化し、それだけでは十分でないことを示している。」とプレコート・エネルギー研究所所長でもあるChuehは述べた。「エンジニアリングの進歩は、単に生産規模を拡大するよりも、ナトリウム・イオン電池のコスト削減に大きく貢献するであろう。」

 研究者達はこうした進歩や新しい電池化学は一般的に追究する価値があると述べた。エネルギー省の2022年エネルギー貯蔵サプライチェーン分析では、送電網エネルギー貯蔵システムの技術を多様化することで、サプライチェーン全体の回復力を高めることができると指摘している。持続可能なエネルギーへの世界的な移行のためにより多くのエネルギー貯蔵が必要であるにもかかわらず、リチウム・イオン電池に大きく依存し続けることは、安全保障、経済、地政学上のリスクをもたらすであろう。例えば、この研究では、中国が世界の供給の90%以上を握っているリチウム・イオン電池に使用される重要な材料であるグラファイトに供給ショックが発生した場合に、ナトリウム・イオンの競争力がどのように加速するかをシミュレートしている。実際、中国は2024123日、アメリカへのグラファイトの輸出を大幅に制限し始め、他の3つの重要な鉱物の輸出も禁止した。

 この調査では、ナトリウム・イオンとリチウム・イオンの競争に悪影響を与える可能性のある市場要因とサプライチェーンの状況も特定している。例えば、リチウム価格が現在の歴史的な安値付近で推移した場合、ナトリウム・イオンが今後10年間に価格面で有利になる技術レートは限られる。

 「業界の専門家から学んだ重要なことの1つは、電池セルの価格は重要であるが、技術はシステム・レベルでしか成功しないと言うことである。例えば、電気自動車や送電網規模の電池エネルギー貯蔵システムなどであ。そのため、我々は現在、安全性のコストやその他のシステムに関する考慮事項の理解など、より総合的な視点を提供するために範囲を拡大している。」とYaoは述べている。

 

次の話題

 STEERはそのアプローチを他の技術分野にも適用し始めている。同社の研究者達は、前述のように見落とされがちな重要な鉱物であるグラファイトのサプライチェーンを調査している。業界幹部とエネルギー省のリーダーは、9月にワシントンD.C.で開催された円卓会議で適切な質問と回答についてアドバイスした。ワークショップには40を超える業界団体が参加し、鉱業会社から自動車メーカー、および超党派インフラ法の下で資金提供を受けているすべてのグラファイト製造業者に至るまでのバリューチェーンをまとめた。

 「STEERは、業界、政府、その他の研究機関の協力者のおかげで、エネルギー転換に貢献する可能性が最も高い道と、何の成果も生まない可能性が高い道を特定することができる。」とBensonは述べた。「我々のチームは、商業展開の経験、技術ロードマップ、システム思考を組み合わせている。」

 STEERチームは長期エネルギー貯蔵の技術ロードマップや、水素や産業の脱炭素化などの他のエネルギー転換分野の分析も計画している。