塩代替物は脳卒中、心血管疾患および死亡で明らかな低下を示す
Salt Substitute Shows Clear Reduction in Stroke, CV Events, and Death
By Sue Hughes
Medscape 2021.08.29
通常の塩から低ナトリウム塩代替物に変えることは、脳卒中、心血管疾患および死亡の低下を含む大きな公衆保健利益を示している、と新しい画期的な研究は示している。塩代替物と脳卒中研究(SSaSS)は中国農村部で脳卒中または高血圧の病歴がある21,000人で行われ、彼等の半数は通常の塩の代わりに低ナトリウム塩代替物を使った。結果が示したことは、5年後に塩代替物を使用した人々は脳卒中で14%低下、重要な心血管疾患で13%低下、死亡で12%低下したことであった。これらの利益は明らかな悪影響なしに達成された。
この結果はオーストラリア、シドニーのジョージ世界保健研究所のブルース・ニール医学士によって8月29日に欧州心臓病学会(ESC)会議2021で発表された。それは同時にニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンにオンラインで発表された。「これはこれまで行われてきた最大の食事介入試験の1つであり、非常に簡単で低コスト介入で逆効果のなく脳卒中、心血管疾患、早死に対して非常に明らかな保護効果を持っている。」とニールは結論を下した。「これは非常に簡単に食事療法に取り組める。ほとんど同じ様に見えて味がする代替物と通常の塩を置き換えるだけである。」と彼は付け加えた。
ニールは、これらの結果が他の集団に一般化できるかどうかの問題に対して「結果は塩を食べる全ての人々に関連すると信じている。」と述べた。「重症の腎疾患者を除いて、ほとんど全ての人々は塩を避けるか、塩代替物に変えて、この利益を期待すべきである。」
ESC会議のコメンテイターはこの研究を「素晴しい」と称賛し、「並外れた」結果と「非常に強力な関係」を示した。イギリス、ロンドン大学の高血圧専門家であるブライアン・ウィリアムズ医学博士は指定された討論者として「多分、我々が目にする公衆衛生に関して最も重要な研究」であった、とSSaSSを評価した。「その様な簡単な介入で驚くべきこと」として脳卒中、心血管疾患、および死亡の低下を彼は述べた。
ウィリアムは付け加えた:「減塩の利益を疑った人々は、今や自分達が間違っていたことを認めなければならない。これで論争は終わる。データはある。これらの結果を実行するために世界保健介入を今すぐ始めなければならない。」彼はまた、結果で多くの事を強調した。「これは危険性の高い集団を対象とした大規模で実用的な長期間研究であり、5,000件の心血管疾患を取り扱ったことで、利益を示す大きな力が得られる。」
ESCセッションの議長、イギリス、オックスフォードのジョン・ラドクリフ病院のバーバラ・カサデイ医学博士は言った:SSaSSは「我々が塩について考える方法を変え、今後何年にもわたって記憶されるだろう。」
ミシガン大学医学部アン・アーバーのバートラム・ピット医学博士は研究全体の全てのサブグループで利益が見られたことに留意し、糖尿病患者に見られる脳卒中の減少に特に興奮し、新しい糖尿病薬の幾つかの最近の試験は脳卒中の減少を示せなかったことに注目した。「糖尿病患者のためには、これは本当に重要な介入である。」と彼は述べた。しかし、NEJMの出版物に付随する論説はESCのコメンテイターよりも研究に対してやや熱狂的な反応を示さなかった。
医学誌の副編集長であるジュリー・R・インゲルフィンガー医学博士は、カリウム量の連続モニターリングは試験で実施されなかったことを指摘し、したがって、高カリウム血症の発現が検出されなかった可能性があり、高カリウム血症に関連する可能性のある病歴のある人は研究されていない。塩代替物が家族に配布されたので、危険因子のない世帯員に関するデータを持っていることは有益であったであろうが、そのようなデータは得られなかった、と彼女はまた述べている。「結局、SSaSSはいくつかの興味深いヒントを提供するが、一般化の可能性が限られているため、より広い有効性を予測することは困難である。」と彼女は結論付けている。
クラスター・ランダム化試験
脳卒中の病歴があるか、60歳以上で高血圧が管理されていない中国農村部の600の村から20,,995人を対象とした非盲検クラスター・ランダム化試験がSSaSSであった。重症の腎疾患歴のある患者とカリウム補給剤またはカリウム保持性利尿剤を服用している人々は除かれた。彼等は介入グループに1:1の比率でランダムに割り当てられ、そこでは参加者は塩代替物(約75%の塩化ナトリウムと25%の塩化カリウム)を使うか、または通常の塩(100%塩化ナトリウム)を使い続ける参加者であるコントロール・グループであった。
結果は、平均4.74年間継続後に収縮期血圧が塩代替物グループで3.3 mmHg低下したことを示した。主な終点である脳卒中率は塩代替物グループの29.14件/1000人・年対通常の塩グループの33.65件/1000人・年であった。主要な心血管疾患率は塩代替物グループの49.09件/1000人・年対通常の塩グループの56.29件/1000人・年であった。そして死亡率は塩代替物グループの39.28件/1000人・年対通常の塩グループの44.61件/1000人・年であった。高カリウム血症に起因する重篤な有害事象率は通常塩よりも塩代替物で有意に高くなかった(3.35件対3.30件/1000人・年)。
コントロール・グループの7%から8%が研究期間中に塩代替物の使用を開始した、とニールは報告したため、塩代替物への切り替えの真の効果を過少評価している可能性がある。
中国では毎年約1,000万件の心血管疾患が発症していることを指摘し、研究結果は通常の塩の代わりに塩代替物を使用することで、これらの疾患の約10%を防ぐことが出来ることを示唆している、と述べた。
食品製造者は変化しなければならない
研究の限界は、それが一ヶ国で実施されたという事実であり、それは一般化の可能性の問題を提起するであろうことをニールは認めた。しかし、その結果は他の集団にも一般化できる、彼は信じている。塩代替物へ切り替えて最も利益を得た人々は大量の塩(食品の保存や味付けのために調理時に家庭で添加される塩)を自由に摂取していた人々である。「これは塩代替物に容易に置き換えられる塩である。」とニールは述べた。「世界中には塩摂取量の50%以上を自由に摂取できる (主に発展途上国で) 塩として摂取している50億人以上がいる。これらの人々は塩代替物に切り替えることにより大きな健康利益を得ると期待されている。」
塩代替物は低コストで容易に製造できることを彼は指摘した。「塩代替物は通常に塩よりも約50%以上高くなるが、これは、切り替えを行うために一人当たり年間わずか1,2ドルに相当する。」結果は高収入諸国にも当てはまると考えているが、これらの国のほとんどの塩は加工食品に由来するので、政府や食品製造者が実施する必要がある、とニールは信じている。「本研究は食品業界が取るべき強いエビデンスを提供している。」と彼は結論を下した。「我々は食品製造者が塩代替物を使うことに切り替え、塩代替物製品がスーパーマーケットの商品棚で幅広く利用できるようにしたい。我々はまた、通常の塩の代わりに塩代替物の使用を促進させるように行動を起こすことを政府に促す。これは、通常の塩または塩代替物の使用に対する補助金に課税するという形を取れる。」