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ナトリウム摂取量と慢性腎臓疾患の進行

Sodium Intake and Progression of Chronic Kidney Disease

By Michel Burnier

Medscape   

Disclosures Nephrol Dial Transplant 2021;36:381-384

 

要約とはじめに

はじめに

 2017年の世界疾病負荷、傷害、および危険因子の調査によると、慢性腎臓疾患は世界人口の9.1%に影響を及ぼし、ステージ1とステージ12が慢性腎臓疾患の50%以上を占める。年齢調整疾患率は男性(7.3)よりも女性(9.5)の方が高い。さらに、慢性腎臓疾患発症は社会人口学的状況に応じて、世界の様々な地域で非常に不均一であり、社会経済的発展が遅れている国では病気の負担が大きくなる。虚血性心疾患や脳卒中のような他の多くの非感染性疾患とは対照的に、慢性腎臓疾患に関連する年齢調整死亡率は過去10年間で大幅に低下しておらず、慢性腎臓疾患は依然として世界および心血管死亡の主要な原因である。上述した調査で、特定された慢性腎臓疾患の危険要因は空腹時血糖異常、高血圧、高い体格指数、ナトリウムと鉛の多い食事であった。高ナトリウム摂取量は2017年の慢性腎臓疾患障害調整生存年の年齢調整標準化率の9.5%を占めた。

 高ナトリウム摂取量は幾つかの病態生理学的機構を通して腎機能に悪い影響を及ぼす。主要な影響は疫学研究と同様に介入研究で繰り返し示されているナトリウム誘因性の血圧上昇である、例えば、ナトリウム摂取量が多くなるほど、血圧は高くなる。実験的に高塩食は幾つかの高血圧モデルで心血管と腎臓損傷を悪くし、高血圧は腎疾患患者で腎機能低下の重要な決定因子である。塩感受性高血圧者で、高塩摂取量は腎結果の別のマーカーである糸球体内圧と尿中アルブミン排泄量を増加させる。しかし、ナトリウムも腎機能に悪い影響を及ぼす血圧非依存性効果を持っている。事実、高ナトリウム食は末梢交感神経緊張を強化し、酸化ストレスと炎症を増加させ、内皮機能不全と血管硬化を引き起こし、そしてトランスフォーミング成長因子βの活性化による組織線維症を促進させる。高血圧患者と慢性腎臓疾患患者の皮膚と筋肉におけるナトリウム蓄積に関する最近の検察により、ナトリウム、高血圧、慢性腎臓疾患を含む標的臓器損傷の発生との関係について追加の仮説が生まれた。

 

慢性腎臓疾患でナトリウム摂取量を低下させることの利益と危険は何か?

 塩摂取量は修正できる危険因子である。このため、高塩摂取量による腎臓への悪い影響はナトリウム摂取量の修正で予防すべきである。事実、ナトリウム摂取量の低下は、コクラン・レビューとランダム化された臨床結果の最近のレビューで確認されたように、様々な慢性腎臓疾患のステージの患者で血圧とアルブミン尿を下げるために繰り返し示されてきた。良い事例はLowSALT CKD研究で、二重盲検、偽薬対照ランダム化交絡試験で、高血圧と慢性腎臓疾患ステージ34の成人患者20人で、高ナトリウム摂取量(平均尿中ナトリウム168mmol/d)対低ナトリウム摂取量(平均尿中ナトリウム75mmol/d)の影響を調査した。血圧は低ナトリウム食と高ナトリウム食で有意に低く、平均差は収縮期血圧で-9.7mmHg、拡張期血圧で-3.9mmHgであった。タンパク尿とアルブミン尿も低ナトリウム食で有意に低下したが、2つの塩食で動脈硬化の指標に有意差は見られなかった。残念ながら、この研究は腎疾患の進行に関する関連情報を得るためにはあまりにも小規模、期間であった。

