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塩摂取量は死亡率とどのように関連しているか?

How Does Salt Intake Relate to Mortality?

By Paolo Spriano

Medscape   2022.09.09

 

 塩分の摂取は生物学的必要性であり、生理学的システムに密接に織り込まれている。しかし、過剰な塩分摂取量は高血圧に関連している。高血圧は心血管の罹患率と死亡率の増加に関連しており、塩分の過剰摂取量は世界中で年間約500万人の死亡を引き起こすと推定されている。塩摂取量を減らすと血圧が下がるが、加工食品には「隠れた」塩分が含まれているため、塩分の食事管理が困難である。この問題は、食料システムの不平等の拡大によって悪化し、塩摂取量の個々の食事管理を維持するための別のハードルを提供する。

 2019年の世界的な疾病、傷害、および危険因子研究に含まれる87の危険因子のうち、高い収縮期血圧は世界レベルでの疾病負荷とそれが人間の健康に与える影響の主要な危険因子として特定された。プライマリケア管理やナトリウム摂取量の削減など、様々な戦略が、この重大な危険因子の負担を軽減することが知られている。2つの質問は未回答のままである。:死亡率をと食品への塩の追加との関係は何か?そして塩摂取量の減少は人々の健康にどの程度影響するか?

 

心血管疾患と死

 食事でのナトリウム摂取量は心血管疾患や早死の危険因子として特定されているため、ナトリウム摂取量が多いと寿命が短くなることが予想される。ある研究では、181ヶ国でナトリウム摂取量と平均余命および生存率との関係を分析することにより、この仮説を検証した。ナトリウム摂取量は平均余命と正の相関があり、世界および高所得国では全死因死亡率と反比例し、食事中のナトリウム摂取量が寿命を縮めたり、早死の危険因子であったりすることに反対している。これらの結果は、ナトリウム摂取量、平均余命、および死亡率に関する科学的議論を促進させるのに役立つ。この議論では、正の線形、J字型、または逆線形相関の複合データを解釈する必要があり、この問題に関する不確実性を強調している。

 UK Biobank501,379人の参加者を対象とした前向き研究では、生活様式、社会経済的レベル、および既存の病気とは無関係に、早期死亡のリスクが高く、平均余命が短くなることを発見した。彼等は、正の関連が高カリウム食品(野菜・果物)の摂取量の増加と共に弱まるように見えることを発見した。

 さらに、研究者達は以下ことを観察した。

  原因別の早期死亡については、食品に塩を加える頻度が高いほど、心血管疾患による死亡とがんによる死亡リスクが高いことが有意に関連していることが分った。

  食品に常に塩を加えることは、食品に塩を加えなかった、またはほとんど添加しなかった参加者と比較して、女性と男性でそれぞれ1.50および2.28年の平均余命の低下と関連していた。

研究者達は食品(通常は食卓)に塩を加えることは一般的であり、塩辛い食品に対する個人の長期的な好みと習慣的な塩摂取量に直接関係していると述べた。確かに、西洋型食生活では、食卓で塩を加えることは総塩摂取量の6%から20%を占めている。さらに、一般的に使用される食卓塩には97%から99%の塩化ナトリウムが含まれており、カリウムを含む他の食事要因の潜在的な交絡効果を最小限に抑える。したがって、食品に塩を加えることは習慣的なナトリウム摂取量と死亡率透析中の関連を評価する方法を提供する。-2010年に心血管系の原因による合計165万人の死亡が1日当たり2.0 g以上のナトリウム摂取量に起因すると推定されていることを考えると、関連性がある。

 

塩感受性

 現在の証拠は一般集団における適度なナトリウム摂取量(35 g/d)の推奨を支持している。高血圧の人は、双方向の範囲の下限で塩を摂取する必要がある。一部の食事ガイドラインでは、14歳以上の人には1日当たり2300 mg未満の食事性ナトリウム摂取量を、213歳の人にはそれ以下を推奨している。短期臨床試験では低ナトリウム摂取量(2.o g/d以下)が達成されているが、長期臨床試験(6ヶ月以上)のいずれでも持続的な低ナトリウム摂取量は達成されていない。

低ナトリウム摂取量と血圧または心血管疾患との関係については論争が続いている。ほとんどの研究は、高血圧のある人とない人の両方で、ナトリウム量を減らすことで血圧が低下することを示している。しかし、ナトリウム量を減らす(3~5 g/d以下)ことによって必ずしも低下するわけではない。ナトリウムが豊富な食事では、ほとんどの正常血圧の個人は平均動脈血圧の最小限の変化を経験した。高血圧症の多くの個人では、値は約4 mmHg増加した。さらに、「塩感受性」の高血圧者では、ナトリウム摂取量が多いと動脈圧が10 mmHg以上上昇する可能性がある。

 

カリウムの効果

 通常の塩の塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置き換えると、塩の有害な心血管への影響の一部が軽減される可能性がある。確かに、ナトリウム量を下げ、カリウム量を上げた塩代替品は血圧を下げることが示されている。ある試験では、研究者は中国の農村部の600の村から2万人以上を登録し、通常の塩(100%塩化ナトリウム)の使用と塩代替品(質量で75%の塩化ナトリウムと25%の塩化カリウム)の使用を比較した。参加者は、脳卒中、心血管疾患、および死亡のリスクが高かった。追跡の平均期間は4.74年であった。結果は驚くべきものであった。脳卒中の発生率は、通常の塩よりも塩代替品の方が低かった。主要な心血管疾患の発生率はおよびあらゆる原因による死亡も同様であった。高カリウム血症に起因する重篤な有害事象の発生率は、通常の塩よりも塩代替物で有意に高くなかった。

 心血管系に対する塩の影響の程度については進行中の議論があるが、世界のほとんどの場所で、人々が、体が必要とするよりも多くの塩を摂取していることは間違いない。

 多くは、特定の人口が摂取する食事の種類に依存する。加工食品は、上記の試験に関与したような農村地域ではめったに使用されず、家庭で食事を準備する際に食事の塩化ナトリウムが追加される。これは心血管転帰に関する決定要因であるが、他の社会環境設定に一般化することはできない。世界の多くでは、市販の食品保存は食事に多くの塩化ナトリウムを導入し、ほとんどの塩摂取量は塩代替品の使用に完全に起因するものではなかった。実際、現在イタリア市場で販売されているシリアル・ベースの製品のナトリウム含有量を世界保健機関が提案したそれぞれのベンチマークと比較することにより、研究者はほとんどのアイテムについて、ナトリウム含有量はベンチマークよりも、特にフラット・ブレッド、発酵パン、クラッカー/セイボリービスケットで高いことを明らかにした。これは2025年までにナトリウム摂取量を世界で30%削減すると言う世界保健機関/国連の目標を達成するためにやるべきことがあることを示している。