ナトリウム・イオン電池が競争するには画期的な進歩が必要
Sodium-Ion Batteries Need Break-Throughs to Compete
https://www.sciencedaily.com/
Source: Stanford University 2025.01.13
多数の電池技術者とその支持者達は、年間500億ドルの規模で成長を続けるリチウム・イオン市場の一部を獲得したいと願って、長年、主流のリチウム・イオン技術よりも安価な電池の開発に取り組んできた。研究者、新興企業、ベンチャー・キャピタリストの間で最近、注目を集めているナトリウム・イオン電池は、COVID-19による鉱物サプライチェーンの課題でリチウムの価格が急騰したことで大きな注目を集めている。それでも、Nature Energy誌の新たな研究によると、ナトリウム・イオン電池が低コストの候補となるには数年かかる可能性があり、一連の技術進歩と好ましい市場条件が必要になるという。
ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオン電池に比べてコストが低く、サプライチェーンの回復力が高いとよく考えられている。大きな可能性を秘めているにもかかわらず、ナトリウム・イオン電池は依然として苦戦を強いられている。1ポンド当りのエネルギー貯蔵量は、リチウム・イオン電池よりも低い傾向にある。そのため、材料価格が下がる可能性は別として、貯蔵エネルギー単位当りのコストはナトリウム・イオン電池の方が高いままである。このため、研究のブレークスルーが先に達成されない限り、商業的な普及が制限される可能性が高いであろう。この研究では、進歩の最も豊かな分野が強調されている。これは、スタンフォード大学Doerr School of Sustainabilityのプレコート・エネルギー研究所とSLAC-Stanford Battery Centerの新しいパートナーシップによる最初の研究である。新しいプログラムであるSTEERは、新興エネルギー技術の技術的および経済的可能性を評価し、エネルギー転換に向けて「何を構築し、どこで革新し、どのように投資するか」をアドバイスしている。新しい研究では、ナトリウム・イオン電池の競争力に関するロードマップの堅牢性をテストするために、6,000を超えるシナリオを評価した。
「2022年に初めてリチウム・イオン電池の価格が上昇し、代替品が必要になる可能性があるという警鐘が鳴らされた。ナトリウム・イオンはおそらくリチウム・イオンの最も魅力的な短期的挑戦者であり、多くの電池企業がナトリウム・イオン製造の大規模な増強計画を発表し、現行の電池よりも低価格化への道筋を約束している。」と、この研究の主執筆者であり、アメリカエネルギー省内の3通常のオフィスの支援を受けて2023年10月に開始されたSTEERの創設者兼チームリーダーでもあるAdrian Yaoは述べた。
「ナトリウム・イオン電池がリチウム・イオン電池の価格を下回るかどうか、何時、どのように下回るかは、特にリチウム・イオンの価格が下がり続けていることを考えると、ほとんど推測の域を出ないことを認識していた。」と、現在は大規模な商業規模で電池を生産しているリチウム・イオン電池の新興企業の創設者兼最高技術責任者を8年間務めた後、学界に戻った博士課程の学生であるYaoは述べた。
Yaoの博士課程の共同指導教員は、新しい研究の主任著者であり、STEERの共同ディレクターであるDoerr School of Sustainabilityのエネルギー科学工学部のPrecourt Family ProfessorであるSally Bensonと、工学部の材料科学、SLACの光子科学、Doerr Schoolのエネルギー科学工学の准教授であるWilliam Chuehである。
「このナトリウム・イオン研究は、研究と投資を最も追求する価値のある技術ロードマップに導き、そしておそらく最も重要なことに、成功しそうにないロードマップから遠ざけるための新しい方法としてSTEERを立ち上げるのに最適な取り組みであった。」とBenssonは語った。
ナトリウム・イオンのすべきこととすべきでないこと
この研究では、特にリン酸鉄リチウム電池と呼ばれる低コストのリチウム・イオン電池と価格面で競争するために、ナトリウム・イオン電池開発者にとって重要ないくつかの方法を強調している。最も重要なのは、重要な鉱物を使用せずにエネルギー密度を高めることである。具体的には、開発者はニッケルから離れながらリン酸鉄リチウム電池のエネルギー密度を目標にする必要がある。現在、主要なリチウム・イオン設計のほとんどは、比較的高価な金属に依存している。
「しかし、我々の主な目的は、価格が均衡すると予想される特定の年を予測することではなく、さまざまな市場シナリオが競合技術の実現可能性に与える影響を明らかにすることであった。」とChuehは述べた。
「技術者や投資家として、装置が商業生産に達すると規模の経済によって価格が急落するとは想定できない。確かに学習曲線は存在するが、ここではこの曲線を定量化し、それだけでは十分ではないことを示している。」とプレコート・エネルギー研究所所長でもあるChuehは述べた。「エンジニアリングの進歩は、単に生産を拡大するよりも、ナトリウム・イオン電池のコスト削減に大きく貢献するであろう。」
研究者達は、こうした進歩や新しい電池化学は一般的に追究する価値があると述べた。エネルギー省の2022年エネルギー貯蔵サプライチェーン分析では、送電網エネルギー貯蔵システムの技術を多様化することで、サプライチェーン全体の回復力を高めることができると指摘している。持続可能なエネルギーへの世界的な移行のためにより多くのエネルギー貯蔵が必要であるのに、リチウム・イオン電池に大きく依存し続けることは、安全保障、経済、地政学上のリスクをもたらすであろう。例えば、この研究では、中国が世界の供給の90%以上を握っているリチウム・イオン電池に使用される重要な材料であるグラファイトに供給ショックが発生した場合に、ナトリウム・イオンの競争力がどのように加速するかをシミュレートしている。実際、中国は2024年12月3日にアメリカへのグラファイトの輸出を大幅に制限し始め、他の3つの重要な鉱物の輸出も禁止した。
この研究では、ナトリウム・イオンとリチウム・イオンの競争に悪影響を与える可能性のある市場要因とサプライチェーンの状況も特定している。例えば、リチウム価格が現在の歴史的な安値付近で推移した場合、ナトリウム・イオンが今後10年間で価格面で有利になる技術ルートは限られる。
「業界の専門家から学んだ重要なことの1つは、電池セルの価格は重要であるが、技術は電気自動車や送電網規模の電池エネルギー貯蔵システムなどのシステム・レベルでのみ成功すると言うことである。そのため、我々は現在、安全性のコストやその他のシステム上の考慮事項の理解を含め、より総合的な視点を提供するために範囲を拡大している。」とYaoは述べた。