 慢性腎臓疾患患者でナトリウム摂取量を低下させることの他の臨床利益は、糖尿病性腎症と非糖尿病性腎症の両方でレニンーアンジオテンシン系(RAS)のブロッカーに対する血圧とアルブミン尿応答の強化である。この点で、塩摂取量低下は2つのRASブロッカーを組み合わせるよりも効果的で、ヒドロクロロチアジドとジルチアゼムの抗タンパク尿効果も強化したが、ニフェジピンは強化しなかった。アンジオテンシンⅡ拮抗薬のロサルタンおよびイルベサルタン糖尿病性腎症試験による非インシュリン依存性糖尿病におけるエンドポイントの減少の事後解析で、Lambers Heerspinkらは低ナトリウム摂取量の下3分位に所属する慢性腎臓疾患患者で腎臓と心血管疾患発症の危険率の有意な低下を報告した。しかし、アンジオテンシン受容体ブロッカーに無作為に割り付けられた患者でのみ利益が観察された。

 一般的に5 – 6 g/dの減塩は重大な健康リスクに関係ない。減塩食で最も頻繁に報告される2つの有害事象は起立性低血圧と腎機能の悪化である。しかし、臨床試験で、これらの副作用は追跡に失敗した患者の増加をもたらさなかった。2 g/d以下のナトリウム摂取量(すなわち、5 g/d以下の塩)は高血圧患者で心血管疾患発症の危険率増加と関係しているかもしれないことを韓国の1調査が示唆したが、この結果は総合レビューで確認されなかった。そのレビューは心血管疾患で減塩の悪い効果の証拠を報告しなかった。1型糖尿病患者と流行している心血管疾患で、低ナトリウム摂取量は1つの研究で心血管疾患進行の高い危険性を関係していたが、1型糖尿病はナトリウム摂取量と腎機能低下との関係の点で心血管疾患の他の原因とは異なっているかもしれない。

 

塩摂取量と心血管疾患進行:進行中の論争

 心血管疾患患者の減塩が血圧やタンパク尿を絶えず下げ、その様な低下が長期間維持されれば、これは心血管疾患や腎疾患発症と透析や腎臓移植の必要性で臨床的に有意な低下をもたらすと解釈すべきである。しかし、明らかなことを示すのはかなり困難である。したがって、厳しい終末点に及ぼす減塩の影響をテストするコクラン分析の著者らは、死亡や末期腎臓疾患への進行のような基本的な終末点に及ぼす直接的な影響を決定できないことを意味する心血管疾患患者で減塩の長期間影響に臨床的な証拠のギャップを見つけたと言って自分達の評価を締めくくった。それにもかかわらず、証拠がないにもかかわらず、全ての国際社会は血圧とアルブミン尿に及ぼす好ましい影響に基づいて、心血管疾患患者に5 - 6 g/d以下の塩摂取量を推奨している。

 主な問題は、心血管疾患でナトリウム摂取量を下げることの利点の証拠は表1(省略)に要約されている専用のランダム化比較試験からではなく、前向きまたは後ろ向き観察研究またはランダム化比較試験の事後分析からのみ得られると言うことである。示されているように、低ナトリウム食の利点は選択された集団、例えば、一般集団対偶発的心血管疾患患者、初期対後期心血管疾患段階、および糖尿病性腎疾患対非糖尿病性腎疾患に応じて異なるようである。最もポジティブな結果は実際に偶発性心血管疾患患者で得られた。心血管疾患患者の終末結果について前向き多センター長期的韓国Nコホート研究のデータに基づいてKangらはNephrology Dialysis Transplantationの今月号でこれらの研究の1つを発表した。彼等は心血管疾患段階3a – 51,254人の患者データを解析した。主な腎臓の結果は推定された腎糸球体ろ過量の半減と末期腎臓疾患発症のいずれかであった。彼等は1回の24時間尿収集を使ってナトリウム摂取量を推定した。平均追跡期間は4.3年であった。著者らは測定した24時間尿中ナトリウム排泄量と複合腎症結果の危険性との間に直線関係を発見したが、104 mmol/d以下のナトリウム排泄量の最低四分位数で末期腎臓疾患の危険率増加についての証拠はなかった。彼等の結果は同じコホ-トで行われた前の観察を確認したが、より大きな試料数では、上昇した尿中ナトリウム:カリウム比の患者で心血管疾患進行の高い危険率を示した。高ナトリウムの有害な影響は60歳以下のサブグループ、女性および推定された腎糸球体ろ過率が低い女性、管理されていない高血圧、肥満、レニンーアンジオテンシン系ブロッカーの使用または利尿剤の使用で特に顕著であった。アジア人口の前向き観察研究からのこれらの結果は心血管疾患患者の高いナトリウム摂取量と関係した腎臓危険性を確認し、低ナトリウム排泄量患者で増加した腎臓危険性をサポートするものではない。

