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海の力を活用する:ナトリウム・イオン電池の有望な未来

Harnessing the Power of the Ocean: The Promising Future of Sodium-Ion Batteries

By Japan Advanced Institute of Science and Technology

https://scitechdaily.com/     2024.06.04

 

研究者達は、新しい高機能密度ポリフマル酸バインダーを使用して、ナトリウム・イオン電池の硬質炭素電極の性能を向上させた。

 

 リチウム・イオン電池はエネルギー貯蔵の主要技術であるが、リチウムの入手性が限られていることが課題となっている。エネルギー貯蔵システムの需要が高まるにつれ、充電式電池用の手頃な価格ですぐに入手できる材料を見つける動きが高まっている。海水や塩の堆積物に含まれる豊富なナトリウム資源を利用するナトリウム・イオン電池は有望な代替品として浮上している。

 ナトリウム・イオン電池の長期サイクル安定性を向上させ、薄い固体電解質界面を実現するために、正極(カソード)、負極(アノード)、電解質の材料を改良する研究が数多く行なわれてきた。固体電解質界面は、初期の充放電サイクル中にアノード表面に形成される不活性層で、電解質との反応によるアノードの劣化を防ぐ。

 電池の性能には適切に形成された固体電解質界面が不可欠である。この文脈で、硬質炭素が有望なアノード材料として浮上した。しかし、電解質の消費量が増えることで、不均一で厚く弱い固体電解質界面が形成され、充放電の安定性と反応速度が低下するため、商品化は困難であった。これらの問題に対処するために、カルボキシメチルセルローズ塩、ポリアクリル酸誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーが使用されてきた。しかし、これらのバインダーはアノードでのナトリウム・イオンの拡散を遅くし、硬質炭素ベースのナトリウム・イオン電池の速度能力を低下させる。

 

JAISTでのブレークスルー

 これらの欠点を克服するために、北陸先端科学技術大学(JAIST)の松見紀佳教授と博士課程のAmarshi Patraは、ポリフマル酸バインダーを使用した硬質炭素アノードを開発した。彼等の研究結果は2024510日にJournal of Materials Chemistry Aに掲載された。

 ポリフマル酸の利点について、松見教授は次のように説明している。「従来のポリアクリル酸バインダーとは異なり、ポリフマル酸は主鎖のすべての炭素原子にカルボン酸が存在する高機能密度ポリマーである。これにより、ポリフマル酸は高濃度のイオン・ホッピング・サイトの存在によりナトリウム・イオンの拡散を改善し、電極に強力に接着することができる。さらに、ポリフマル酸バインダーは水溶性で無毒性であり、その前駆体であるフマル酸はバイオベースのポリマーである。」

 研究者達はポリフマル酸エステルの加水分解によりポリフマル酸を合成した。次に、硬質炭素、スーパーP炭素、ポリフマル酸を水中で混合して水性スラリーを形成し、これを銅箔に塗布して一晩乾燥させ、硬質炭素アノードを作成した。このアノードは対極としてナトリウム金属ディスク、電解質として1 M NaClO4とともに、アノード型ハーフセルの構築に使用された。

 研究者達は、電極部品と銅製集電体との接着に対するバインダーの効果をテストするために剥離テストを実施した。特に、ナトリウム・イオン電池の長寿命化には強力な接着が必要である。ポリフマル酸バインダーを含む硬質炭素電極の剥離力は12.5 Nであることが分った。これは、剥離力11.5 Nのポリアクリル酸硬質炭素電極や9.8 Nのポリフッ化ビニリデン硬質炭素電極よりも大幅に高い値であった。

 アノード半電池は、さまざまな電気化学および電池性能テストを受けた。充放電サイクル・テストでは、アノード半電池は、それぞれ30 mA/gおよび60 nA/gの電流密度で288 mAh/gおよび254 mAh/gの比容量を示し、ポリフッ化ビニリデンおよびポリアクリル酸タイプの電極よりも大幅に優れていた。また、優れた長期サイクル安定性を示し、250サイクル後も容量の85.4%を維持した。アノードは薄い固体電解質界面を形成し、亀裂形成や剥離は見られなかったため、ハーフセルの耐久性が向上した。さらに、ポリフマル酸硬質炭素電極のナトリウム・イオン拡散係数は1.9×10-13 cm2/sで、ポリアクリル酸硬質炭素およびポリフッ化ビニリデン硬質炭素電極よりも高かった。

 

今後の影響と結論

 これらの発見は、電気化学性能が向上したナトリウム・イオン電池の開発につながる可能性がある。将来を見据えて、松見教授は次のように述べている。「このポリマー材料では、さまざまなポリマー反応を通じてさまざまな構造変更が可能であり、これにより性能をさらに向上させることができる。将来的には、企業との共同研究を行なって実用化を目指す。さらに、耐久性を向上させる水溶性で無毒のバインダー材料としてナトリウム・イオン電池だけでなく、さまざまなエネルギー貯蔵デバイスにも適用できる。」

 全体として、この新しい材料は、ナトリウム・イオン電池をベースにした低コストのエネルギー・デバイスのより広範な使用につながり、よりエネルギー効率が高く、カーボン・ニュートラルな社会につながる。