 末期腎臓疾患の進行に及ぼす低ナトリウム排泄量の悪影響を実証する研究にしばしば起因する1つの批判は、高い危険率の患者はナトリウム摂取量を意図的に制限し、低ナトリウム排泄量と有害な影響の危険率増加(逆因果関係)との間に誤った関連性をもたらす可能性がある。これまでのところ、これを実証することは困難であった。Kangらによって発表されたデータはその点で興味深い情報を提供している。事実、補足資料に示されているように、104 mmol/d以下の24時間尿中ナトリウム排泄量患者のパーセントは末期腎臓疾患段階3a3bでよりも段階52倍高い(1)。この観察結果は、慢性腎臓疾患患者の尿中ナトリウム排泄量の低下に関連する明らかな危険率増加のもっともらしい説明として、逆因果関係の仮説に追加の信用を与える。したがって、低ナトリウム排泄量は、慢性腎臓疾患が末期腎臓疾患に進につれて、患者は発色反応なり食べなくなるか、あるいは栄養に関する推奨事項を遵守するかのいずれかである事実を反映しているかもしれない。その結果、これにより透析プログラムを開始する危険性が非常に高い患者のナトリウム摂取量と排泄量が少なくなる。

 

    図1 慢性腎臓疾患段階に関連して測定された24時間尿中ナトリウム排泄量の分布

 

ナトリウムと慢性腎臓疾患の進行に関する前向きランダム化介入研究の時が来たか?

 慢性腎臓疾患の進行を遅らせるために減塩の妥当性に関する進行中の議論は、食事中のナトリウムと心血管疾患発症、脳卒中および集団の死亡に関する長期にわたる論争と同じ問題、すなわち、根拠のあるランダム化比較試験で将来の結果に基づくにデータの欠如に直面している。心血管疾患分野で、幾つかの国内および国際社会がランダム化比較試験を求めているが、多くの科学者達はこの試験を適切な条件で実現することは不可能であると考えている。専門家達によって引き起こされた主な問題は、ナトリウム摂取量の削減を6ヶ月以上維持できないことと、適切に管理された環境を見つける必要がある。腎臓学の社会では、科学者社会は塩と慢性腎臓疾患進行に関するランダム化比較試験を求めていないが、ランダム化比較試験に基づくデータの必要性はこの話題に取り組む全てのメタアナリシスと系統的レビューの結論である。問題は、ナトリウム摂取量と腎疾患の進行に関するランダム化比較試験の設定が、心血管疾患の罹患率と死亡率に対する減塩の利点を実証する一般集団での試験を組織するのと同じくらい難しいかどうかである。多分、難しくない!根拠のあるランダム化比較試験で将来の結果は、このカテゴリーの患者の進行率が高いことを考量に入れて、十分な統計的検出力を備えた慢性腎臓疾患段階3および4の患者で実施できる。しかし、このランダム化比較試験はベースライン時および試験中の24時間尿中ナトリウム排泄量の複数の測定、食事の遵守を支援するための栄養士の関与、糸球体ろ過量および血圧(24時間歩行時血圧測定)測定の正確で信頼できる方法の使用など高い方法論的基準に従う必要がある。さらに、ランダム化は年齢、性、高血圧、アルブミン尿および根底にある腎疾患(糖尿病患者のパーセント)について層別に分類すべきである。他の栄養素、特にカリウムとタンパク質の摂取量はナトリウムと相互作用し、慢性腎臓疾患の進行にも影響を与える可能性があるため、分析に含める必要がある。最後に、薬物療法と慢性腎臓疾患合併症(高血圧、貧血、アシドーシスなど)の管理、および心血管疾患の最悪な終末に関するデータを試験中に収集する必要がある。これは複雑な設定のように見えるが、本当に不可能な作業か?もちろん、1つの重要な問題は財政支援であるが、その様なプロジェクトは腎臓財団にとって魅力的でなければならない。ランダム化比較試験には、患者を試験に登録するために世界中の幾つかの国で現在実施されている多数の大規模な慢性腎臓疾患コホ-トを含める必要がある。既に利用可能な研究の長いリストに新しい観察分析または事後分析を追加しても、問題が解決することはない。したがって、腎臓学における塩の論争を止め、ランダム化比較試験を設定することによって不可能を現実にする時が来た。